第54話 第4次派遣からの帰還

■ファミリーセブン 札幌駅前店 倉庫  ~第4次派遣 帰還~


ボルケーノ鉱石の採掘は失敗に終った。


洞窟出口でアキラさんが粉々にしたのは、大いのししだったと思う。

ほぼ肉片になって原型をとどめていなかったので、毛皮と大きさから想像するしかなかったが。


「ゴッドブローですか?」

「カウンターの右ストレート」返事はそれだけだった。


とんでもないグローブを作ってしまったのかもしれない。


洞窟を出ると16時直前だったので、慌てて光の聖教石を5本地面に突き刺して、何とかスタートスの転移の間にジャンプできた。


その数秒後には、自動転移でコンビニの倉庫に戻ってきていた。

転移の間に抜け殻となった服や装備品はミレーヌ達が部屋へ持って行ってくれるだろう。


洞窟前に刺しっ放しの聖教石の方が気がかりだが、だれも来ないことを期待しよう。

次回はあそこまで一気に飛べるかもしれないし。


そこまで考えて、重大なミスに気がついた。

教会士トリオをムーアへ迎えに行くのを忘れた!!


あの3人が叱責されるかもしれない・・・が、もう手の打ちようが無い。

次回の派遣で解決するしかない。


西條は今日も笑顔でタケル達を待っていた。


「お疲れ様。タケル君は着替えたら、いつものように話を聞かせてくれるかな?」


着替えて、倉庫の打ち合わせスペースに行ったタケルに西條は缶コーヒーを渡してくれた。


「いやいや、毎回凄いよね。今回は岩を粉砕したんだって? それとコンビ芸って言うの?中島さんが嬉しそうに自慢してたよ」

「はい、半分ぐらいは予定通りですが、武具の強化は終わりませんでした。」


タケルはボルケーノ洞窟の中を説明した。


「うん。確かに神の与える試練かもしれないね。次に行ったら、また変化しているかもしれない。だとしたら・・・、あまり魔獣から逃げてはいけないのかもしれないね」

「どう言う意味ですか?」

「理屈じゃあ無いんだけど、神が試されているのなら、魔獣と戦えるかは一つの試練なんじゃないかな?」


(なるほど、試練を乗り越えられるか否か)


「判りました、次回はもう少し戦ってみます。それ以外にいくつか教えてください。水の魔法で氷の魔法、光の魔法で雷の魔法ってあるんでしょうか?」

「どちらも、『あると思う』としか言えないね。水の魔法は専門外だから尚更だけど、雷の魔法もこの目で見たことは無い。だが、皇都大教会の司教と教皇は雷の魔法が使えると思っている」


「皇都大教会の司教はその魔法を教えてくれるでしょうか?」

「うん・・・。それは直接聞いてもらうしかないかな? 僕から紹介状は書いておくから、皇都に行ければ、会ってくれると思う。だけど、教えるかどうかは君たち次第だね。皇都の司教は以外と気難しい男なんだよ。」


「わかりました。もう一つ質問なんですけど、魔法のロッド、杖に使う木はどの木が良いんでしょうか?」


「ロッドかぁ。それも専門外なんだよね。もちろん木の種類によって魔法や術者との相性があるのは知ってるんだけど、それに詳しい人間も限られていて・・・、この間タケル君が言っていたように、向こうの世界は体系だった情報が共有化されてないんだよ。」


「ロッドについては、北方大教会のアイオミー司教に聞いてもらうのが一番確実だと思う。アイオミー司教は水の大魔法士だから、氷の魔法についても知っていると思うしね」


「だけど、北方州都のクラウスまでは、ムーアからで10日、皇都からでも馬車で5日かかるからねぇ、一回の派遣ではたどり着かないね。先に言っとくけど、15時間シフトは駄目だからね」


(考えを読まれていたか)


■西方大教会 転移の間    ~第5次派遣 1日目~


今回は10時間シフトで男3名の派遣だ。

男子会でこっちの3日と8時間を乗り切ろう。


先にレンブラントのところへ行ってから、前回宿題となった教会士トリオを連れて来るつもりだ。

ギレンはスタートスに転移魔法で確認しに来たらしいが、ノックス達もタケルがどうしたかを知らなかったので、あきらめて帰ったそうだ。


ムーアに行っている間にダイスケはスティンのところで、教会士トリオの面倒を見てもらう話をつけてくることになっている。

アキラさんは体術の師匠と修行をしてもらっている。


タケルは転移の間の扉を開けたが、こちらを見ている人は居なかった。

ギレンたちに見つかるとレンブラントのところへ行き難い。

そそくさと、教会のホールを抜けて外へ小走りにでていく。


では、1億6千万円ほど稼いでくることにしよう。


■レンブラント商会 応接


「レンブラントさん。遅くなりましたが、風の聖教石を追加で7本ご用意しました。実際の船の帆にあわせた風を作りましたので、お役に立つと思います」

「遅いだなんて、とんでもない。こんな短い期間にご用意いただけて感謝の言葉もございません。代金は帳簿のほうでよろしいですか? 金貨で一度精算することも可能ですが?」


「いえ、帳簿につけておいてください」

「そうですか、何かこちらのお願いばかりで申し訳なく思います。他にお役に立てることはございませんか?」


「でしたら、近々、皇都にいきたいと考えています。レンブラントさんの船に乗せていただきたいのですが、可能ですか?」

「もちろんです、いつでも仰ってください。皇都までなら、馬車と船便なら2日で着きますので」


「それと、今度ダイスケが白パンの作り方で相談に伺うと思いますので、よろしくお願いします」

「承知しました、何なりとお申し付けください」


タケルは帳簿に金貨16枚(約1億6000万)を追加して、レンブラント商会を後にした。


■西方大教会 


教会士トリオを迎えに行った、タケルをギレンは満面の笑みで迎えた。


「勇者様、良くぞお戻りいただき増した。先日は立ち寄られなかったので心配しておりました」

「申し訳ありません。こちらによる時間が足りなくなったものですから。いまから3人を連れて戻りたいのですが、よろしいでしょうか?」


「もちろんです、すぐに呼んで参ります。それから、スタートスには本日届くように食料と果実酒をお送りしておりますので、どうぞお召し上がりください。」


タケルはギレンに礼を言って、部屋に入ってきた教会士トリオを連れて転移の間へ移動した。


転移の間は薄暗い中で聖教石が光っている。


「迎えに来れなくてゴメン。マリアさん達は、ギレンさんに叱られたりはしなかった?」

「叱られたりはしておりません・・・」


「他に何かあった?」

「私どもはただ・・・、見捨てられたのではないかと・・・」


3人とも、目を潤ませている。


(あちゃー、これはマズイ、フォローが必要だが・・・・)

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