第33話 武具職人 ハリス

■ 西方大教会 転移の間


3回目の派遣3日目は4人でムーアの町へ転移魔法で移動した。

3人を連れて行けるか不安だったが、転移の間に入った4人はタケルの「ジャンプ!」という声とともに、ムーアの町へ無事に到着していた。


転移の間の扉をそっと開けて、外をうかがう。

こちらを見ている人間がいないので、そそくさと教会の外に出て行く。


「なんで、こそこそしてんのよ。」

「いや、見つかるとこっちに移住しろって煩い(うるさい)からさ。」


「それにしても、やっぱり大きな町ね。スタートスが田舎だって言うのが良くわかるわ」

ナカジーは泉の周りの人の多さや、露天の店を見回して感心している。


「今日はとりあえず、午前中だけここにいる予定。まずは武具工房に向かいます。」

3人を引き連れて、ハリスの武具工房へ向かった。


みんなは大通の店を興味深そうに眺めながらついて来る。


「武具工房の後は、しばらく自由行動にするから、好きに見て来て良いよ。ただし、我々にはお金が無いことを忘れずに。」

ナカジーは渋い顔をしたが、実際問題タケル達は1円も持っていない。

(というか、この世界の通貨単位さえ知らない)


武具工房にはいると、ハリスは作業台で剣の柄に皮を巻いていたが、タケルを見て笑顔を向ける。

「ようこそ、スタートスの勇者さま。又来てくれたんですね。うれしい限りです。」

「こんにちは、ハリスさん。今日は仲間を連れてきました。」


仲間を紹介してから、魔法武具について相談する。

「この間相談した剣ですが、両手剣、レイピア、槍にこの聖教石を取り付けたいんです。」


リュックの中から加工した聖教石を取り出してテーブルの上に並べた。


「こいつはスゴイ!!」

ハリスは石を見るや驚きながら、自分の手にとって、光にかざす。

手に取ったのはダイスケの両手剣用に加工したものだ。


「この聖教石はどうなさったんで? オズボーン司教様から?」

「いえ、私が祈りをこめて加工しました。」


「勇者様が・・・・。いやー、ここまで色がはっきりしている石にはお目にかかったことがありません。魔法力の強い大魔法師様や教皇様がお作りになれるとは聞いていましたが、実際に目に出来るとは・・・」。

「一生懸命、お祈りしましたから」

笑うタケルをハリスはビックリした目で見ている。


「お祈りですか・・・、驚きました。で、コイツを皆さんの武器に取り付けたいとそう言うことですね。でしたら、皆さんの武器をちょっと見せてください。」


剣、レイピア、槍をざっと見ただけで、ハリスは浮かない顔をした。

「これは、全部教会から支給されたものですよね。ここの店にあるのも同じですが、悪いって訳じゃぁねえんですが、その石をつけるにはどれも力不足ですわ。」

「その石をつけて魔法をつかってると、すぐに剣や槍が壊れちまうと思います。」


「教会で支給されるもの以外にも武器はあるんですか?」

「あります。あまり多くは流通していませんがね、教会の特注品を作る武具職人がいますし、教会と離れて暮らしているやつらもいますからね。」


「教会と離れて暮らしているというのはどう言うことですか?」

「あぁ、勇者様方はこのドリーミアのことは全部教会の人から聞かれてんですよね。だったら、それは「教会が言うドリーミア」ですから、教会に都合の悪いことは存在していないことになってるはずです。」

ハリスは少し声のトーンを落とした。


「勇者様を信頼して、この場限りってことでお願いします。要するに教会を信じていない人間もたくさんいるってことです。そいつらは、町の中にもいますし、町から離れて別の場所に村を作ってるのもいます。」

「もちろん、教会は良い顔しませんし、そいつらに恩恵を与えたりもしませんが、とっ捕まえて牢に入れるってこともしていません。今のところは、存在しないものして扱ってます。」


(税金も払わず、行政サービスも受けないってことか)


「あっしが言うのもなんですが、武具職人でもこだわり持って作りたいやつは、教会から離れて行くのが結構います。あっしの師匠もその口なんですが・・・」

ハリスは腕を組んで考え込んだ。


「もし、勇者様がこの石で魔法武具を作るんでしたら、一度あっしの師匠に会ったほうがいいと思います。間違いなく、ドリーミアで3本の指に入る名人ですから。必ず勇者様達に見合った武器を用意できると思います。」


「ハリスさんの師匠はどちらにいるんですか?」

「師匠はここから馬車で二日ほど北に行った先にあるボルケーノ火山の近くの森に一人で住んでます。」


(二日か、行けなくは無いだろうが)

(問題は・・・)


「ハリスさん、我々には武具代をお支払いするお金が無いんですが、何かお金を稼ぐ方法はありますか?」

「そうでしたか、師匠は勇者様方を気に入れば、金は要らないっていうと思うんですが・・・路銀や荷馬車の手配で金が必要になりますねぇ。」


テーブルの聖教石を見ながら考え込んでいたハリスが急に顔をあげた。

笑みをうかべている、何かを思いついたようだ。


「でしたら、勇者様にご紹介したい人がいます。よければ、これから会ってみませんか?たぶん、色々力を貸してくださると思いますんで。」


ハリスはタケルにレンブラント商会宛の紹介状を書いてくれた。

レンブラントは西方地域の大商人で、ドリーミア中で商売をしているらしい。


町を見て回りたいと言うダイスケとナカジーと別れ、アキラさんと二人でレンブランと商会へ向かった。


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