第34話 レンブラント商会

■レンブラント商会 


レンブラント商会は大通りから1本入ったブロックにあった。

3階建ての大きな建物横に倉庫のような平屋があり、手前には荷馬車と馬がつながれている。

ハリスは行けばすぐわかると言っていたが、辺りの建物よりかなり大きい建物で、入り口に馬車で荷物を運んだ絵の看板がかかっていた。


ハリスからもらった紹介状を持って建物に入ると、金髪の若い男がレンブラントに取り次いでくれた。

必ず「スタートスから来た勇者」だと名乗るようにハリスから念を押されていたので、その通り名乗ったが、取次ぎの若い男はタケル達をチラッと見ただけで、奥に引っ込んでいった。


しばらく待っていると、奥から帽子をかぶった恰幅の良い男が出てきた。

帽子には鳥の羽がさしてあり、麻の上下に紫色の腰紐を巻いている。

この世界では、おしゃれな部類に入るのだろう。


「勇者様、私がレンブラントです。どうぞこちらへ。」


タケル達が通された部屋は、ビロード張りの柔らかいソファーが大きなテーブルの両側に用意された応接室だった。

壁には絵が、棚には様々な木彫りの置物や綺麗な石が置いてある。


「レンブラントさん、始めまして。タケルと言います。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、遠くからようこそおいでになりました。スタートスにも勇者がいることはこの間、初めて知りました。」


「それで、ハリスさんからの紹介状を拝見しましたが、この国でお金を得る方法をお探しだとか?」

「はい、食事などは教会が全て手配してくれて、問題ないのですが、自由に動こうとすると、ある程度のお金が必要になってくるので。」


「なるほど、紹介状にはタケル様の聖教石を見せていただくように書いてあるのですが、拝見してもよろしいですか?」


タケルは頷き、リュックから聖教石をひとつ取り出してテーブルに置いた。


「これですか!? 確かにスゴイ!! ここまでの色合いは私も実際に見るのは初めてです。」


レンブラントは聖教石を光にかざして、興奮した顔で見上げている。


「これは、炎の魔法が込められているものでしょうか?」

「そうです、50cmぐらいの炎が30秒間続くように祈りを込めました。」

「大きさとか、時間も決められるのですか?」

「たぶん、グレン様にお願いするだけなんですけどね。」


レンブラントは思案しながら、壁のランプを指差した。


「タケル様は教会ランプをご存知ですか?」

「はい、知っています。炎魔法がこめられた小さな聖教石が入っていますよね。」

「その通りです、実はあれをもっと大きくしたものを作っていただくように、以前から教会へお願いしているのですが、教会から良いお返事がもらえないので困っています。」


「大きくして、どうするんですか?」

「主に船で使うつもりです。私の商いでは大量の荷物を出来るだけ早く運ぶことが重要なのです。大きな荷は川船を使っているのですが、川船での運搬は昼間しかでません。教会ランプの明かりでは光が足りないので、夜の運搬が難しいのです。」


「そのため、昼間に馬車で運んだ荷が舟の手前で溜まって大変困っております。私どもは夜も毎日船を動かせるようにしたいのです。」


「なるほど、それでどのぐらいの大きさのランプにしたいのですか?」

「今のランプの5倍以上の大きさにしたいと思っています。」


(教会ランプの聖教石は1cm程度だから、5cmぐらいの炎の魔法石か)


「それで、ここからは内密のご相談なのですが、もし教会ランプの5倍の炎を出せる聖教石を譲っていただけるようでしたら、一つにつき金貨1枚をお支払いします。」


(聖教石は教会管理だから内緒ってことね)

(金貨一枚って、そもそもいくら?って話だけど)


横のアキラさんをチラッと見たが、足元をみて我関せずモードだった。


考え込んでいるタケルを見たレンブラントが、心配そうな顔で付け加える。


「金貨1枚では不足でしょうか? おいくらならお考えいただけますか?」

「いえ、お恥ずかしい話ですが、この国のお金の仕組みがわかっていないので、金貨1枚の価値がわかりませんでした。」


「そうでしたか、大変失礼いたしました。金貨1枚でしたら、小さな家は買うことが出来ます。荷馬車なら、2頭引きの馬車2台と馬4頭は買うこと可能です。普段の生活では金貨を使うことも見ることもまず無いと思います。」


(建物だけとしても1千万円単位ってことか・・・)

(せっかくだからお金の単位を教わらないと)


「他にも銀貨とかがあるんですよね?教えてもらえないですか?できれば、コインを何種類か見せていただけるとありがたいです。」


「わかりました。」


そういって、腰紐にぶら下がっている袋の中から、さらに巾着袋を取り出す。

袋から掴んだ硬貨をテーブルに並べて、色で分け始めた。


レンブラントの説明では、この世界の通貨は全て硬貨だった。

10進法で交換されており、10枚で上の価値の硬貨と交換される。

素材は金、銀、銅、鉄で作られており、銀・銅・鉄の硬貨には大と小の二区分がある。

つまり、硬貨の種類は7種類だ。


経済価値がアバウトだが・・日本円なら


金貨 1000万円

大銀貨 100万円

小銀貨  10万円

大銅貨   1万円

小銅貨   1千円

大鉄貨   100円

小鉄貨   10円


ぐらいになるはずだ。

最初の基準を金貨に置いたので、小さい通貨の誤差が大きいだろう。


通貨の説明を聞いてタケルは思わずにやけた。

(こっちの世界の方が金持ちになれるかも)


「普通の人は銀貨を見ることも無いんじゃないですか?」

「はい、商人以外で銀貨を使うことはまずありません。」


「ランプの聖教石を作ってみることは構いませんが、他の用途に使わないことを誓約いただく必要があります。」

「それはもう、アシーネ様に誓ってお約束します。ランプ以外には決して使いませんので。それで、おいくつ譲っていただけますか?」


(おいくつ?)


「たくさん必要なんでしょうか?」

「私どもでは8隻の船を常時走らせております。それと、船着場側にもランプが欲しいので、出来ましたら10個あるとありがたいのですが・・・」


(おぉー あっという間に億円のビジネスになったよ。)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る