第51話 武具職人 名工パパス

■西方州 アイン村 周辺   ~第4次派遣3日目~


夜明けともにスタートスからアイン村へ転移魔法で戻った。

夜だけ宿舎へ戻って寝たので、旅の疲れはかなり取れた。

荷馬車は想像よりも疲れる乗り物だと痛感している。


地面に埋めた聖教石を手分けして掘り出し、アランのいる野営地へ戻る。


朝食は昨日の鍋を温めなおして、ナカジー持参のパスタを入れた。

ベーコンも鍋に追加投入する。


二日目の鍋は味がしみこんで上手い。

硬いパンにつけて食べると格別だった。


「ナカジー、パスタ最高だね。」

「でしょー、何たってデキル女だからね♪」


火の始末や調理道具の後片付けを終えて、出発することにする。

出来ればナカジー帰還の16時までにはパパスのところへたどり着きたい。


アイン村を出ると周囲に畑はほとんど見当たらなくなった。

雑草の平原と雑木林の繰り返しだ。


目標のボルケーノ火山はだいぶ近く感じるようになって来た。

頂上からはうっすらと煙が立ち上っているのも見える。


途中で1回休憩した後に、目印の杉の木を見つけた。

右に入る道は見当たらないので、荷馬車から降りて道の右側を探しながら歩く。

杉の木から200メートルぐらい進んだあたりに、道らしき跡があった。


雑草で覆われてほとんど見分けがつかないが、雑草を払うと轍(わだち)で踏み固められた跡が確かにある。


嫌がる馬をアランが雑草のほうへ踏み込ませて、ゆっくり進ませていく。

ハリスの言う「しばらく」なので、あと1時間前後で着くかもしれない。


荷馬車は歩くスピードになったので、タケルはそのまま歩るくことにした。

ナカジー以外の二人も降りてきた。


アキラさんは手にグローブをはめている。

列の一番後ろに回って、シャドウボクシングを始めた。

使いたくて仕方がないようだ。


突然、前を進む馬のいななきが聞こえ、馬車が止まった。

前方を見ると、馬が興奮している。


念のため荷馬車の槍をつかんで、馬の横まで行くと周りの雑草が何箇所も揺れている。

左からタケルに飛び掛ってきた。


ウサギねずみだ!


槍で払って地面に叩き落す。


剣を持ったダイスケとアキラさんも馬車の前に来た。


タケルは馬を背にして、飛んでくるものを叩き落すことに専念する。

横目で見るとアキラさんは楽しそうだ。


フットワークを使いながら、空中のウサギねずみをジャブでしとめる。

2メートルぐらい先のウサギねずみが、突然悲鳴をあげて吹っ飛んでいく。

風の方向と力加減がイメージできているようだ。


ダイスケも手を休めて、アキラさんを見ている。

踊るようにパンチが出て、あっという間に10匹以上吹っ飛ばした。

しばらく攻撃が続いたが、馬が怪我をすることも無くやっつけた。


「アラン、このウサギねずみって食べられるの?」

「わかりません、魔獣ですので食べてはいけないものとされています。ですが、こんなにたくさんの魔獣を見たのは初めてです。」

(全部で30匹ぐらいだったかな?)


馬が落ち着いたので、先へ進む。

轍の小道は段々上り坂になり、木の数も増えてきた。

荷馬車が踏んだ跡を歩いているが、草は元気よく生い茂っている。

最近は他の馬車はほとんど通っていないようだ。


そろそろ休憩しようと思った頃に、前方の小屋から登る煙が見えた。

時間は13時過ぎだったので、思ったより早くついたことになる。


近づいて行くと、大小二つの小屋がある。

間違いないだろう、パパスの小屋だ。


小屋から少しはなれた場所へ荷馬車を停めて、4人で向かった。

小さいほうの小屋をノックして、声を掛けたが返事が無い。


大きいほうの小屋へ回ると煙が出ているのはそっちだった。

中から音も聞こえる。


ノックして声を掛けると中から扉開いて、がっしりしたハリスに良く似た男が出てきた。


「こいつは珍しい。ここに客とは」

「私達はスタートスの勇者です、ハリスさんに紹介してもらってパパスさんに合いに来ました。」


タケルが渡したハリスの紹介状を開いて、パパスは唸った。


「勇者? お前さん達が?」

「はい、魔竜討伐のために強い武具が必要なので、作っていただきたいと思っています。」


「まあ、いいや。 中に入りな。」


パパスは少し足をひきずりながら、中へ案内してくれた。

工房は奥に炉と金床(かなとこ)があって、壁には剣や槍の穂がたくさん並んでいる。

真ん中に大きな作業台があり、その上には様々な工具が乱雑に置いてある。


「勇者か・・・、教会が言うには何人もいるんだって?」

「はい、他の世界から来ている勇者はまだ居ます。」


「ハリスの手紙には石を見せてもらえって書いてあるんだが、見せてもらってもいいかい?」


タケルはリュックをひっくり返して、聖教石を作業台に広げた。


「こ、こいつは・・・全部お前さんが作ったのかい?」

「はい、全部私がお祈りしています。」


「全部って、何種類も魔法が使えるのか? ここにあるのは、火と風と光の石だよな?」

「はい。水の石も作れますよ、そこにはありませんでしたか? 要るなら作りますけど。」


「作るって・・・そんな簡単に・・・、ここにある石はこの俺でさえ、今まで見たことが無い色を放っているんだぜ。今まで、この国で最も力のあるといわれる石でも、ここまで綺麗な色は出てねぇよ。」

「なるほどなぁ、ハリスの言ってる意味がわかったよ。よし、お前さん達の望みどおりのものを作ってやろう・・・と言いたいところだが、俺は今、武具が作れねぇんだ。」

「どうしてですか? お金ならお支払いできますけど。」


「金じゃねぇ、お前さん達の武具ならこっちから頭下げて作らせてもらいてぇぐらいだ。」

「だがな・・・」

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