第17話 お風呂大臣ダイスケ

■スタートス聖教会 食堂


タケル達が風呂への夢を語っているときに、遅れていたノックスが到着した。

タケルとナカジーの間に座ってもらい、ノックスにもタケルが乾杯のしきたりを伝授して乾杯した。


「ところで、私たちの世界にいる西條さんというのはどんな魔法士なんです?」ナカジーが取り分けた肉皿をノックスに渡しながら聞く。

「光の大魔法士サイオン様です。アシーネ様に愛され、時をも越えるお力をお持ちです。」

「大魔法士と言うことは階級が上位なんですか?」タケルが聞く。

「はい、大魔法士様は聖教石で言えば赤く光るお力をお持ちです。今の聖教会では7人しかおりません。そのうち4人は4大教会の各司教をお勤めです。残りのお二人は皇都(こうと)の大聖堂で教皇様に直接お仕えになっております。」


「4大教会というのは、どこにあるのですか?」

「ドリーミア4州の各州都にございます。一番近いのは西方州都「ムーア」に、それ以外には東方州都「ゲイル」、南方州都「バーン」、北方州都「クラウス」にそれぞれ大教会があり、大魔法士様がおられます。」


入り口のドアが開いてヒンヤリした風と一緒にスティンが現れた。


「勇者様、遅くなりました。」大きな体を心なしか小さくしたようだ。

「いやいや、ありがとうございます。とりあえず一杯飲みましょう。」タケルはスティンを隣のテーブル席に着かせて、ナカジーに酒の追加をお願いした。

ナカジーは、既に樽から自分で酒を注ぐ権利をミレーヌから確保している。

またもや、乾杯のしきたりを伝授して、乾杯する。


必要な儀式が終わったので、ダイスケをスティンのところに呼んで、最重要議題の検討に入った。

大きな風呂の絵でダイスケが我々の希望を一通り説明してくれた。説明は上手かったが、どこまで伝わったかは不明だ。


話を聞いたスティンはしばらく考えてから、

「お湯を貯める場所と体を洗う場所、そこを衝立で囲うって話ですよね?

それならできんことは無いですが、お湯を作る仕掛けがわからんです。外の釜で沸かすってのはわかりますが、どうやって貯める場所に移すんで?」

「やっぱり、蛇口って言うものがないのか、・・・ここに何か仕切りのようなものを入れて、水を止めることはできないですか?」ダイスケが図面を指して聞く。

「仕切り板のようなものでは、釜の水を完全に止めるのは難しいですわ。」

スティンは腕組みをして考え込んだ。


「魔法で移せないか、ノックス司祭に聞いてみよう。」

「ここで沸かしたお湯と水をこちらの水をためる場所に移したいんですが、水の魔法で何とかなりますか?」タケルがこれまでの話を伝えて、図面でノックスにたずねる。

「水を移すことは容易い(たやすい)ですが、お湯はやったことがございません。人が手を加えた状態の水で、ワテル様がお力を貸していただけるかが心配です。」


考え込んでいたダイスケに、スティンが2枚目の紙を指差した。

「こっちの絵はどうゆう風になってんですかい?」

ダイスケは、お風呂から出したパイプの中に水を通して温めると説明した。

「こっちなら、行けそうです。こういった形の管とかぶせる釜を金具職人に頼んで、人が入れる樽のようなものに、はめ込めると思います。つないだ隙間は油漆喰(あぶらしっくい)を混ぜて詰めりゃあ水漏れは無いはずです。」

「おぉ、すばらしい!!できる!!」タケルは思わず拍手した。


ダイスケは2枚の紙を見比べて、まだ考えていた。

「大きい方の浴槽を作るのは簡単ですか?」

「石で土台を作って、上は石レンガを油漆喰で組み上げれば、1月ぐらいでできるはずです。」

ダイスケが紙にもう一度何かを書き始めた。

「こっちの大きな浴槽の横に、この管と釜を付け加えてもらえますか? 浴槽は少し深くする必要があります。」 釜をつける位置の都合で浴槽を深くしたいようだ。

「深さはこのぐらいですよね、大丈夫です。」

80cmぐらい手を広げたスティンにダイスケがにっこりと頷いた。

二人の協力で、お風呂の案が固まった!


ノックス司祭たちが教会に戻った後、空いた皿を片付けて4人で飲みなおした。

4人とも行ける口だったが、のんべえの順番はアキラ→ナカジー→タケル→ダイスケだ。


「この世界って時間がわからないのが厄介よね。飲みすぎちゃうわ。」ナカジーがつぶやく。

「日が暮れてから3時間? 夜10時ぐらいかな? 明日で一回目の派遣が終了するけど、風呂の目処が立ったのは画期的だよね。ダイスケ先生の才能に感謝ですよ。ありがとう。」

「まだ2ヶ月ぐらいかかるし、実際に作り始めると問題あるかもしれませんけど。」

「いやぁ、現実的な目標があるっていいじゃない。魔竜って言われてもスケジュールが全然見えないからね。これからも生活環境改善プロジェクトを進めようよ。」

「勇者リーダーがそんなんで良いの?」ナカジーがタケルを睨む。

「もちろん魔竜討伐が大事だけど、そのためにもこの町に長くいられるようにするのが一番だと思う。」

3人とも頷いている。


ダイスケは部屋へ戻って、今日のことを思い返した。

(魔法は予想外に上手くいったなぁ、人生最大の感激かも)

(しかし、燃えるだけなら攻撃できないしなぁ)

(槍の練習は結構ハードだった。8倍効果でるかな?)

(明日は水の神様とも仲良くなりたい)

(グレン様にも感謝してますよ。浮気ではありませんから・・・)


ダイスケは部屋へ戻って、今日のことを思い返した。

(剣術は剣道と全然違うけど凄かった。絶対魔法剣使えるようになる。)

(それにしても、タケルさんの魔法は反則じゃん)

(風呂も目処が立ってよかった、スティンもいい人だ)

(・・・マリンダさん 明日も魔法を頑張るぞ!)


ナカジーは部屋へ戻って、今日のことを思い返した。

(風呂かぁ~、最高だね。でも2ヵ月後って、まだいるかな?)

(こっちの料理にも馴染んできたし。今度来るときは調味料持参だな)

(どれだけ食べても、戻ったときは太ってないしね)

(あれ? 長くいるとこっちの世界で太るのか・・・)


アキラさんは部屋へ戻って、今日のことを思い返さなかった。

今日もベッドに入り、気持ちよいまま眠りについた。


派遣勇者たちの長い二日目が終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る