第14話 武術士ブラックモア

■ スタートス 聖教会


タケル達が聖教会に戻ると、マリンダとブラックモアが待っていた。

「これから日が暮れるまでは、この世界の武術について私がご案内いたします。」

ブラックモアは皆を席に付かせた。


「この国の武術では、剣や槍といった武器を使うものを基本として、その武器の効果を魔法により更に高める「魔法武術」が発展しています。」

「私の場合は剣術を発展させた「魔法剣」を習得しており、炎の剣や風の剣を使うことが可能です。」

「魔法剣といっても、基本の武術自体が弱ければ、いくら魔法の力が強くても、その効果は大きくなりません。反対に武術がいかに優れていても、魔法の力が弱ければ、やはり効果は大きくならないのです。」

「まずは、皆様にこの世界の武器をご案内しますので、武器を手にとっていただき、ご自身にあった武器の修練をお始め下さい。」


ブラックモアはタケル達を教会の奥の部屋に誘導した。


教会の奥は、司祭たちの仕事部屋と倉庫、それから大きな扉で閉ざされた部屋があった。扉の奥はナカジーが言っていた転移が行われる聖教石がある部屋なのだろう。


倉庫の中には、さまざまな武器や防具が並んでいた。

「主な武器の種類は『剣』『槍』『弓』になりますが、それぞれ長さや重さなどが違うものが何種類もあり、自分の体格や戦い方などによって、ご自身にあったものを選んでください。」


ブラックモアは武器が立てかけられている一画へタケル達を案内した。

剣と槍は箱の中にそれぞれ20本以上立てかけられている。長さも色々あり、剣は長いものはタケルの肩ぐらいあるが、腰ぐらいの長さが多いようだ。


剣はダイスケに任せることにして、タケルは槍を手に取った。槍は剣よりも長さと形に種類が多いようだ。最初に手にとったのは、タケルの身長より少し長い2メートルぐらいのものだ。直径4cmぐらいの木の棒の先に、長さ40cmぐらいの穂先が鈍く光っている。

ブラックモアの言うとおり、かなり重い上に握りが太く感じたので、もう少し短いものを手に取ってみた、長さは180cmぐらいで太さも一回り細かった。

槍としては短い部類だったが、取り回しはこちらの方がよさそうだったので、キープしておく。


他の3人を見ると、ナカジーはブラックモアに何か聞いている。

ダイスケは剣を鞘から抜いて、何度か片手・両手と持ち替えている。

アキラさんは、・・・防具の方を見ていた。

(そういえば、「ぶん殴りたい」って言ってたな。)タケルはブラックモアに体術についても後で聞くことにして、槍を持ったまま弓を見るために倉庫の中を移動した。


弓は10種類ほど壁際に掛かっていた。素材は全て木がベースのようだが、大きさが異なっている。

大きいものの方が遠くへ飛ぶのは間違いないが、引くための腕力が必要になる。


タケルは弓を見ながら色々考えた末、手数を重視して小ぶりの弓を壁から外した。

弓は何種類かの木が張り合わされており薄い金属が組みこんである。

構えて弦(げん)を引くと力を必要としたが、何とか使えそうだ。

(筋トレにも良いし、これにしよう。)

槍と弓を持って、ブラックモアの元へ戻った。


「私は槍と弓を修練したいと思います。」

「承知いたしました。その二つへの適性を修練の中で見てまいりましょう。」


「武術の中で、武器を使わずに殴る、蹴るなどの体術を修練する方法はあるのでしょうか?」

「基本的な動きなら私も手ほどきできますが、体術を主に修練する武術士はきわめて稀(まれ)です。聖教会の本部にそのような武術士がいるかを聞いておきます。」


ダイスケが選んだのは、刃渡り1mぐらいの長さの両歯の剣で、剣幅は10cmぐらいありそうだ。


ナカジーは70cmぐらいの細身の両刃剣を選んでいる。レイピアといわれる種類のものだろう。

魔法をメインで使うことをブラックモアに説明して、勧めてもらった結果だろう。


アキラさんは、変わったものを両手に持っていた。

刃渡り30cmぐらいの剣のようだが、鞘もなく刃(やいば)もなさそうなので、何かが切れるイメージは無い。

「アキラさんは、それで『殴る』イメージですか?」

返事は満面の笑みとうなずきで返って来た。


(ちょっと怖いっスヨ アキラさん)と思いながら、タケルも笑顔で答えた。


ブラックモアが武器の説明をする為に、皆を連れて空き地へ移動した。

「まずは、私と同じ両手剣をお持ちのダイスケ様へ基本的な動きをご説明します。」

「この剣は剣自体の重さを生かして、相手を攻撃する武器になります。逆に空振りをした際には、重さで剣が流れていきますので、その流れも利用して相手を攻撃します。」


ブラックモアは、左足を半歩出して剣を抜き、右上段に構えた。

「ハッ!」と言う気合とともに前方へ踏み込み、仮想敵を上から斜めに切る。

空を切った剣の勢いを止めずに、そのまま体を左回転して2撃目を横から払う、続けて3撃目も回転して、斜め上から剣を打ち込み 剣が地面に当たったところで動きを止めた。


すごい!

ゲームのキャラ並みの動きの早さだ。初撃よりも2撃目3撃目の方が、回転した剣の動きが早い。回転することで敵に背を向けることになるが、スムーズに高速回転している。相手が間隙(かんげき)をつくには、あれ以上のスビートが必要になる。


「この剣は空振りしても止めてはいけません。常に相手を破壊するまで動かし続けることが重要です。剣を止めると、剣の重さで体が流れるか、動きが止まることになり、相手に隙を与えることになります。」ダイスケは説明を続けるブラックモアの話を真剣に聞いている。


「次に、ナカジー様のレイピアですが、剣はあまり使われないと言うことなので、『突き』に特化して修練されることをお勧めします。」

ナカジーのレイピアをブラックモアが手にして、鞘から抜く。

「突きは極力相手と自分の体との距離を置くために剣を持つ片手を伸ばしてから、飛び込んで剣を相手に刺して下さい。突く前の間合いが重要になります。」


ブラックモアは右手に剣を持ち、前方へ軽く手を伸ばした。

左足を半歩引いて、腰と膝を少し曲げて前傾姿勢になっている。

「ハッ!!」先ほど同じような掛け声とともに体が前方へ大きく跳ねる。

同時に体を少し左へ捻りながら、右手を大きく突き出して止った。


これもすごい!

剣先は構えた位置から一気に3m以上前に移動している。

ナカジーを見ると、眉を寄せて顔全体で「ムリッ」と言っているようだが、頑張ってもらおう。



(ブラックモアって何歳ぐらいなんだろう?)タケルは改めてブラックモアを観察した。

身長は180cmぐらいで、ダイスケと同じぐらいだが、肩幅はがっしりしている。

茶色い髪を肩にかかるぐらいの長髪にして、ヘアバンドのようなもので前髪を押さえている。

ヘアバンドの下は堀の深い顔立ちだが、バランス的に少し目が細くて冷たい感じがする。

(30歳~40歳? 俺より若い? 全然わからん・・・聞いてみよ。)


「最後の剣ですが、これは難しいですね。・・・」

アキラさんから剣を受け取り、ブラックモアは考えこんでいる。

「ダメかもしれません。」

そういって、剣を2本とも空へ放り投げた。

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