第15話 魔法剣はすごかった!

■スタートス 聖教会裏


(やっぱり、あの剣ではムリかぁ)

タケル達は高くに放り投げられた2本の短剣を目で追った。


ゆっくり回転している短剣が落下に入った瞬間にブラックモアが動いていた。


落ちて来た短剣を左右の手で掴むと同時に右の短剣を前方へ突き出す、そのまま前へ出る勢いを殺さずに、左右の足を踏み変えて回転し左の後ろ回し蹴りを中段に放った。更に回転を止めずに、屈みながら右手の短剣で横になぎ払う。

流れるような連続攻撃だった。ブラックモアが動き出したことを理解してから、止るまで1、2秒だろうか? フィギュアスケートで足を変えながらスピンしたように見えた。


唖然とするタケル達に向かって、

「短い武器を手にしたときは、いかに相手の懐(ふところ)に入るかが鍵になります。今は相手の目線をずらしてから体術を意識した連続攻撃をしてみましたが、剣や槍を持つ相手に通用するかは、お互いの間合いとスピード次第でしょう。」

「獣相手なら、相手の攻撃をかわしながら、踏み込むタイミングが重要だと思います。」

息も切らさずに説明しながら、ブラックモアはそろえた短剣をアキラさんに返した。


「どの武器も、それぞれの間合いが異なりますが、それぞれの武器の特徴を理解して、間合いを掴む修練をされるのが良いと思います。槍の場合はその長さが最大の強みであり、弱みになります。」タケルの槍を手にしたブラックモアが続ける。

「まずは強みを活かす為、先ほどのレイピアと同じように、遠い間合いから一気に突く練習を修練されると良いでしょう。」


左足を前に半身になったブラックモアは、右腰に槍を両手で持ち少し膝と腰を落として構えた。

「ハァッ!」気合ともに一瞬で前方へ飛び出し、着地と同時に右手を一気に突き出した。

槍の穂先はレイピアのときよりも大きく前に移動している。


「武器の長さがある分、先ほどのレイピアよりも遠い相手に届いているのがわかると思います。反対に言うと、槍を持つ者はレイピアが届かない位置で構えなければ強みが薄くなります。これが、間合いの基本的な考え方です。」



「最後に魔法剣をご説明して、後はそれぞれの修練を始めていただきたいと思います。」

「魔法剣は先ほどの剣術に魔法の力を加えることにより、破壊力を増し、間合いを長くとることが可能になります。」


ブラックモアは自分の剣を鞘から抜いて右上段に構えた。

少し息を吸ってから、目を閉じる。

目を開けると同時に剣の先端部分が炎に包まれた。

「ハァッ!!」と言う気合とともに、先ほどと同じく上から斜め下に切り込んだが、横から見ているタケル達には炎で剣先が1mぐらい伸びたように見える!!

そのまま、回転して2撃目3撃目を放つが、炎をまとった剣は先ほどより大きな弧を描いている。


(スゲェ、超カッコイイ)と思ったのはタケルだけでは無い。

後の3人も子供のように目を輝かせている。絶対自分達もやってみたいと思っているはずだ。


「炎の力をお借りすることで、剣の力を増大させることが可能です。事前にお話した通り、魔法剣の力には剣術と魔法力の両方を必要としています。皆様には、魔法剣の前にそれぞれの剣術・槍術と魔法を修練いただきたく存じます。」


剣を鞘に収め、向き直ったブラックモアがマリンダに合図を送った。


マリンダは麻袋の中に、木や布が入った的を二つ持ってきて立木に縛りつけた。

「タケル様とナカジー様はこちらの的に向かって、「突き」の練習をしてください。

できるだけ遠い場所から、一気に突けるようになることが重要です。」

ブラックモアが地面にそれぞれの線を引き、構える位置を教えてくれた。


ダイスケとアキラさんは回転しながら攻撃するために、しっかりした下半身の動きに上半身を合わせる練習をするようだ。

少し見ていると、ブラックモアがダンスのステップのように足の動きを教えている。


タケルとナカジーはひたすら、的に向かって飛びかかった。

「突き」チームの二人にはマリンダがついて見守ってくれている。


マリンダ効果でタケルは張り切りすぎたかもしれない、飛び込みと槍を突き出すタイミングがあってきた頃に右手に痛みを感じた。見ると手のひらの皮が剥けていた。

「お見せください。」気がついたマリンダがタケルの手を取ってくれた。


マリンダが手をかざすと、あっという間に傷が元通りになっていた。

「マリンダさんありがとうございます。ところで、ケガや傷はどの程度までなら魔法で治療できるのですか?」

「魔法士の力にもよりますが、私なら骨折程度は元通りになります。最高位の魔法士なら、生きている方なら元に戻すことが可能と聞いております。」

(スゲェ)思わず、マリンダさんを見つめた。


「治療の魔法はアシーネ様にお願いするのですか?」

「はい、光の神アシーネ様は時の流れをもつかさどる神様です。私どもはケガや病気になる前にお戻しいただくように神にお祈りいたします。」


「私にも使えるようになるでしょうか?」

「魔法の種類によって、魔法士との相性があります。私の場合は光の魔法と相性がよく、炎の魔法はあまり相性が良くありません。タケル様の場合は・・・、グレン様に非常に愛されておいでですので、光の魔法が炎の魔法と同じように使えるかは・・・。」

「ですが、勇者様ですので、私たちと同じように考える必要も無いかもしれません。いちどに全部と言うわけにはまいりませんので、明日からそれぞれの魔法を順番に試してまいりましょう!」


「突き」チーム二人は日が暮れるまで、ひたすら的に飛び掛った。

「ステップ」チーム二人も日が暮れるまで、ダンスを踊った。


完全に日が落ちたので4人とも練習を終え、マリンダとブラックモアに礼を言ってから、宿へ戻った。

気候は5月の札幌並に乾いた空気でヒンヤリしているが、タケルはかなり汗をかいた。


食堂に入ると香ばしい香りがする。

「お帰り、今日はご馳走だからね。もう、いつでも食べられるよ!」とミレーヌが明るく迎えてくれた。

リアンもいるが、相変わらずミレーヌの後ろだ。


少し、体を拭いてから食堂に戻ることにして、それぞれ一旦部屋へ戻った。

(やっぱり風呂が欲しいなぁ、シャワーでもいいけど)タケルはスティンにどんな手順で何をお願いするかを考えながら、服を脱いで汗をぬぐった。

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