第10話 聖教国ドリーミアと勇者

■スタートス聖教会 宿舎 

~第一次派遣 2日目~


「・・しゃさま、ゆーしゃさま」何か声がして、世界が揺れているようだ。


タケルが目を開けるとベッドをゆする女の子と目が合った。


「おはよう。」


寝たままタケルが声をかけると、女の子は走って部屋から出て行った。


「ママー!起きたよ!!」


久しぶりに熟睡した感じがする。


体はまだだるいが上体を起こして、大きく背伸びをする。


井戸で顔を洗いうがいをする。


(歯磨きがしたいな、次回はどうするか?)


頭の中で考えながら指ブラシで歯を磨いて、もう一度口をすすいだ。


「おはようございます、起こしてもらってありがとうございます。」


「おはよう、よく眠れたかい?」


フライパンで何かを焼きながらミレーヌがこちらを見る。


足元に3歳ぐらいの女の子がいて、ミレーヌの足元に隠れたまま、タケルを見ている。


「この子はリアン。勇者様にご挨拶しなさい」


リアンを前に押し出したが、恥ずかしそうにミレーヌの後に隠れた。


「おはよう。リアン、起こしてくれてありがとう。」


食堂のテーブルにはアキラさんだけが座っていた。


「おはようございます、アキラさん。」


挨拶して、タケルも席に着く。

ダイスケとナカジーも食堂に来た。


「おはよー」

「おはようっす」


二人とも少しだるそうに挨拶を交わす。


「おはよう、二人はゆっくり眠れた?」

「ヤバイぐらい寝ました」

「死んだように寝た」 


みんな疲れていたのだから、当然だろう。


ミレーヌさんがパンとミルク、卵焼きを持ってきてくれた。


「この世界って、調味料ってあまり無いのかな?」


「そう、前来たときに聞いたけど『塩』は貴重品らしいわよ。マヨネーズは無いしね」


パンをミルクに浸しながらナカジーが答える。


(次回は塩も持ってくるか)


「ところで、ナカジーは日本で9時入りの15時上がりって事は、こっちでは帰りは明日の16時って事ですよね?」


「そう、私はあまり時差が無い感じで先に失礼するの。パッと消えるからね」


ナカジーは手についたパンくずを払いながら答える。


「我々は、明日の24時で、戻ったら日本は16時ってことか。24時だとこっちでは寝てると思うけど、体はどうなるんだっけ?」


「服は来た時のコンビニ制服が勝手にセットされるはずです。寝てると戻ったとき床に寝た状態になるのかな?」


ダイスケも首をかしげながら、考えている。


食後にミレーヌが木の箱に入れたブーツを10足ぐらい持ってきてくれた。


ブーツは足先から編み上げになっていて、皮で足を包むようなイメージだ。

靴底は皮が重ねてあるようで厚みがある。かかとにヒールはないので、皮製の地下足袋じかたびという感じのものだが、軽く歩きやすい。


それぞれ一番合うサイズのブーツを選び協会へ向かった。


■スタートス 聖教会 祈りの間


教会に着くと、ノックス司祭、マリンダと腰に剣を下げた男性が待っていた。


「おはようございます。ノックス司祭。今日はよろしくお願いします」


「おはようございます、勇者様。こちらは教会武術士のブラックモアです。皆様の武術強化をお手伝いします」


ブラックモアは何も言わず、軽く頭を下げた。


ノックスはタペストリー前の演壇にすすみ、タケル達を長いすに座らせた。


「今日は勇者様にこの国『ドリーミア』の成り立ちについてお話します。少し長くなりますが、気になることがあれば遠慮なくお尋ねください。」


「『ドリーミア』は主神『アシーネ』様が全てをつかさどる神の国です。我々、人間におこる「善き事」「悪しき事」全てが神の思し召し(おぼしめし)によるものなのです」


「皆様の世界では、神を信じるか否かがあるように聞いておりますが、この国においては信じないものはおりません。例え神の教えに反して悪事を働くものであっても、それは神の思し召しにより、試練を誰かに与え、そして自らにも試練を与えていると考えております」


「試練を乗り越えることで、人間はより高みへたどり着くことがるのです」


「聖教会は神の教えを民に伝え、祈りを通じて神に我々人間の願いを届ける役割を担っております。教えに反するものを正しい方向へ導く役割も果たします」


「神の教えの多くが聖教典に記されており、勇者と魔竜の伝承も含まれております。魔竜の復活も神の与える試練であり、人間が乗り越えることを神が期待しているのです」


「伝承によれば魔竜の復活は300年の時を経てなされるとあり、また、魔竜復活のとき、魔竜を打ち破る異能の勇者が同時に人間界に現れる。とされております」


「300年前の魔竜討伐では、勇者は自らを鍛え、神の助けを借り、人間の英知を結集して魔竜の討伐を成功させております」


「前回の魔竜復活から来年で300年になります。正確な日はわかりませんが、復活が近づいておることは間違いございません。既に魔の力が増大して魔獣が増えております。また、人間界でも魔の力が与えた影響により、神の教えに反する人々が増えております」


「勇者の皆様方には自らを鍛えていただき、一日も早く神の恩恵を授かっていただくことが、われら聖教会とスタートスの町全員の願いでございます」


ノックスの話が一段落ついたようだ、タケルは聞きたいことが山積みになっている。

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