第41話 北方の異変

■スタートス聖教会裏 空き地 ~第三次派遣4日目~


ムーアから戻ってきたタケル達は昼食後に武術の修練を行った。


ダイスケは両手剣でブラックモアと立会いをしている。

昨日マリンダから聞いた話は誰にもしていない。

ブラックモアも指導自体に変化は見られないので、当面は静観するつもりだ。


アキラさんは午前中から林の中で組み手練習を続けている。

障害物を生かした防御とそれに対する攻撃の訓練らしい。

(聞き取った内容の行間を埋めての解釈だが)


アキラさんには、魔法武具でパワーアップしてもらうプランを持っているが、今日は16時までしかこっちに居ないので、次回遠征まで待つしかない。


タケルは今日もショット&ダッシュで弓の修練だ。

50歩の距離から10本に2本は当たるようになった。

確実に成長している。 が、狩りへの道はまだ遠かった。


■北方州都 クラウス 北方大教会 司教執務室


「リカルドよ、シベル大森林の方はどうなっておる」


「はい、アイオミー司教様。魔獣の数が増えており、近隣の村では民や家畜の被害が出ております」


「ロブと勇者様が向かったのであろう?」


「昨日向かわれましたので、今頃は大森林に到着しているはずでございます」


「勇者様は戦いの方はどうじゃ」


「司教様からいただいたロッドを使い、魔法の修練には熱心に取り組んでおられます。ですが、魔獣との戦いとなるとまだ難しいかと」


アイオミーは暖炉の火を見ながら、沈鬱な表情をうかべた。


(春が終わるこの時期に、未だ雪が解けず部屋に暖を必要とするとは・・・)

(魔竜の復活は間違いなく近づいておる。)


「リカルド、皇都への書状を至急準備しなさい。魔獣に関する報告と炎の魔法士と武術士の増援を要請するのじゃ」


「かしこまりました」


リカルドが出て行った部屋で一人になったアイオミーには、暖炉でマキがはぜる音が大きく感じた。

暖炉の炎は揺らぎながら、オレンジ色の光を広げている。


(勇者様は武術にはご興味が無いようであったが・・・)

(ロッドの力では、魔法力の強化にはつながらぬ・・・)

(勇者様達をオズボーンのところへ送って、炎魔法を修練させるべきか)


■北方州 シベル大森林


「アケミさん、どうするんですか? 結構大きいのが居ますよ」


アケミ達のまわりに、3匹の狼が飛びかかろうと様子を伺っている。

地面には雪が残っており、狼はゆっくりと雪の上を低い姿勢で動いている。

アケミ達4人は背中合わせになり、その横に剣を帯びた男が立っている。


「大丈夫よ、この魔法少女アケミ様にお任せあれ!」


「少女って、40過ぎた主婦じゃないですか」


「ナオコちゃん、それは言っちゃダメだって。現実にかえって凹むからね。お願い」


「私が火の玉だすから、リカルドさんお願いね。行くわよー、星に代わってお仕置きよ! ファイアーボール!!」


アケミの手にする聖教石がはめ込まれたロッドから先頭の狼に火球が飛んだ。

だが、飛んでいく火球にはあまりスピードが無い。

狼は簡単に横へ飛んでかわした。


リカルドと呼ばれた男が、炎と同時に走りこんでいる。

狼が横へ飛んだ瞬簡に両手剣で上段から切り込む。


「ウリャァー!!」


「ギャン!!」


狼の背中へ剣があたり、鳴き声とともに狼達は森の奥へ逃げ帰った。


「さっすがー、リカルド。格好よかったわよ、惚れ直したわ」


「恐れ入ります、アケミ様。ですが、致命傷が与えられませんでした。前よりも魔獣化がすすみ、体表が氷に覆われて硬くなっております」


「良くわかんないけど、雪も解けないし、変な獣がどんどん増えてるんでしょ?」


「そのとおりです。魔竜の復活が近づいているのかと。」


「アケミさん、魔竜討伐とか絶対できないよ~。私達、狼でさえ倒せないのに。もう、西條さんにお願いして、あきらめようよ~」


「ハナちゃん。大丈夫よ、魔法少女隊に不可能は無いんだから」


「それと、私はこの世界が気に入ってるの。来てから1ヶ月で4人とも魔法で火が出せるのよ、スゴイじゃない。もっと大きな火がビューンって飛ぶようになるまで、ここで魔法を頑張るわ。みんなも協力してね」


「でも、お風呂の無い生活は厳しいですよ。トイレもあれだし」


「そうそう、食事も似たような味付けばっかりだし」


「もう、ナオコちゃんもカズサちゃんも文句ばっかり言わないの。キャンプみたいなもんだと思えばいいのよ。若い子の間ではやってるんでしょ、キャンプ?」


「キャンプ場でもスマホは使えるし。3日間もスマホ触れないと変になりそう」


「本当に、みんなスマホ中毒がひどいわね。3日じゃないでしょ8時間じゃないの、そのぐらい我慢できないと、結婚して旦那のお守りなんて出来ないわよ」


「それとこれは関係なくない?」


話が止まらないアケミ達にリカルドが歩み寄る。


「アケミさま、武術の修練の方は取り組まれないのですか?」


「そっちは、引き続きリカルドに任せるわ。私達は女子チームだから、武闘系はムリよ。力関係はメンズでヨロシクね。」


「・・・承知しました。」





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