第50話 はじめての野営

■西方州 アイン村 周辺   ~第4次派遣2日目~


的(まと)にしていた岩は、地面から上が完全になくなっている。

岩の破片は近くには見当たらなかった。


アキラさんが殴った方向の地面は雑草が無くなり、20メートル先まで放物線状に土がえぐれている。

(OH  MY GOD!)


「アキラさん、拳は大丈夫ですか?」


「うん。」


少年のような笑みでサックをした拳を見せる。


俺のゴッドブローは猫パンチ程度だったようだ。

確かに寸止めしてる時点で、殴ってないといえばその通りだろう。

(ウィン様、アキラさんに力を与えてくれてありがとうございます)


リュックを拾って、野営地に戻ることにする。

怒るナカジーの顔が今から浮かぶ。


野営地に戻ると、予想通りの怒声が飛んだ。


「タケル! あんたでしょ!! 何を爆発させたのよ!!」

「村の人もビックリして、そこいら中を見回りに行ったわよ!!」


「いやぁー、俺じゃぁ無いんだよね。」

アキラさんと目を合わせる。


詳しい話は飯を食いながらと言うことにして、火起こしに逃げた。

石で釜を組んで、短く折った焚き木を入れる。


「ファイア」


3分程度燃えるイメージで小さめの炎を焚き木の下につけた。

メインはバーベキューのようだ。

ソーセージ、ベーコンとさっきもらった野菜が切ってある。


スープも作ると言うので、もう一箇所火を起こす。

上がY字型になった鉄杭を2本地面に刺し、その間に焚き木を入れてさっきと同じ要領で火をつけた。

鉄杭に木の棒を渡して、鍋を火にかける。


焚き木に火が行き渡りだしたので、先に乾杯することにした。

レンブラント差し入れの果実酒を注いでから、アランにしきたりを伝授する。


「では、初の野営とゴッドブローの誕生を祝して乾杯~!」


「で、ゴッドブローってのは何よ。」

ナカジーはトングでベーコンを焼き網に載せながら、タケルをにらむ。


岩場でのコソ連の件を二人に説明した。


「俺も、風でぶっ飛ばすぐらいの予定だったんだけど、ウィン様が思った以上にアキラさんを愛してくれたみたいで、岩が粉砕されちゃったんだよね」

「『ちゃったんだよね。』じゃ無いわよ! どんな音したかわかってんの? 地響きがして、そこいら中から鳥が飛び立ったのよ!!」

ベーコンの油を網に広げながら、怒鳴っている。


「アキラさんは鼓膜が両耳とも破れたみたいだからね。そうだと思う。」

「鼓膜・・・って! アキラさん大丈夫なの?」

「うん、タケルがすぐに直してくれた。」

相変わらずの笑顔で、果実酒をゴクゴク飲んでいる。


「その、メリケンサックって言うの、見せてもらって良いスか?」


ダイスケは渡された金属の固まりを手に載せて重さを量る。


「意外と重いんスね。 でも確かにこれなら、拳は守られる感じがします。」

「そんなの、いつから持ってたのよ。」

「ずっと。」

「ずっと。・・・って!!」

(はい、ずっとです。最初から)


「何で使わなかったんスか?」

「・・・恥ずかしくて。」

(なるほどね)


ナカジーが焼けたベーコンや野菜をどんどんみんなの皿に配っていく。

ほぼ、塩と胡椒だけの味付けだが、焼きたてを外で食べるのはやはり上手い。


「ただ、アキラさん。ゴッドブローは当分封印しといてください。あそこまでの破壊力はいらないでしょう。巻き添えが心配なんで。」

「わかった、普通に殴る練習をする。」

「ええ、グローブ付ければ、それで十分やっていけると思います。」

「うん、そのつもり。」


理解してくれているようでよかった。

あんなものが間違って仲間に当たったら、体の一部が飛んでいくかもしれない。

しかし、ご機嫌な笑顔がずっと続いている。

はじめておもちゃをもらった子供のようだ。


「あたし達はパワーアップしてくれないの?」

ナカジーがスープをかき混ぜながら、タケルに催促する。


「ナカジーは武器よりも魔法ロッドが良いかなと思ってる。ダイスケはその両手剣がいいのか、これから行く先で相談した新しい剣が良いのか・・・それ次第だね。いずれにせよ今回の旅はそれが目的だから。」


「魔法ロッド! やった! これで私も魔法少女ね!!」

「・・・」


アランは我々の話を黙って聞いている。

どこまで理解できているかはわからないが、聞かれて困ることは特に無い。


「アラン、食事は口に合う?」

「はい、とても美味しいです。こんなに味がついているベーコンは初めて食べました。」

(やはり塩漬けは高級品なのか?)


「ところで、この国は白いパンは貴重品なの?」

いま食べているパンは、食パンと違い固くパサパサしている。


「白いパンは食べたことがありません。皇都の教会に納めるものだと聞いております。」


「ダイスケ、お風呂プロジェクトが終わったら、小麦粉の製粉と燻製小屋にチャレンジしない?」

「良いですよ、面白そうですね。」


「難しいことはわかんないけど、小麦粉作るときにもう少しふるいにかければ、綺麗な小麦粉になると思うんだよね。」

「燻製はタルとかでやっても出来るだろうけど、せっかくだからある程度の量を作って町の人に配ろうよ。」

「了解です、戻ったらネットで調べて、今度もってきます。」

「うん、マリア達も積極的に使ってあげてよ。」


これなら、町の人も喜んでくれるかな・・・

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