第57話 ボルケーノ鉱石再挑戦 後編

■ボルケーノ火山 洞窟内  ~第5次派遣2日目~


大イノシシをアキラさんの右一撃でやっつけた後も、洞窟内は単調だった。

分岐点はまったく無い。


ところが、そろそろ帰る時間で洞窟が行き止まりになった。


「なんスか? これ。ここまで来て、空振りって」

「まあ、ダイスケ君。ぼやかないでよ。いつも正解がある訳じゃないからさ」


突き当たりは少し広くなっているが、見逃した小さい穴等は無いようだ。

壁に鉱石が無いか、3人で手分けしてランプを近づけて確認するが、タケルは鉱石を見つけられなかった。


「ここ」


アキラさんが、小さな声で呼んでいる。

指差す先を見ると、壁の一部が石で積み上げられたようになっている。

幅1メートル厚さ5cmぐらいの天然の石が30枚ぐらい重なっているように見える。


「これ、自然じゃないッスよね」

「間違いないね。こんな風に同じ幅で積み上がることは無いんじゃない。アキラさん、よく気がつきましたね」


剣や槍の先で石の隙間に突っ込んで、石を動かそうとするがビクともしない。

これ以上やれば、剣や穂先が折れるだろう。

ぶっ壊すしかない。


「よし、じゃあ。先ずはダイスケ君。風の魔法剣でやってみようか?」

「俺ですか?」


「うん、練習を兼ねてやってみてよ。駄目だったらアキラさんの右ストレート、それでも駄目なら、俺の禁断の『ファイアランス』出すからさ」


「わかりました。やってみます」


ダイスケは石の板から一番離れた場所まで下がった。

後ろと天井に剣が当たらない位置を確認している。


右足を半歩引き、剣を正眼に構えて、目を閉じた。


「タァッ-!!」


掛け声とともに、振りかぶりながら踏み込んで、勢いよく上から剣を振り下ろす!


「バシィッ!」 


石の板から音が響くが、見た目の変化は無い。

近づいて確認すると、石の一部が欠けただけのようだった。


「ダイスケ、ドンマイ!」


肩を落とすダイスケに代わり、アキラさんが意気揚々と位置についた。

グローブの上のメリケンサックが鈍く光っている。


「アキラさん、ゴッドブローは駄目ですよ。生き埋めになっちゃうから」


アキラさんは頷いて、右拳を伸ばして壁までの距離を計っている。


今回はフットワーク無しで、ベタ足で打つようだ。

左足を固定してから、右足を引いた。


声も無く、腰を左に回転させて、右拳を石の板に叩き付けた!!


「バッガァーーン!!」


轟音とともに、砂埃が巻き上がり3人の視界を奪う。


「アキラさん、大丈夫ですか!」

「うん」


返事がある。


砂埃が落ち着いてきたので、石の板を確認する。


上の方の板は吹き飛んでいて、高さ30cmぐらいの穴が開いている。

板の奥行きはタケルの想像より長く50cmはあるだろう。


改めて、アキラさんの破壊力には驚かされる。

もう、ゴッドブローを披露することは無いかもしれない。

開発者のタケルとしては、少し残念だった。


穴の下の石も割れていたので、手で取り除くと高さ60cmぐらいの穴になった。


「僕が入ってみるよ」

「お願いします、鉱石があったら俺たちも行きますから」


珍しく積極的なアキラさんの自主性を尊重した。


2、3分経つと、ランプを持って入ったアキラさんから声が聞こえた。


「・・・ある」

「えっ、スミマセン大きな声でお願いします」


「ビックリするぐらいたくさんある!」


タケルとダイスケも荷物と武器を穴の向こうへ投げ込んでから、穴にもぐりこんだ。


入った空間は、学校の教室ぐらいの広さだった。

アキラさんが照らしている方に近づいて行くと、壁一面が光っている。


ランプを近づけると、黒い結晶のような石がキラキラ光っている。

間違いない、ボルケーノ鉱石だ!

これだけあれば、取り放題だ。


リュックを下ろして、ピッケルを取り出す。


「タケル、こっち」

別の壁に移動したアキラさんに呼ばれた場所へ言ってみると、50cm四方ぐらいが色の違う石で固まっている。


黒い鉱石の一部に綺麗な赤い色が混ざって模様のようになっている

ピッケルで石目に沿ってたたくと、聖教石のように簡単に割れた。


「ダイスケ、そっちのボルケーノ鉱石は大きめに取り出してリュックに入れといて」

「了解です」


タケルが取り出した15cmぐらいの石をランプの光に当てると、赤い部分は混ざっているのではなくて、赤い石を黒い鉱石が覆っているようだ。


ピッケルの細い方で、石目に沿って黒い部分を削って行くと長さ5cmぐらいの真紅の鉱石が取れた。

これが聖教石と同じなら、間違いなく強い炎が出る石だろう。


「アキラさん、他にも無いか探してください」


赤い色の鉱石の含まれた固まりを、その外側にピッケルを打ち込んで取り出す。

細かく割って黒い鉱石を削っていくと赤い鉱石は20個近く取り出せた。


「他にはもう無いみたい」


「ありがとうございます」


ダイスケが削り出したボルケーノ鉱石を二人のリュックにも詰め込こむ

三つのリュックが全て一杯になったので今回の任務完了だ!


光の聖教石を地面に5本刺して、3人で中心に立つ。


「ジャンプ!」


パパスは今日も大きい方の小屋にいた。


「お帰り、どうだった?」

「大漁です!」

タケル達が持って帰ったボルケーノ鉱石を作業台の上に、3人で並べていく。


「こいつは凄いな! こんなにあったのか!?」

「必要なら、まだまだありますよ」


「いや、これだけあれば、剣なら10本以上作れる、当分大丈夫だ」

「わかりました、必要なら言ってください。直ぐに行けますから」

「直ぐに・・・?」


洞窟の中には既に転移ポイントがある、あの洞窟の部屋も家の棚みたいなものだ。


「こっちの赤い石が何かわかりますか?」

「これは・・・、見たことないな。聖教石とはちょっと違うだろう?」


「ええ、私も改めてみると透明感が全然違いますね。この石は中まで真っ赤で透き通ってないですから」


「うーん・・・、二つほど、分けてもらって良いかい? 駄目にしちまうかも知れないが、ちょっと試してみたいことがある」

「いいですよ、お願いします」


貴重なものかもしれないが、今のところ使い道が良くわからない。

パパスに試してもらって損は無いだろう。


「今度は7日後に来ますので、ダイスケの剣をよろしくお願いします」

「ああ、任せとけ。ロッド用の台座も作っとくから、杖になる木を探してきな」

「わかりました、よろしくお願いします」


外はすっかり日が暮れている。

お腹もすいたし、スタートスに戻って、ミレーヌにごちそうを食べさせてもらおう。

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