第52話 万能魔法武具
■西方州 ボルケーノ火山山麓 パパスの小屋
「だがな、今は武器を作りたくても、材料になる良い鉱石が足りねぇんだ。」
「このボルケーノ火山のふもとは、噴火したマグマが固まって、迷路のような洞窟がたくさんある。」
「洞窟には、武具に最適な鉱石がたくさん取れるんで、俺はこんな山奥にいるってわけだ。」
「だがな、最近は魔獣の数が多すぎて、鉱石の採掘が難しくなっちまった。この間も、でけぇ炎のハリネズミに襲われて、足をやられちまったんだよ。」
パパスはズボンのすそをめくってみせる。
足が黒ずんで化膿しているようだ。
「ナカジー、先に治療しようか?」
ナカジーがパパスの足に手をかざす。
「癒しの光を!」
パパスの足が明るい肌色に戻った!!
「こいつは、ありがてぇ。・・・・、姉さん、治療の魔法を使えるのか?」
「任せて♪」
「じゃあ、我々がその鉱石を採掘してきますよ。どの辺りにあるんですか?」
「そいつは、入ってみねぇとわからねぇ。おかしなことに、ここの洞窟は入るたびに景色が違うんだよ。」
(神が与えし試練なのか?)
「だが、洞窟の入り口がある裾野までは、ここから歩いて1時間ぐらいだな。中の洞窟は5分で行き止まりのところもあれば、何時間も掛かるところもある。」
「それと、行ってもらえるのはありがたいが、魔獣共には炎の魔法はきかねぇぞ。あいつら自身が炎となってるからな。」
「どんな、魔獣が出るんですか?」
「洞窟の中で多いのはハリネズミとスライムだ。スライムも炎化しているから、触るだけで大やけどするぜ。」
「一番会いたくないのは、大いのししだな。こいつを見たら、すぐ逃げろ。凄い勢いで突っ込んでくる。牙に引っ掛けられると、腕の一本は持っていかれるぞ。」
なるほど、作戦を考える必要があるな。
いずれにせよ、今日はもう時間が無い。
「では、あす洞窟に行ってみようと思います。今日はせっかくなので、我々が持ってきた食材で一緒に夕食にしませんか?」
「飯はかまわねぇが、ここに泊まっていくのかい?」
「いえ、泊まりは別のところにします。」
「?」
ダイスケの時計では、まだ14時過ぎだった。
(ナカジーの上がりが16時だから、それまでに軽く一杯やるか)
荷馬車から荷物を降ろして、アランには先に帰ってもらう。
今から戻れば、アイン村には日没前後に到着するだろう。
ナカジー達にバーベーキューの準備をお願いして、
タケルは転移ポイントを作りに、小屋の横の空き地へ移動した。
いつものように、光の聖教石を5本地面に埋め込む。
ここには何度もくる予定なので、いつもより深く埋めて、見えないようにした。
(深くても飛べるかな?)
何の問題も無かった、スタートスの転移の間にジャンプできた。
アキラさんとナカジーに頼まれた、焼酎と追加のベーコンを宿舎から持ち出して、小屋の空き地へ戻ってくる。
転移の魔法も慣れてくると、冷蔵庫を空けるようなものだ。
マキはパパスの小屋にたくさんあるので、それを使うことにする。
食材、火、酒が揃ったので、いつものように乾杯のしきたりをパパスに伝授する。
この世界で何回目だろう?
そのうち流行るかもしれない。
「では、最高の魔法武具の完成と、新たなる出会いを祝してカンパーイ!!」
まだ、日は高いが気にしない。
5人ともガンガン飲んで、焼いたベーコンを食い始める。
イメージ通り、パパスは飲めるほうだった。
アキラさんの焼酎を気に入ってくれたようで、割らずに生(き)のまま飲んでいる。
あの調子なら、日が沈む頃には一升あきそうだ。
「それで、お前さんたちはどんな武器が欲しいんだい?」
「それも、ご相談しようと思ってました。まずは剣が欲しいのですが、大きな両手剣だと洞窟なんかの取り回しが悪いので、小さいものとどちらが良いのか?」
「剣は全員が使うのかい?」
「俺が使います。できれば、刀(かたな)のようなものが欲しいのですが?」
「刀? ッてのはどんなのだ?」
ダイスケは地面に絵を描きながら、説明している。
しばらく、頷いていたが、立ち上がって工房へ向かった。
ナカジーはかいがいしく働いている。焼いては食い、焼いては配り、飲んでは注ぎ、飲んでは焼き。
口と手が休む暇がないようで、静かだった。
パパスが持ってきた片歯の剣をダイスケに渡す。
「ちょっと、振ってみな。」
少しはなれた場所で、上段、中段、回転切りなどを試している。
「イメージは、刀に近いですね。まだ少し重いのと、長さも長いと思いますけど。」
「わかった。だったら、もっと軽くして強さと粘りは同じぐらいのものを作ってやるよ。だが、片歯の剣は刃こぼれしたら切れなくなるから、定期的に持って来い。俺が研ぐからよ。」
「ありがとうございます。じゃあ、ダイスケの剣はそいつで決まりね。」
ダイスケは嬉しそうに頷いている。
やはり、大型の剣より日本刀に近いものがイメージに合うのだろう。
「剣以外にも、魔法を使うためのロッドをお願いしたいのですが?」
「ロッド? そいつは俺たちで作るもんじゃねぇな。魔法を使いたいんだったら、それにあった木のほうが良いはずだが、そこは魔法士の領分だからな。」
「だが、木に聖教石をはめる台座は俺のほうで作ってやるよ。良い木が見つかったら、持ってくれば、その木にはめてやってもいいぜ。」
「ロッドの両側に、炎の石と風の石をつけたいのですが、可能ですか?」
「そりゃあ、台座を作って木の両側に付ければできるだろうが・・・・」
「そうか!アンタならいくつでも魔法石があるってことか!! そいつは凄いぜ。」
パパスは大笑いしながら、膝をたたいて突然喜び出した。
「だったらこうしよう、さっきの剣もそうだが、ロッドや剣に入れる魔法石は、台座毎取り替えられるにしといてやる。」
「そうすりゃあ、同じ剣やロッドでも戦う相手ごとに違う種類の魔法が使えるだろ? これは凄いぞ!! 万能魔法武具みたいなもんじゃねぇか!! 夢みたいな話だぜ。」
パパスは一人で興奮しているが、タケルも想像してみた。
相手に合わせて、魔法の種類が使い分けられる武具。
うん、確かに凄い。
もう一度乾杯しよう。
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