第49話 ゴッドブローの威力

■西方州 アイン村  ~第4次派遣2日目~


水問題を解決して満足したタケルは野菜を大量にもらって、アランと一緒に荷馬車をとめている空き地へ戻る。

アランは井戸の件を見て、タケルを見る目が輝いている。


「タケル様、レンブラント様から伺ってはおりましたが、凄いお力です。神の恩恵がこれほどとは・・・」

「まあ、勇者候補だからね。神様は本当に私達のことを愛してくれてるみたいですよ。」

ニッコリ笑って、ヒトゴトのように答えた。


荷馬車に戻ると、野営の準備に入っていた。

調理道具、食材、調味料などを荷物から選別している。

まだ日が高いうちに、出来るだけ準備をしたいようだ。


「野菜ゲットしてきた。夕食はナカジーが仕切ってくれるの?」

「任せなさい、あたしの本気を見せてあげるわ~。」

ご機嫌だ、お任せしよう。


「じゃあ、ダイスケとアランのイケメンコンビを助手につけるからヨロシク。俺とアキラさんは焚き木を拾いに行ってくるよ。」

「OK♪ たくさん拾ってきてね。」


アキラさんに空のリュックを持ってもらい、村とは反対方向の雑木林へ向かった。

適当な木を拾いながら、林の奥へ進んで行くと荷馬車から見えない距離にちょうど良い空き地を見つけた。


アキラさんを呼んで、光の聖教石を5ヶ所に埋める手伝いをしてもらう。

スタートスに戻るポイントをあらかじめ作っておくためだ。

地面に「A」と印をかいて、近くの木には教会ランプをぶら下げておいた。


焚き木はかなり集まってきたが、別の目的があったタケルは更に奥まで進む。

アキラさんは少し離れたところで付いて来ている。


雑木林を突き抜けた場所で、イメージに合ったものを見つけた。

大き目の岩が、地面から何個も突き出した岩場だ。


「アキラさん、焚き木結構集まりました?」

「うん。」

背中のリュックを見せてもらうと、パンパンで集めすぎたぐらいだ。


「じゃあ、ここでコソ練やりましょう」

タケルは自分のリュックから、ゴッドグローブを取り出した。


「これは、アキラさんのために祈りを捧げた、タケル君命名『ゴッドグローブ』です。サイズは合うはずですからはめてみてください。」


アキラさんは渡されたグローブを素直にはめてくれた。


「では、使い方を説明しますね。」

「このグローブは『風の神様 ウィン様』のお力を借りています。ですので、使う前には必ず、祈りを捧げるようにしてください。頭の中で結構ですから、次のように唱えてください。」

「『風の神、ウィン様 私の拳に力を与えてください。』そして、その時に拳の先から強い風が吹き出すイメージを頭の中で描いてください。・・・出来ましたか?」


「大丈夫、できた。」

少し間を置いて返事が来た。


「では、早速ですがあの大きな石の1メートル手前から、拳の風が石に叩きつけられるイメージで殴ってください。」


アキラさんは石の前で、両拳を軽く握って頭の高さで構えた。

軽くフットワークを入れると同時に左の拳を突き出す。


「バシーン!」


激しい音が離れた石を振るわせた。


「どうぞ、連続でぶん殴ってください。」


シャドウボクシングのように、左ジャブを2回、続けて右ストレートを放つ。


「バン、バン、バシーン!!」


石から強烈な音が3連発で響き渡った。


「どうです、凄いでしょ~。」

「凄い、最高!」


(おお、アキラさんのテンションMAX!!)

(でも、本番はこれからですよ)


「これなら、リーチ不足は解決です。頭の中で強い風を描いてどこまで届くかはアキラさん次第だと思います。」

「わかった。練習する。」


「ですが、アキラさん。今のはウォーミングアップに過ぎません。ゴッドグローブの力はこんなもんではありません。」


「次は、もう一度ウィン様に祈りを捧げてください。今度は『ゴッドブローと言いますので、岩をも砕く風の力を私の拳に与えてください。』そう祈って、右拳から突き出た風が岩を突き抜けるイメージを描いてください。・・・大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫」

今度も間をおいてから返事が帰って来た。


「では、岩にぎりぎり届かないところで構えてもらって。岩の寸前で殴った拳を止めてください。拳を突き出すときには大きな声で「ゴッドブロー!!」と必ず叫んでください。」


頷いたアキラさんはフットワークを使いながら、軽い右ストレートで距離感を何度かあわせている。


後ろにステップしてから踏み込んだ!


「ゴッドブロー!!」


叫び声ともに、右ストレートに乗った風が岩を襲う。


「バキィーン!!」

岩から甲高い音が鳴り響いた。


(大きな声出るじゃん)

感心しながら、近寄って岩の表面を確認する。


表面の一部が欠けて、たてに深いひび割れが走っている。

生き物ならイチコロの破壊力だろう。


「やりましたねぇ。ゴッドブローの完成です。魔獣相手なら寸止めじゃなくて、拳で殴れるので更に威力は増大するはずです。」


アキラさんは目をキラキラさせていたが、タケルをみて首をかしげた。


「どうしましたか?」

「本当に殴ってみたい。」

「岩ですか? 手を怪我しちゃいますよ?」

「大丈夫。」


そういって、腰にぶら下げた巾着袋から、何かを取り出した。

漫画でしか見たことはないが、「メリケンサック」と呼ばれる拳にはめる金属武器だ。

(そういえば、派遣の最初の日に持参物はこれだけって)

(ずっと持ち歩いてたの?)


「これで大丈夫」

指をサックに通して、拳を見せる。


「わかりました、怪我したら光の魔法で何とかしますので、やっちゃってください。」


アキラさんは嬉しそうに、本当に嬉しそうにうなずいて岩の方に振り返った。

またフットワークを使いながら、今度は岩の表面を軽く殴っている。


カツン・・・

カツン・・


また、後ろにステップバックしてから踏み込んだ!


「ゴッドブロー!!」


叫びと同時に風の拳が岩に伸びる!!


バッガァーン!!・・・


空気を振るわせる振動と巨大な爆発音がタケルを吹っ飛ばし、乾いた土の上に横倒しに投げ出された。

受身を取りそこなった右手とアバラが痛い。

左耳はキーンと言う耳鳴りが続いている


アキラさんが居た場所を振り返るとまだ砂煙が立ち上っている。

的にした岩は地面から上が消し飛んでいた。


アキラさんは最後に見た場所から3メートルぐらい後ろでしりもちをついていた。

立ち上がって近寄るとニッコリ笑っている。

(笑い事じゃねぇっつうの)


「大丈夫ですか?」

アキラさんを引き起こす。


笑顔のままで耳を指差して、顔の前で手を振っている。

耳をやられたようだ。タケルの左耳も同じかもしれない。


アキラさんの両耳に手をかざして、祈りを捧げる。

(アシーネ様 力をお貸しください)


「癒しの光を!!」


「元に戻った。聞こえる」

成功したようだ。


タケルの左耳は一時的なもので耳鳴りが段々収まってきた。

右手とアバラもたいしたことは無い。


「他に怪我は無いですか?」

「大丈夫。」


二人で大惨事の後を確認しに行く。


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