第21話 森での出会い 前編
■スタートス近郊の森
ノックス司祭が修練中の空き地に来たのは、ブラックモアへのリアン捜索指示だった。
朝から父親と一緒に森へ行ったリアンが見当たらなくなったらしい。
先ほど、一旦町へ戻ってきた父親は村の連中を連れて、もう一度捜しに行っている。
「勇者様達、申し訳ないけど あたしも今から捜しに行くから、今夜の食事はパンと干し肉ぐらいで勘弁しておくれ。」
「ミレーヌさん、そんなこと全然気にしなくて結構です。私達も一緒に捜しに行きますよ。人手は多い方が良いでしょう。」
ダイスケとアキラさんを見ると二人ともうなずいた。
「ナカジーはもうすぐ帰る時間だから部屋で待っといてよ、お見送りできないけど気をつけて帰ってね。」
「わかった。そっちも気をつけてね。」ナカジーも行きたそうだが、持ち時間を理解している。
森までは、馬車で20分ぐらいかかった。
ミレーヌによると、リアンは何度も父親と森に行っているが、いつも一人で動かずに遊ぶ子なので、父親は安心して狩りをしていたようだ。
今日は旦那が獲物を追って戻ると、いつもの場所にいなかったらしい。
タケル達は荷馬車からおりて、ブラックモアに続いて森の中へ向かった。
森の中に入ると、背の高い木に阻まれて、太陽の光はうっすらとしか届かない。
全員の手には、教会に吊るされているランプがある。
馬車の荷台でマリンダさんが配ってくれた聖教石のランプだ。
聖教石に炎の魔法が続くようにしてあるもので、横にしても消えないし、引火もしないようで非常に便利なものだ。
リアンが行方不明になった場所まで10分ほど歩き、そこから分かれて捜索することになった。
タケル達3人は日の沈む方向に、ブラックモアとミレーヌはその反対方向に進むことにして、マリンダはそのまま切り株で待つことになった。
「タケル様、何かありましたら。アシーネ様へお祈りください。私はその声を聞いて必ず駆けつけますので。」
マリンダにうなづいて、タケル達3人は横1列に並んで進み始めた。
間隔は20メートルぐらいで、お互いのランプが見える範囲にしてある。
「リアァーン。」声を掛けては足を止めて、少しずつ進んだ。
アキラさんも「リアンちゃーん」と声を出して呼んでいる。
アキラさんの声が小さいと思って、3人の真ん中に配置した。左がタケル、右がダイスケだ
森の中は、高い木のせいか下草はほとんど生えてなく、地面が露出して歩きやすい。
ところどころに、笹のような草が覆っているが、視界は大きな木以外に妨げるものは無い。
横一列で声を掛けながら20分ほど歩いた。
段々と木や笹などの量が多くなってきた。
鬱蒼(うっそう)と生い茂る木のせいで、あたりがほとんど見えない。
かろうじて、太陽が沈む方向はまだ確認できる程度だ。
横にいるランプを確認しながら、リアンを呼び続ける。
突然、タケルの左方向から、笹がすれる「ガササッ」と言う音がした。
緊張して音のした方向に向き直ると、大きなケモノがこちらを見ている。
距離は10メートル程度だが、かなり大きい。
(熊か?)
タケルは本能的に声を出さず、ランプをケモノのほうに向けて、槍を握りなおした。
笹をかすめてゆっくり現れたのは、巨大な狼だった。
「おそらく」狼だが、大きさがタケルの知識の3倍はある。
耳をピンと立て、黄色い目で、タケルをじっと見ている。
大きさに恐怖して、タケルは一歩も動けない。体を横に向けていて飛びかかる姿勢ではないが、この距離ならどっちにしろ逃げられないだろう。
睨みあいがどれだけ続いたかわからないが、狼が先に動いた。
タケルから目をそらして、笹の向こう側へ進んでいく。
タケルは目線を切らずに、じっと狼の動きを目で追いかけた。
狼は5メートルほど向こうへ進んでこちらへ向き直り、奇妙な体勢になった。
タケルは息を殺したまま、ランプの光を少し近づけてみる。
見えてきたのは犬で言う「オスワリ」の体勢だ。
首をかしげて、こちらを見ている。後ろの尻尾も振っているようだ。
犬なら、主人に対する好意の表れだろう。
(そっちに来て欲しいのか?)
横のアキラさん達のランプを見たが、マズイことに既に移動したのか見えなくなっている。
タケルは声をあげて仲間を呼ぶか迷った末に、黙ったまま狼に少し近づいてみた。
タケルが近づくと、狼は立ち上がり、更に5メートルぐらい進んで止まった。
タケルも続いて近づくと、また「オスワリ」している。
大きさと吊り上った目をのぞけば、主人をからかう飼い犬にしか見えない。
すでにタケルの恐怖は薄れてきて、興味の方が勝っている。
タケルは狼が歩くままに、付いて行きはじめた。
50メートルほど付いていくと、狼はタケルを振り返ってから、密集する笹のなかに突然消えた。
槍で笹を除けながらランプで照らしていると、足元から砂が落ちる音がする。
笹の中を見ると笹は崖上の端に生えていた。もう少し前に行けば危うく下に落ちるところだった。
崖は5メートルぐらいの高さで、下から狼が黄色い目でこちらを見上げている。
ランプを崖沿いに照らすと、崖は大きな窪地のへりで、窪地の反対側はかなり低い位置まで下がっていた。
反対側に回り込んで窪地の底へ降りた。
窪地は地面がえぐられたようなっていて、底には大きな石が散乱している。
静かに狼のほうへ近寄りながらライトを照らすと、狼の足元に小さい麻の服が見える。
リアンだ!
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