第40話 お風呂はどうなった?
■西方州都ムーア 大教会前の泉 ~第三次派遣4日目~
待ち合わせ場所の泉の前には、ダイスケとスティンが既に到着していた。
離れた場所からでも、二人の顔が険しいのがわかった。
「どうした? なんかあったの?」
「実は・・・」
ダイスケに話を聞くと鍛冶職人に発注していた風呂釜が断られたと言うことだった。
怒ったスティンが理由を問い詰めると、二つ理由があるようだ。
一、部材の値段が上がって、スティンの希望する値段では出来ない。
二、上得意から急ぎの仕事が入ったので、当面取り掛かれない。
ダイスケもだが、スティンが申し訳なさそうにしているのが気の毒でしょうがない。
タケル自身もすごく反省した。
費用の話を最初に詰めておくべきだったのだ。
「それで、スティンさんはいくらで発注したんですか?」
「小銀貨3枚(約30万円)です。」
「そんな大金・・・、ひょっとして町のみんなで出し合ってくれた?」
「はい、みんなは喜んで出してくれました。司祭もマリンダさんも。だけど、これ以上はもう難しいです。」
(スティン達がお金をどうするか聞くのを忘れていた・・・大失敗だ)
(今ならわかるが、町の有り金全部ぐらいの大金かもしれない)
「スティン、申し訳なかった。町のみんなに無理させたね。」
「とんでもねぇ、俺たちは本当に嬉しかったんだ。今度の勇者は俺たちのことを大事に思ってくれてるって。だから俺たちも・・・だけど、結局。」
「大丈夫、これから全て解決できる人にみんなで会いに行くから、安心して。」
「そんなこと言って、タケルさんどうするんスか?」
「ダイスケ、今の俺は札びらで頬っぺたを叩ける男だよ。どーんと任せてよ。」
落ち込む二人へ自信満々の笑顔を向けて、歩き出した。
上得意からの急ぎの仕事にも心当たりがある。
■レンブラント商会 応接室
「タケル様、どうされましたか?忘れ物でも?」
「いえ、レンブラントさん、こちらは私の仲間のダイスケ、こちらは私達の町のスティンです。実は・・・」
風呂釜発注の経緯と最終的に断られたことを説明した。
話を聞いて、タケルが言いたいことをレンブラントはすぐに理解した。
「なるほど、タケル様がお察しの通り鍛冶職人に急ぎの仕事を発注したのは私です。金に糸目はつけないので、すぐに昨日のランプ台をつくるように言いました。」
「恐らく鍛冶職人は、部材の費用のこともありますが、利ざやの低い仕事を断りたくなってしまったのだと思います。申し訳ありませんでした。」
「いえ、それはお互い商売ですから、こういうこともあるでしょう。決して職人が悪いわけでもありません。ですが、我々は予定通りに風呂釜が欲しいので、順番を守るように鍛冶職人に口ぞえしてもらえませんか? その代わり費用は職人の言い値で結構ですので。」
「順番の件は承知しました。 それから費用の方は、私のほうで妥当な額にさせていただきます。ところで、風呂釜?とはそもそもどのようなものですか?」
タケルはダイスケに絵を使って説明してもらった。
「細かい部分は解りませんでしたが、小銀貨3枚は決して高くないですね。はじめて作るものですから、職人の気持ちも良くわかります。もう少し高くなると思ってください。費用は帳簿から差し引けば良いですか?」
「それで、お願いします。それと、今後この二人がここに来たら、私同様に面倒を見てください。必要な費用も帳簿から差し引いていただいて結構です。」
「全て承知いたしました。」
デキる男レンブラントに全てを任せて、レンブラント商会を後にした。
教会までの大通りを歩きながら、町のみんなのお金をどうするか考える。
(返すのは好意に対して失礼だけど)
(みんなのために使う方法は・・・)
「タケルさん、やっぱスゴイっすね。」
「何が?」
「今の交渉とか、そもそもの聖教石採掘とか・・・」
「全部成り行きだけどね。こんな風になるとは思ってなかった。何となく聖教石とか魔法をもっと生かせるような気がして、採掘したんだけど。」
「いやぁ、さっきのレンブラントって人も結構有名な商人らしいですよ。スティンが言うには、司教様と同じぐらい力があるそうです。」
(オズボーンと同じぐらい・・・ いい情報だ)
「なんか、そんな偉い人のほうがタケルさんに気を使ってましたからね。」
「確かに33歳のフリーターなのにね。だけど、なんと言ってもこの世界では勇者様ですから、皆さん尊敬してくれるわけですよ。」
「いや、フリーターって・・・、さっきの交渉もバリバリのビジネスマンって感じでしたよ。」
(うん、俺も最初からフリーターじゃないしね)
「それよりも、みんなから集めてもらったお金どうするかを考えよう。みんなに返すって言ったら、町の人は悲しむんじゃないかな?」
「そいつは、ダメです。この金は勇者様のために使うって決めてますんで、もう返せねえです。」
スティンは予想通りの反応だった。
「じゃあ、町のみんなに良いことに使うようにしよう。具体策はこれからだけどね。」
■ ムーア 教会寄宿舎 食堂
「なぁ、タケシ。最近明らかに待遇が悪くなったよな。飯もまずいし、女もつけなくなった。」
「しょうがないんじゃない、流石に愛想尽かしたんだと思うよ。」
「だけど、やつらには勇者が必要なんだろ? 今まではオールOKだったじゃねえか。」
「それでも、限度があるよ。シンジは日本だったら捕まるようなことしてるんだからね。」
「納得いかねぇな。それでも良いってギレンとかは言ってたんだがなぁ。」
「飽きたんだったら、西條さんに言ってやめさせてもらえば?俺ももうつまらなくなってるし。」
「いや、もうちょっと居てやるよ。教会が態度を変えた理由が気になるからな・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます