第5話 鬼、カードを拾ってみんとす。
「むむむっ! 小鈴よ、これ何かのう!」
「まさか、本当に
現在の室内は常夜灯のような灯りで照らされており、ランタンの明かりが無くてもある程度は明るくなっている。どうやら、扉を潜った際に真っ暗だったのは本当に殺人道化師の力によるものだったらしい。
とはいえ、常夜灯の明かりと同程度というのはそこまで明るいものではない。小鈴は大竹丸の手元に明かりを向けて、大竹丸が拾った物をためつすがめつして眺める。
「なんだろうね、これ? カード?」
「殺人道化師のクレジットカードじゃと!? しかも、ブラックなんて使いたい放題じゃな!」
「ダンジョンのモンスターがクレジットカードなんて落とすわけ無いよ! 現実を見て! タケちゃん! 目が¥マークになってるよ!」
事実、それはクレジットカードではなかった。カード番号も無ければ、デザインも既存のカードとは大きく違ったものだったからだ。そもそも前面が真っ黒で何も書かれていない。
「むぅ、結局、何なんじゃこれは。何も書かれていないではないか……」
大竹丸がカードをいじくり回すのにも飽きたのか、カードの表面を指先で何度も叩く。だが、それが功を奏したのか黒いカードの表面に『Adventurer card』なる文字が浮かび上がっていた。
「む。これはカードではなく端末であったようじゃ」
スマホの起動画面にそっくりな表示を見て、大竹丸はそう結論付ける。恐らくは、文字も会社のロゴのように捉えたのかもしれない。
「え! どうやったの! どうやったの! タケちゃん!」
「なんか沢山指で叩いていたら出たのう」
「トリプルタップかな? あ、こっちも起動した! トリプルタップっぽいね! ……って、これ!」
そこで、小鈴はようやく気付く。
「これ、冒険者カードだよ! タケちゃん!」
何っ、と驚いてから大竹丸は眉をひそめる。
「なんじゃそれは?」
「なんで、ゲームとか漫画に詳しいのに冒険者カード知らないの!?」
「いや、そんなこと言われてもじゃな……。待て、小鈴! このカードに何か書いてあるぞ!」
「だから、冒険者カードとして、冒険者としての情報が書いてあるんだよ!」
尚、二人のカードに記載してあった情報は以下の通りだ。
【名前】タケちゃん
【性別】女
【職業】無職
【戦闘力】SSS
【ランク】1位
【DP】288,964
【名前】小鈴
【性別】女
【職業】学生
【戦闘力】C
【ランク】11位
【DP】11,036
「おぉ! 一位ではないか! 何だか良く分からんが、二位や三位よりはマシじゃろう! 何だか良く分からんが!」
「ランク十一位!? ええ、何のランクなの!? もしかして、ダンジョンに潜っている階層数による順位? 昨日からダンジョンが出来始めたから、まだあんまり潜っている人がいないからこの順位とか? でも、それだと同じ階層のタケちゃんと差がつくのはおかしいよね……。なんだろう、これ? ヘルプ機能とかないのかな? あ、タケちゃん! このカード、まだ色々機能ありそうだし、ちょっと調べてみようよ!」
「ふむ。面白そうじゃ。やってみよう」
かくして、二人がカードをいじくり回して判明したことは以下だ。
①名前欄を長押ししながら、名前を言うと名前が変更出来る。
②名前以外の欄を長押しすると公開、非公開が選べる。非公開だと自分以外の人間はカード内容の該当欄を確認出来なくなる。(自分には見える)
③戦闘力は武装を含めてのもの。(小鈴が小通連を手離したら、一気にGランクにまで戦闘力が下がった)
④ランクは戦闘力のランクではない。(小鈴の戦闘力がGにまで下がったが、ランクは変動しなかった)
⑤DPの欄をタップしたら、画面が移り変わってオンラインショップのような画面になった。そこで物を買ったら空間に箱が現れてゲット出来てしまった。
★
「おぉっ! 新品のジャージよ! ひしっ! もう離さないからのう~! うりうり~!」
「これ、結構とんでもないことじゃないのかなぁ……」
DPを消費して買ったジャージを力強く抱き締める大竹丸の前で、開けっ放しの段ボール箱が光の粒子となって消えていく。
果たして、どのような理が働いているのかは分からないが、DPショップではありとあらゆるものが商品として売られているようだ。それをDPを消費して買えるらしい。
その商品種別は多岐に渡り、食品、衣料品は勿論のこと、小鈴がさっと流し見たところではミサイルやら戦車やらが普通に掲載されている。これらもDPさえ払えば、普通に買えてしまうらしい。勿論、ミサイルや戦車はそう簡単には買えない程の高額ポイント商品となっていたが、逆に言えばそれだけなのである。
つまり、ポイントさえあれば誰でも軍事兵器が買えてしまうということであり、これは国防上……いや、色んな意味で危険極まりない機能なのであった。そして、実際にポイントで買える存在が小鈴の目の前にいる。
「うむ。早速着替えよう! 小鈴よ、ちょっと待っておれ!」
大竹丸の生着替えから視線を逸らしながら、『まぁ、買える人があんな感じなら平気かなー?』と益体もないことを考える小鈴。ざっとカタログを流し読みしながら、彼女はこのDPショッピングの有用性について考えていた。
「うーん。これってダンジョン探索の間に食事をしたりとか、ちょっとジュースを買って休憩するとかには便利だよねー。ちょっと試してみよっと。これをカートに入れて、ポチッとな」
DPを支払って、小鈴もペットボトルの飲み物を注文する。これぐらいだと段ボール箱は必要ないというのか、小鈴の目の前に光と共にペットボトルが直接現れる。それを慌てて掴みながら、ペットボトルの蓋を開けて投げ捨ててみると、蓋はそのまま光の粒子となって宙空に消えていた。中身も少し溢してみたが、やはり光の粒子となって消えていく。何とも不思議な感じだ。
「ペットボトルの材料も中身も普通じゃないのかな? 飲んで大丈夫かな?」
一抹の不安はあれども、好奇心を抑えることは難しく、小鈴は意を決してコクリと喉を潤す。それがなんとまぁ、嬉しい誤算とはこのことか。
「美味しい!」
まさかの美味である。小鈴が選んだのは聞いたことのないメーカーの炭酸ジュースであったが、抜けるような爽やかさと喉越しに加え、濃い果実の甘味が舌を刺激する。柑橘系の果実を使っていることは分かるのだが、それが一体何であるのかは判然としない。ただひとつ言えるのは文句なしに美味いということであった。水分の抜けた身体に命の水かと思うぐらいに水分が沁み渡るのを感じる。
尚、謎の炭酸ジュースのお値段は180DP。ダンジョン価格を感じるお値段である。
「あ、小鈴! 何飲んでいるのじゃ! 妾も毒ペが飲みたいぞ!」
『毒にも薬にもならないペースト状の何か』という名前の清涼飲料水、通称毒ペ。万人受けする味ではないのだが、何故かコアな愛好家が複数存在する不思議な飲み物である。
ちなみに大竹丸もその一人だ。家には箱買いの物が常備されているので、その愛好家魂は本物であろう。
「毒ペあったかなぁ? とりあえず危険も去ったことだし、タケちゃん、一度休憩にする?」
「うむ、苦しゅうない!」
DPショッピングを色々と楽しみながら、二人は束の間の休息を取るのであった。
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