第56話 ボルケーノ鉱石再挑戦 前編

■ボルケーノ火山 洞窟入り口  ~第5次派遣2日目~


日の出とともに、洞窟の入り口まで転移できた。

前回放置した5本の聖教石は、そのまま地面で輝いている。


洞窟に入る前に、ダイスケへ風と水のブレスレットを渡しておく。


「ダイスケ、洞窟に入る前に、少し風魔法の練習をしようか? アキラさんも疲れない程度に岩を殴っといてください」


アキラさんは嬉しそうに、岩場の中へ入っていった。


「じゃあ、炎の魔法と同じように心の中で、風の神ウィン様へ祈りを捧げて、そのブレスレットの先から風が出るイメージを作ってみて」

「わかりました」


「イメージできたら、『ウィンド』と唱えて、あそこの岩に風をぶつけてみてよ」


ダイスケは頷いて、目を閉じ右手を岩のほうに上げた。


「ウィンド!」


-ブンッ-と言う鈍い音がしたが、岩から反応は無い。


「ダイスケはどんな風をイメージしたのかな?」

「こう、バーン!!と言う感じです」


(それでは、ウィン様には伝わら無いでしょう)


「例えば、台風のときに木が倒れるような風とか、車がひっくり返る風とかそう言う映像をもう一回イメージして、やってみてよ」


岩に向かって、もう一度構える。


「ウィンド!」


-バシーン!-


今度は岩から強い音が返って来た、イメージが出来たようでダイスケもご機嫌だ。

魔法剣までは時間がかかるだろうが、風魔法は充分に使いこなせるだろう。


暫く、自主練を続けた後に洞窟へ入ることにする。

今日は長くなっても良いように、食糧はパンと干し肉を多めに持ってきている。


「じゃあ、今日もアキラさん、俺、ダイスケの順でヨロシク」


洞窟に入る前に、聖教石ランプに火をつけて、槍の先にぶら下げる。

足元をアキラさん、頭上をタケルが警戒して、前進していく。


西條さんのいう話を信じて、今日は見つけた魔獣は全部やっつけることにしている。


最初は蝙蝠だった。

前回は出くわさなかったが、翼が赤くなって魔獣化しているやつらが5匹ほど飛んできた!


「ウィンド!」


タケルが天井に向けて風魔法を放つ。

跳ね返る風で蝙蝠が地面に叩きつけられた。

すかさず、アキラさんとダイスケが足と剣でトドメを刺す。


「熱ツッ!」


足で踏んでいたアキラさんから声が漏れる。

魔獣化した蝙蝠を踏んで火傷したようだ。


「大丈夫ですか?」


槍の柄でトドメを刺しながら、アキラさんに近寄る。

本人は大丈夫と言うが、念のため光の魔法で治療しておいた。


「アキラさんも短めの剣があった方が良いですね。俺も槍がランプ用になってるから、代わりが要るなぁ。ダイスケは大丈夫?」

「俺は、短めの剣を持ってきたんで大丈夫です」


「じゃあ、ちょっとパパスのところで借りてくるよ」

「洞窟出るんですか?」


「いや、ここから飛べるか試してみる。良く考えたら洞窟から飛べない理屈も無いような気がする」

「確かに」


少し広くなった場所まで移動して、5本の聖教石を地面に刺す。


「ジャンプ!」


あっという間に、パパスの小屋へ転移した。

もっと早く気がつくべきだった、前回の帰り時間は無駄だった。


パパスはタケルの話を聞くと、タケルにレイピアをアキラさん用には短めのサーベルを貸してくれた。

転移魔法で洞窟に戻ってきたが、5分もかかっていないだろう。


「この間の洞窟は失敗だね。転移できるなら、もっと奥まで行けたかもしれない」

「確かにそうですけど、俺も全然思いつきませんでしたから、仕方ないですよ」


アキラさんはあまり喜ばなかったが、腰にサーベルを刺して進み始める。


今度は炎スライムを見つけた。

まだ、天井にいる段階で水をぶつける。


「ウォーター!」


天井から水蒸気が舞い上がり、-ベタッ- と言う音ともにスライムが落ちる。

表面が白っぽく変色しているところを、アキラさんがサーベルで突き刺した。


炎スライムは乾いた泥団子のように割れた!

炎スライムをやっつけた。


進む都度、蝙蝠、炎スライム、ヤマアラシが交互にあるいは同時に現れる。

30回ぐらい戦って時計を見ると、洞窟に入ってから2時間経過して、9時を過ぎたところだ。


地面に座って3人で休憩することにした。

水を飲んでパンを少しかじる。

先は見えない、食べられるときに食べた方が良いだろう。


「ダイスケ、今度蝙蝠来たら、風魔法やってみてよ。蝙蝠じゃなくて天井に下から突風をぶつけるつもりで」

「OKです」


最後尾のダイスケにも頑張ってもらおう。


短い休憩を終えて再度進み始めると、すぐにチャンスが来た。


「ウィンド!」


ダイスケの風で5匹ぐらいの蝙蝠が地面に落ちる。

だが、風の威力が弱いせいで、すぐに飛び立ってしまった。

しとめたのは2匹だけだった。


このあたりは慣れだから、そのうち、もう少し強い風になるだろう。


その後も延々と戦って進んでいく、4回目の休憩を取ったときには15時になっていた。

もう、何回戦ったかも判らない。


「歩いて疲れたのもあるけど、飽きてきたよね」

二人も苦笑いしながら、同意してくれる。


この洞窟は全く分岐点がない、今のところ1本道だ。

かれこれ8時間歩いたと言うことは20km近く歩いたんじゃないだろうか?

時間はまだあるが、そろそろ潮時かもしれない。


「後1時間進んだら、もう出ようか?」

「そうっすネ。同じやつ何匹やってもキリがないですからね。大いのししでも・・・」


ダイスケがいい終わらないうちに、大きな足音共に黒い影が洞窟の向こうから突っ込んできた!


3人は荷物を置いたまま、ばらばらに壁際に飛び込む!

地面の荷物を蹴散らして、黒い影が通過して行った。


(ダイスケがフラグ立てるから)


「戻ってくるかも!」


今度は言い終わると同時に、地面を蹴る足音が聞こえる。


-ザッ、ザッ、ザッ、


タケル達が座っていた場所は幅が3メートルぐらいある広い場所だったが、影となって見える大いのししはその半分近くありそうだ。


タケルは槍を拾うか、水魔法で行くか躊躇した。

ダイスケは体をかわすつもりのようだ。


アキラさんは無造作に通路の真ん中に立った・・・ように見えた。


左足を半歩出して、突っ込んでくる大いのししに向かって、右ストレートを放つ!


-バチィーーィン!!


今回は音と映像がはっきりつながった。

拳にぶつかる寸前で、いのししの鼻の部分が顔の真ん中へ食い込んだ!

そのまま、拳が伸びたかのように、風がいのししの体を突き抜けて、イノシシの尻から肉片が飛び散った!!


風のイメージとパンチのタイミングが合っているからだろう。

風の拳を完全にコントロールできている。


「アキラさん、スゲェ!」


確かに凄い。

肉片となったイノシシに近寄って確認する。


顔は拳が当たったところ以外は、綺麗に毛皮が残っている。

尻の方に周ると、中から爆発したように肉が飛び散っているのが良くわかる。


「アキラさん、今回のは?」

「カウンターの右ストレート」


だそうです。


体長4メートルぐらいありそうなケモノの肉片を置き去りにし、荷物を掴んで再出発する。


(いまのが試練の終わりなら良いけど)


タケルの願いは神に・・・

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