第53話 ボルケーノ鉱石

■西方州 ボルケーノ火山山麓 パパスの小屋  ~第4次派遣3日目~


再度の乾杯をして、飲みまくり、食いまくっていたナカジーが突然消えた。

16時になったようだ。


パパスは口をあけて、呆然としている。

始めて見れば当然だろう。

事情を説明して、気を取り直してもらった。


タケルは飲みながら、ダイスケ以外の武器も説明して、パパスに聖教石のサイズを教えてもらった。

武器用は長さ3cmぐらいで、ロッド用は同じ長さで少し太めのものを作ることで、意見がまとまる。

みんなの武器も要望を整理して、聖教石と武器の組み合わせを作る段取りも二人で決めておいた。


<優先順位>

1.ダイスケ用 剣    × 火・風の聖教石

2.ナカジー用 ロッド  × 火・風・水・光の聖教石

3.タケル用  槍    × 火・風の聖教石

4.タケル用  ロッド  × 火・風・水・光の聖教石

5.アキラ用  短剣   × 火・風の聖教石


アキラさん用にも短剣を用意してもらうことにした。

グローブがあれば大丈夫だとは思うが、何かの役に立つだろう。


まずはダイスケ用の聖教石を今晩中に用意して、次の派遣までにダイスケの剣をパパスに作ってもらうようにしよう。


そのためにも明日は何とか、ボルケーノ火山で鉱石を採取したい。

日が暮れてきたので、かなり早いがお開きにする。

ダイスケの時計で18時30分だった。


■スタートス 聖教会 宿舎


タケルは部屋に戻って、聖教石の加工に取り組みながら、魔法や聖教石の使い方を改めて考えていた。


(戦いで使える魔法は火と風だけ?)

(氷や雷の魔法は存在しないのか?)

(そもそも、土の魔法は何に使う?)


やはり、もっと高次の魔法士に教えてもらう必要があるのだろう。

マリンダには申し訳ないが、今のタケルのレベルを教えるには無理がある。


西條が言っていた魔法の学校がこの国に無いのがやはり不思議だ。

聖教石の使い方も、誰かが教えてくれたわけではない。タケルが自主的に試した成果だ。

他にも同じ使い方をする魔法士がドリーミアにはいるのかもしれないが、知識や情報が全然共有できていない。

(一度、皇都に行って、情報を集める必要があるな。)

(マリンダと一緒に皇都へ行ってみるのも楽しそうだ。)


■西方州 ボルケーノ火山山麓 パパスの小屋  ~第4次派遣4日目~


日の出とともに、スタートスからパパスの小屋へ戻ってきた。

今日は16時で強制帰還だから、16時時点ではスタートスに戻っているのが無難だろう。


パパスへの挨拶もそこそこで、リュックを背負った3人はボルケーノ火山へ向かった。


パパスの説明によると、火山に向かって右側の山裾を回りこむように行けば、洞窟がたくさんあるそうだ。


ダイスケの方位コンパスでは、火山はパパスの小屋から北西になっている。

この世界の北極や南極があるのかは不明だが、コンパスの針は一定方向を指しているので、『北』に相当する磁極があるのは間違いない。


30分程度歩くと、周囲の森が突然なくなり岩場だけになった。

火山の影響で草木が生えない土壌になっている。


大小さまざまな岩を避けながら歩いていくが、洞窟の入り口は見つからない。

何箇所か大きな窪みを見つけたが、奥行きが全然無かった。


小屋から1時間半あるいて、ようやく洞窟っぽい入り口が見つかった。

中へ少し入ってみたが、その先も続いているようだ。


「じゃあ、進んでいくけど用意はいい?」

「今日は、アキラさん先頭で、真ん中が俺、しんがりがダイスケで行ってみようか?」


二人の頷きを確認する。

アキラさんはグローブをはめて、笑顔のままだ。

やる気を有効に活かしてくれるだろう。


洞窟の中は、壁が黒ずんだ岩のせいもあるのか、聖教石の祠よりも暗い感じがする。

三人とも腰に聖教石ランプをぶら下げているが、5メートル程度先しか見えない。

タケルは全員のランプの炎を明るくするように祈りを捧げた。


(グレン様、白く強いろうそくの光をお与えください。)


