第32話 転移魔法の限界

(前回のお話)

ムーアから転移魔法を使って戻って来たタケルは、この世界での移動距離を伸ばすために転移魔法の強化を目論んでいた。

一方でタケルに袖にされた西方大教会のオズボーンは次の手を考える・・・


■スタートス聖教会裏 空き地


翌朝、全身が筋肉痛のタケルはナカジーを連れて空き地の修練へ向かう。

ダイスケとアキラさんは朝から武術の修練をするようだ。


「それで、コンビ芸って何すんのよ。」


タケルは、小さなピンク色の聖教石をナカジーに渡した。

「これを腰の高さで手のひらに載せて、その上に1メートルぐらいの炎を30秒出すイメージをグレン様にお祈りして。」

「用意が出来たら、そのままやっていいから。」


ナカジーは頷いて、目を閉じた。

タケルは、ナカジーの手と的になる木が一直線になる位置に移動して右手を上げた。


「ファイア!」 

ナカジーの声で炎があがる。


「ウィンド!」

タケル声で右手から、風がばしった!

風は炎と混じり、火炎放射器のように的へ向かって炎が伸びる!


「キャッ!」


ナカジーがビックリして、手を引き聖教石が下へ落ちた。

タケルは右手をおろして、風魔法を止める。


聖教石の上で炎はまだ燃えているが、見ているうちにやがて消えた。


「ダメじゃん、落としたら全然意味ないよ。」

「だって、イキナリあんなのビックリするでしょ! 先に言ってよね。!!」お怒りです。


「先に言ったら、感動が無いじゃないの。はい、もう一回やるよ。今度は落とさずにそのまま火を出してね。」


聖教石を拾って渡すとナカジーはふくれっ面で石を受け取った。

ご不満のようですが、もう一回やってくれるようです。


先ほどと同じようにナカジーとタケルが構える。


「ファイア!」 ナカジーが叫ぶ。


「ウィンド!」 ナカジーの炎を見てからタケルが叫ぶ。


ナカジーの手の上の炎がタケルの風に乗って一気に伸びた!

タケルは自分の体をゆっくり左に動かして、火炎風を右へ移動させる。

火炎で4メートルぐらいを横になぎ払ったイメージだ。

木に燃え移ってはいないが、思ったより燃やしすぎたので、右手を下ろして風を止めた。


ナカジーの手の上の炎はまだ勢いよく燃えている。

10秒ぐらいでよかったかもしれない。


「やっぱり、無茶苦茶だわ! あんなに焼いてどうすんのよ!!」

「確かに、ちょっとやりすぎたかな。もっと短い時間でよかったかもね。」

「だけど、ゴブリンなんかが、たくさん出てきたときに、一気に焼き払えるから効果的だと思わない?」


「それはそうだけど・・・、ところで、この石はもらっていいの?」

「うん、いいけど。手に持つと不便だろうから、レイピアにつけられないかと思ってる。」

「レイピアに?」

「明日、ムーアにいけたら向こうの武具工房で説明するよ。」

「エッ、私たちもいけるの?」

「それは、俺の修練結果次第かな。」


ナカジーには炎魔法の連続を続けるように言って、シルバーと一緒に林の奥まで歩いた。

泉に続く小川の手前にちょうどいい空き地があったので、リュックから10センチぐらいの聖教石を1本取り出す。


右手で聖教石を掲げ、スタートス聖教会の転移の間をイメージして光の神アシーネ様に祈りを捧げる。

(アシーネ様、お力をお貸しください)


目を開いてつぶやいた。

「ジャンプ」


・・・何も起こらなかった。

林の中の景色は変わらない。

となりでシルバーが首をかしげてこちらを見ている。


(だめですか、では次のプランへ移行)


リュックから今度は昨日祈りを捧げた光の聖教石を5本出して、5角形になるように自分の周囲の地面に深く刺した。


もう一度右手で聖教石を掲げ、スタートス聖教会の転移の間をイメージする。

(アシーネ様、お力をお貸しください)


目を開いてつぶやいた。

「ジャンプ」


音も無く周囲の景色が変わった!

薄暗い教会内の転移の間だ!

隣にシルバーもいる。驚くことも無く尻尾をゆっくり振っている。


念のため扉を開けて外をうかがうが、スタートス聖教会の中だった。

急いで、シルバーの横に戻り、転移の間の聖教石の中に身をおく。


今度はさっきの空き地に刺した5本の聖教石をイメージする。

(アシーネ様、お力をお貸しください)


目を開いてつぶやいた。

「ジャンプ」


成功だ! 

一瞬でさっきの明るい空き地に自分とシルバーがいる。

ポータブル転移システムの完成!

自分で飛ぶ場所を作ることが出来た。


(問題は距離の制限があるかだが・・・、色々試すしかないな。)

(そうか、明日ムーアに行って戻りを試してみよう。)

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