第67話 チタの教会武術士

■ 皇都州 チタ聖教会前 広場  

~第6次派遣1日目~


タケル達を4人の男が囲んでいる。

腰に巻いた紐と一人が帯びている剣をみると、教会の人間だろう。


「この石がどうかしましたか?」


タケルは石をマリンダから受け取って、剣の男に見せた。


「それは、聖教石だな。しかも、加工がしてあるようだ。聖教石は全て教会の管理下にあるものだ。お前が持っていて良いものではない」


(お前呼ばわりはこの世界で初めてだな)


「こちらの方は・・・」


前へ出ようとしたマリンダを押しとどめた。


「私はスタートスの勇者です、この石はスタートスのノックス司祭に許可をいただいて持っています」


「勇者? スタートス? そんな話は聞いていない」


「あなたが知らないのは仕方ないでしょう、私達は教皇が呼んだのですから。それより、あなたたちは誰ですか?初対面にしては、かなり失礼ですけど」


「教皇?・・・、いや、私はチタの教会武術士のライナーと言うものです。失礼があったならお詫びしますが、しかし、何か身分を証明できるようなものをお持ちでは無いでしょうか?」


「証明できるもの? それは特に持ってないですね。この教会に司祭は居ないのですか?」


「いまは、皇都に出かけられておりますが、今晩中にはお戻りになります」


(魔法を見せて、びびらせても良いが・・・)

(こいつらに手の内は見せない方が良いな)


「では、どうしようもありませんね。ですが、お疑いのようですので明朝に司祭へ会いに来ましょう。私はスタートスの勇者タケルです。こちらは、お世話になっている教会魔法士のマリンダさんです」


「・・・わかりました。今日はこの町へお泊りなのですね?」


「ええ、これから宿を探してきます」


(隣のマリンダが見つめる目線が痛い)


「ならば、教会で宿をご案内させていただきましょう」


(なるほど、監視したいんだな)


「そうですか、ありがとうございます。二部屋取れる宿をお願いします」


(隣のマリンダが目をそらした・・・)


ライナーが案内した宿は、大通りを戻ってから一本奥に入ったところにあった。

木造の2階建てで1階は受付とテーブルが3つあるだけの作りだ。

宿泊は1部屋小銅貨2枚(約2,000円)だった。


そのまま、二人でタケルの部屋へ入った。


「ここから、スタートスに戻ろうと思います」


「この宿では泊まらない・・・、のですか?」


(悲しそうな顔をしないでください、俺のほうが・・・)


「ええ、このまま泊まると大変なことになると思いますので」


「?」


(ナカジーとの亀裂が修復できないからね)


タケルは内開きになるドアの下へ、聖教石を突っ込んで扉が開かないようにした。


5本の光聖教石を部屋の床へ並べ、マリンダを抱き寄せる。


「ジャンプ」


■スタートス聖教会 宿舎食堂


マリンダとは教会の転移の間でキスをして別れた。


(オフィスラブってこんな感じなのかな)


食堂に戻ると、ちょうど料理が並んだ状態でメンバーが揃っていた。


「遅い! 何やってたのよ!」


「人助けだね」


3人にチタでの出来事を説明した。


「じゃあ、チタの聖教会は俺たちのことを知らないってことッスか?」


「うん、チタだけでなく、教会の人だからと言って、全員が知ってるわけじゃ無いみたいだね」


「ふーん。じゃあ、ここの人たちはやっぱり良くしてくれているのよね」


「そうだと思うよ、やっぱり自分達の勇者って言う、誇りがあるんじゃない?」


アキラさんが頷いている。


「それで、予定を変更して明日は全員でチタに行って、そのまま皇都へ向かうことにする」


3人とも笑顔になった。

訓練だけだと飽きてくるのだろう。

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