第55話 風の魔法剣

■スタートス 聖教会 宿舎食堂


涙ぐむ教会士トリオをつれて、タケルはスタートスへ転移した。

取り敢えず、食堂で3人を座らせてから、話をすることにする。


「マリア達に心配かけて悪かったね。これからは、俺たちが居ないときでもここにいてもらうから安心してよ」


3人は黙って頷いている。


「でも、もし帰りたいときは言ってくれれば、直ぐに連れて行くから安心してね」


もう一度、無言の頷き。


「それと、身の回りの世話以外でお願いしたいことがあるんだけど、手伝ってくれるかな?」

「はい、何なりとお申し付けください」


「実は、スタートスの町の人たちに『お風呂』を作ってもらってるんだ。3人にはその手伝いをお願いしたくて」

「はい、勿論お手伝いしますが、『お風呂』とは何でしょうか?」


「うーん。それはダイスケから聞いてもらって良いかな?だけど、その『お風呂』は勇者にとってすごく大事なものだって思ってもらえると助かる」

「はい、かしこまりました。勇者様に大事なものなのですね」


(詳しい説明は、ダイスケに任せてこのぐらいで良いだろう)



■スタートス 聖教会裏 空き地


教会士トリオはダイスケがスティンに引き合わせてくれた。

スティンは力仕事以外で頼むことがあるらしく、快く3人を引き受けてくれた。


残りの午前中は、久しぶりに弓の修練をすることにした。

1時間ほどショット&ダッシュを繰り返す。

50歩の距離から、10回に7回は当たるようになった。

8倍効果でさらに成長していると自分を褒める。

そろそろ的までの距離を伸ばす頃合だ。


■スタートス聖教会 宿舎食堂


昼食は卵焼きとパン、干し肉が並んでいる。

塩と胡椒で美味しくいただく。


「二人はどんな感じなの?」

「俺は相変わらず、剣の立会い中心です。師匠からは確実に成長していると褒めてもらってます」

「昼からも同じ予定?」

「はい、そのつもりです」


「だったら、ブラックモアに頼んで、風の魔法剣を見せてもらおうよ」

「風の魔法剣ですか?」


「うん、まだ炎の魔法剣しか見せてもらってないでしょ?炎はボルケーノでは使い物にならないから、違う魔法剣の方が効果はありそうじゃない」

「なるほど、わかりました。そうしましょう」


「アキラさんは?」

「パンチ中心の練習に変えた」

「グレイスにゴッドグローブの件は話したんですか?」

首を横に振る。


(まだ、内緒と言うことなのか)


「まあ、アキラさんに当分お任せしますので、心置きなくやってください」

笑顔で返事をくれた。


「明日は朝からボルケーノに戻るから、今日中に出来ることは準備しておこう」

二人は頷いてくれた。


(洞窟までの移動時間が無ければ、洞窟内をたっぷり回れるだろう)


■スタートス 聖教会裏 空き地


ブラックモアは風の魔法剣を見せることに抵抗は無いようだ。

こいつがオズボーンの一派だとしても、指導に手を抜くことは今のところ無い。


「風の魔法剣も考え方は炎の魔法剣と同じです。剣技に魔法の力を加えると言うことになります」

「ただ、炎の場合は剣先を伸ばすイメージで魔法を発動させましたが、風の場合は剣が空気を切り裂く風、すなわち剣の風を遠くに放つイメージで魔法を発動させます」

「したがって、強い剣の風と強い魔法力が無いと、強い風魔法剣には成りません」


ブラックモアは、タケルとダイスケに説明を終えると的の袋をぶら下げた木に向かって正対した。

距離は10メートルぐらい離れているが、鞘から両手剣を抜き右足を半歩引く。

そのまま右上段に構えて、一瞬静止する。


「ハァァッ!!」


大きな掛け声とともに、剣を豪快に振り下ろした!


タケル達の耳には風を切る-ビュンッ-という音が、的の袋が綺麗に斜めに切れる映像と重なって聞こえた!


切れた的からは中に詰めていた木が、ぼろぼろと落ちていく。

タケルとダイスケは小走りに的の切り口を見に行った。


「すごい!」

「スゲエ!!」


麻袋は鋭利な刃物で切ったような綺麗な切り口だった。

繊維に引きちぎれたような跡は微塵も無い。


「かまいたちのようなイメージを描いているのですか?」

「かまいたち? それがどのようなものかは判りませんが、私の中では薄い鋭利な刃が風となって飛んでいくイメージです」


「ダイスケ、これはやるっきゃないんじゃない?」

「任せてください、がんばります!」


「せっかくだったら、あれだな。」

「あれって何ですか?」


「イ・ア・イ」

「オォー、それ最高ですね! やりますよ!居あい抜きで風の魔法剣!!」


(男だけならこういう話ですぐに盛り上がる)


「ダイスケ様がこの剣を身につけるためには、剣の速さを今の倍ぐらいに引き上げていただく必要があると思います。」


残念ながら、ブラックモアが男たちの夢を現実に引き戻した。


■スタートス聖教会 宿舎


タケルは今夜も聖教石作りに励んでいた。

光の聖教石は転移ポイントを常設するために、たくさん作っておきたい。

いままでに5セット(25本)作ったが、パパスの小屋とボルケーノ火山に1セットずつ置いてあるので、念のため追加であと2セット作った。


タケルは明日の洞窟再挑戦に向けて、更に聖教石加工を続ける。

ブラックモアの言うとおり、風の魔法剣習得には剣技の強化も必要だろう。

だが、タケル達は聖教石で魔法力を強化できる。


風と水の聖教石を作り、この間買った薄い豚革で別々に包んで縫い合わせる。

麻紐を豚革の中に通して、手首に巻くブレスレットを作ってみた。


(魔法武具ができるまでは、ダイスケにはこれでしのいでもらおう)

(明日こそは、ボルケーノ鉱石を見つけたい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る