第65話 ナカジーの説教

■スタートス聖教会    ~第6次派遣1日目~


意気揚々と帰って来たタケルを迎えたのは、鬼の形相のナカジーだった。


「ちょっと、来なさいよ!」


そのまま、宿舎裏の井戸端へ連れて行かれた。

ダイスケは俺たちを見て、剣の練習へ自発的に行ってくれた。


「どうしたの?」


「どうしたのじゃないでしょ! あんた、マリンダに何かしたんじゃない?」


(心当たりはあるが、一旦とぼけるか)


「いや、何もしてないけど。どうして?」


「アンタと二人で皇都に行く話してるときのあのの顔は完全に恋する乙女だったわよ! 『タケル様と二人っきりで・・』って言って、嬉しそうに頬を染めてんのよ!」


「この間来た時は、そんな感じじゃなかったでしょ! 私が居ない間に、絶対何かあったでしょ!」


(いつかは話さないといけないし、まあ良いか)


「何があったって言うか、お互い好きだってことを確認したからね」


「好き・・って、アンタが告白したの!?」


(信じないかも知んないけど)


「いや、どっちかと言うとマリンダじゃない? 俺はずっと我慢してるからね」


「なによ、それ! なんか高校生の純愛みたいなこと言って! 変な事はしてないでしょうね!」


(どこまでが、変な事?)


「そこは、今のところ我慢してます。プラトニックな恋なので」

 

(チューしちゃったけど)


「今のところって! 駄目よ、私達はずっと居る訳じゃないんだからね!」


「そうなんだけどね~、あれ程の美女が俺のことを好きっていうのに、ねぇ?」


「もういいわ! 勝手にしなさい! 一応、注意したからね!後は自分で責任取んなさいよ!」


お怒りのまま、立ち去って行きました


(ナカジーの言うとおりなんだよな)

(だが、理屈だけでは動かんのですよ)


■西方州都 ムーア  レンブラント商会


怒れるナカジーをスタートスに置いて、タケルとマリンダはムーアへ転移魔法でやってきた。


レンブラントに馬車と船の手配を頼んである。


ダイスケに借りた時計だと9時前だから、順調なら川を下ったチタと言う町に夜までに着くはずだ。

チタの町から皇都までも馬車で1日だから、明日の夜には皇都に入りたい。


レンブラントは荷馬車ではなく、人が乗る6人乗りの馬車を用意してくれていた。

中にはソファーのような3人掛けの椅子が向かい合っている。


船が出るシモーヌ大橋までは、この馬車なら1時間ぐらいらしい。

乗るのは、タケルとマリンダだけで、隣り合って座った。


ナカジーが言うとおり、マリンダの態度はあからさまだった。


(クールな美女だとばかり・・・)


タケルと一緒にいる間は、片時も離れようとしない。

レンブラントの前で、少し恥ずかしいぐらいだった。


いまも、馬車に揺られながら手をつないでタケルを見つめている。


(これで、変な事するなって言われても・・・)


タケルの我慢はマリンダにまったく届かないようだ。


「マリンダは、どんな見た目の男性が好きだったの?」


「見た目? ですか? 見た目の好き嫌いはありません」


(おぉ、だから俺を? ってチョット凹むな)


「男性は中身でしか好き嫌いにはなりませんので、ですからタケル様のことをお慕いしております」


(それは、喜ぶべきか悲しむべきか・・・)


「そうなんだ」


「タケル様は私のどこを好きになってくださったのですか?」


(しまった! 余計な会話だった!)


「そうだね、今のところは全部かな」


「!」


マリンダはタケルの手を強く握り肩に寄りかかって来た。


「私もタケル様の全てが大好きです」


(これは、魔竜討伐どころじゃないかもな)


馬車は揺れながら、シモーヌ大橋へ到着した。

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