第42話 ドタキャンでシフト再編

■ファミリーセブン 札幌駅前店倉庫  ~第三次派遣終了~


今回は現地時間の16時に現世へ戻ってきた。

こちらは18時なので、時間的な違和感は少ないはずだ。

西條はいつものように迎えてくれたが、ダイスケとアキラさんにも話があると言う。


「明日明後日の土日で来てもらう予定だった、ヤンさんとグエンさんなんだけど。二人とも辞めちゃったんだよね。それでシフトの件をどうしようかと思って。中島さんは土曜日なら入ってくれると言ってます。」


(ドタキャンで辞めたか。まあ、お互いバイトだもんね)

タケルはやむなしと考えた。


「ダイスケは来週の平日はどんな予定なの?」

「俺は月曜の次は金曜日しか入れません。」

「OK。アキラさんは明日以降も全部大丈夫で良い?」

頷きが帰って来た。


「じゃあ、俺とアキラさんは火曜日を一緒に休みにしましょう。」

「明日と月曜は4人で、日曜はこの3人で行って、水・木は私とアキラさんとナカジーですね。」


「それで出来れば、全部8時~18時シフトで行きたいけど二人は大丈夫?」

「勉強がはかどるんで、全然OKです。」

アキラさんは無言の頷き。


「じゃあ、来週までの人繰りはそれで決まったね。中島さんも朝は8時から入りたいっていってるから、そうしてもらうね。仲間はずれがイヤだって言ってるよ。」

西條がニンマリ笑う。


ダイスケとアキラさんは先に帰り、倉庫の打ち合わせスペースで西條に報告と相談をする。


「聖教石を売ったのはまずかったですかね?」

「全然大丈夫、『勇者の心のまま』で問題ないから。ただ、教会の一部は良い顔しない可能性はあるね。教会の中でも聖教石の取り扱いは利権になってる部分はあるから。」


「しかし、今回も無茶苦茶だね。魔法石ってそんなに簡単にできるの?私達が魔法石を作るのに、どれだけの時間を掛けているか・・・。それと、自分で転移のポイントをつくるのも良く思いついたね。」

「実際に自分が旅に出ることを想像したら、あまり遠くに行けない事に気がついたので、必要に迫られてですかね。」


「ところで、魔法石の件もそうですけど、教会では魔法の学校とか体系だった指導とかは無いんですか?」

「そう、私もこっちに来て初めて気がついた。向こうだと当たり前なんだけど、全部、師匠と弟子みたいな仕組みになってる。師匠が光の魔法士なら、弟子はその魔法を極めようとする。他の魔法も使えるんだけど、他に修練に行くと自分の師匠はいい顔しないからね。」


(それで、魔法の応用があまり進んでないのか?)


「で、明日からは3人で何をするつもり?」

「旅の準備と新しい魔法武具の開発ですね。」

「新しい魔法武具?」

「ええ、アキラさん用にアイディアがあるんです。出来てからのお楽しみです。」


「わかった。最後に私から良いニュースを1つ。」

「何ですか?」

「皆さんの時給を来週からアップすることになりました!」

「マジですか、いくらに?」

「予定より随分早いんだけど、タケルさんはリーダ手当で+200円、他のみんなも+100円上乗せします。」


(2200円か、10時間シフトで1日22000円・・・だいぶ良くなった。)

(請求書もあと2日あれば解決するな)

(今日はすしでも行くか・・・回ってるけど)


■西方大教会 司教執務室


「ギレンよ。ときに、わが町の勇者達はどうしておる。」

「オズボーン様のご指示通り、最近は女をあてがわぬようにしましたので、魔法の修練を少しとそれ以外は酒を飲んでおります。さらに、手を打ちましょうか?」

「いや、今のままで構わぬ。最低限の面倒だけ見ておけばよい。こちらから追い払うのは得策ではない。」


「それで、魔法のほうは上達しておるのか?」

「安定的に炎が出せるようになったようですが、特段の進歩は無いようです。」


(やはり、スタートスの勇者たちが特異すぎるのか・・・)


「スタートスへの手はずは整ったのか?」

「スタートスの方には次回の勇者到着までに、女教会士3名と荷物が届く段取りになっております。すでにこちらを発っております。」


「女の教会士には充分に言い含めてあるのか?」

「それはもちろん。全てを勇者に捧げるように言い含めております。意向に逆らった場合は神と教会から、一族含めて神罰が下る旨をそれぞれの胸に刻み込んでおきました。」


(なんと言って脅したかは聞かぬ方が良いな)


「それ以外に報告はあるか?」

「はっきり確認できたわけではありませんが、スタートスの勇者たちは風の魔法も扱えるようです。」


「風魔法をもか? どのように使っているのかを必ず確認して、わかり次第、報告するように伝えろ!」

「かしこまりました。」


(あやつらは、いったいどのように・・・、いや誰から?)

(自主学習と言っていたが・・・)


■札幌市内 手芸洋品店


タケルは大勢の女性客の中で、商品の材料表示を食い入るように見つめながら、生地を選んでいた。


(天然素材で色々探さないと。)

(旅に役立つ生地なんかがあれば・・・)

(向こうで加工する裁縫道具も追加で買うか・・・)

(ドリーミアほどではないけど、お金が回ってくるようになったし)

(あっちの生活も改善しないとね)

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