第35話 聖教石ビジネス
■レンブラント商会
「まずは、4個お作りしたいと思います。使っていただいて、問題なければあと6個作りましょう。」
「おお、勇者様ありがとうございます。それで、お作りいただくのにはどのぐらいの日数が必要でしょうか?」
「ここに木槌とノミのようなものはありますか?」
■西方大教会 司教 執務室
オズボーンは大きな机で、黒いマントの男により届けられた書簡を見て考えていた。
やがて、顔をあげて男に確認する。
「このマリンダと言う魔法士はどのような女だ?」
「皇都から派遣された光の教会魔法士です。たしか20歳過ぎのはずですが」
「男好きがする女なのか?」
「直接は見ておりませんので・・・」
「スタートスに勇者のお世話係として若い女の教会士をすぐに三人送れ。見た目が良いのを必ず選ぶのだぞ。それと、酒と加工肉もふんだんに持たせろ。」
「かしこまりました。」
マントの男は一礼して出て行った。
(きれいごとを言っても、女と酒が好きなのであろう)
(マリンダと言う魔法士を気に入っておるなら、そのものと一緒でも構わぬ)
(皇都の方は後でなんとでもなろう)
■レンブラント商会
タケルは木槌とノミを借りると、レンブラントの前で加工していない20cm聖教石を2本取り出した。
ノミを使って石目(いしめ)に沿って割って行き、5cmぐらいの長さが4本出来たので満足した。
「炎の高さをもう一度教えてもらえますか?」
レンブラントは両手を上下に50cmぐらい広げたので、その大きさの炎を頭に焼き付ける。
聖教石を握って、目を閉じて祈る。
(グレン様、夜の闇を照らす白い炎をこの石にお与えください)
頭でろうそくの白い炎を描き、10秒ほど祈りを続けた。
目を開けてみると手の中の石はピンク色に変わっている。
同じ要領で4本作る。 聖教石の加工を含めても10分程度だった。
(テストが必要だよな)
部屋の天井はかなり高かったので、そのまま試してみることにする。
座ったまま、手のひらにピンクの聖教石を載せて祈る。
「ファイア」
タケルがつぶやくと、50cmぐらいの白い炎が真っ直ぐに立ち上がった。
目を見開いたまま硬直しているレンブラントに、
「こんな感じで大丈夫ですかね?明るい色にしてみました。」
「は、はい。もちろん大丈夫ですが・・・。この色は?」
「ろうそくの炎をイメージしてみました。聖教ランプの色より明るいと思うんですけど?ランプの外側部分はどうするんですか?」
「そちらはガラスと鉄の加工でいつでも用意が出来ますので大丈夫です。」
「じゃあ、これでしばらく試してみてください。炎魔法が使える方ならどなたでも火がつくはずですから。」
「はい、ありがとうございます。しかし・・・」
「どうかされましたか?」
「このような短時間であれほどの綺麗な炎をお作りになるとは、やはりスタートスの勇者が真の勇者というウワサは本当のようですね・・・。」
首をかしげるタケルにレンブラントが金貨4枚は手元に無いので、午後から又来て欲しいという。
「金貨は要らないので、とりあえず大銅貨までを10枚ずついただけますか?残りは帳簿につけて、預かっておいてください。」
「私は構いませんが、初めてお会いする私を信用していただけるのですか?」
「私との契約は常に神が見ていますから、約束を破ると神罰が下るので大丈夫です。」
ニッコリ笑ってクギを刺しておいた。
レンブラント商会を出て太陽を見ると、おそらく11時ぐらいだった。
ダイスケ達とは12時ごろに泉の前で待ち合わせをしているから、もう一つの課題に挑戦する時間は充分ある。
倉庫裏にある空き地へ移動し、光の聖教石を5本取り出して地面に深く刺した。
「アキラさん、ここから転移してみるので、私が戻るまでこの聖教石を見張っといてください。」
「わかった。」
「絶対だれにもさわらせないでくださいね。」
「わかった。」
「万一、戻ってこなかったら・・・西方大教会のギレン副司教に相談してください。」
「わかった。」
(・・・わかった以外の返事はないのか)
5本の聖教石の真ん中に立ち、手にもった聖教石を頭上に掲げて祈りを捧げる。
目をつぶり、スタートスの転移の間を頭に描く。
「ジャンプ」
あたりが暗くなった。
目を開けると薄暗い転移の間だ。
念のため、扉をあけて外をみると、マリンダと目が合った。
「勇者様!」
「ああ、マリンダ。元気?」
「もう、転移の魔法を使いこなしてるんですね・・・」
「うん、順調みたい。」
「そうですか・・・」
「元気無いみたいだね、どうかしたの?」
「いえ、そのようなことは無いのですが・・・」
(?、やっぱり元気が無いな)
「そうだ、今日の夜は食事を一緒にしようよ。ブラックモアさんとかにも声を掛けといてよ。
ムーアでお土産買ってくるからさ。それと、今日はお昼ご飯いらないって、ミレーヌに伝えといて。」
「承知いたしました、皆にも声を掛けておきます。」
マリンダが気になったが、アキラさんを待たせているので転移ポイントへ戻った。
今度は地中に埋めた聖教石の場所をイメージする。
「ジャンプ」
目を開くと、アキラさんが先ほど同じ場所で地面の聖教石を睨んでいた。
ポータブルの転移聖教石に距離の壁は無いようだ。
これで安心して、遠くへ旅立てる。
二人で地中の聖教石を取り出して、教会前の泉へ向かった。
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