3人分の明かりが強くなり、足元と壁、天井がかなり見やすくなった。


パパスからもらった鉱石の見本は黒ずんだ石で、光を当てるとキラキラと反射する結晶の塊のように見える。

見つけるためには、光をしっかり当てないと気がつかないだろう。


タケルが壁へ光を向けているときに、背中に音と気配を感じた!


振り返ると足元に黒い塊が走ってくる!

槍の柄で突こうとするが、間に合わない!


「キュィーン!!」


黒い影はタケルの足にぶつかる寸前で、可愛らしい鳴き声をあげて横に吹っ飛んだ!


3メートルほど前のアキラさんが後ろを振り返って、ファイティングポーズを取っている。


「ありがとうございます。アキラさん」


吹っ飛んだ影を確認すると60cmぐらいのヤマアラシだった。

槍でつつくが、口から血が流れていて、完全に死んでいるようだ。

鋭い牙と爪を持ち、体表の毛は頭の部分まで強く鋭い毛で覆われている。

どこをぶつけられても、何本ものトゲが刺さりそうだ。


「アキラさん、いまのでどのぐらいの力加減なんですか?」

「左ジャブだけ。」


軽く、と言うことなんだろう。

しばらくはアキラさんに戦闘を任せても大丈夫のようだ。


洞窟は広いところで幅が5メートル程度、狭い場所は1メートルも無いが、立って歩ける高さで続いている。


急に狭くなった通路の上から、何かが降ってきた!!


地面に落ちたのは黒い塊だったが、落ちた瞬間に赤く変色して、焦げる匂いが漂ってきた。


炎スライムだ!


まさに溶岩のように赤い色に変わって、高温になっているようだ。

動きは鈍いが、アキラさんのパンチもタケルの槍も効き目が無かった。


タケルはアキラさんとダイスケを下がらせて、水の神へ祈りを捧げる。


「ウォーター!」


「ジュワッ!」


水の固まりが炎スライムにぶつかった瞬間、あたりが湯気で包まれた!


湯気が無くなってから、炎スライムを確認すると灰色の石になっている。

急激に冷やされた効果で死んだようだ。


「こいつは、避けて通った方が良いね。戦うだけ無駄だよ。」


タケルは槍の先にランプをぶら下げて、上を照らしながら進むことにする。

足元の警戒はアキラさんとダイスケに任せた。


そのあとも2時間ほど進んで、広くなっている場所で休憩することにする。


ここまででヤマアラシ5匹と炎スライムを3匹見つけた。

襲ってこないものは無視して進んできたが、洞窟は分岐点が無いのに、終りが見えてこない。


(神の試練で洞窟が変化しているのか?)


洞窟に入ってから、既に3時間が経過している。

変化がある洞窟なら、そろそろ戻った方が良い時間かもしれない。


「少し早いけど、今日はここまでにして出口へ戻ろう。」


戻りは行きの倍ぐらいの魔獣と出合ったが、極力戦わずに出口をめざす。


(同じ一本道なのに・・・、これも試練なのか?)


3時間歩くと、ようやく出口の明かりが見えてきた。


だが、出口に大きな影が掛っている。

逆光ではっきり見えないが、大きなケモノのようだ。


そいつは一直線にアキラさんへ突っ込んできた。

洞窟の幅がせまく、左右にはかわせそうにない。


「アキラさん、後退しよう!」


だが、振り返ってニッコリ笑っている。


ケモノはもうアキラさんとぶつかりそうだ。


アキラさんは向き直って、左足に体重を乗せた。

右手が真っ直ぐ相手に突き出される。


「バシッーーン!!」


肉の塊をまな板に叩きつけるような音がした。

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