第11話 ノックス問答と魔法授業

■スタートス 聖教会 祈りの間


■スタートス 聖教会 祈りの間 ~第一次派遣 2日目~


「ノックス司祭、教えていただきたいことがあります。魔竜討伐で神の助けを得ると言うことですが、具体的にはどのようなことでしょうか?」


「勇者様たちは、この世界の神々に認められることにより、大きな力を発揮することが可能になります。神々が与える試練を乗り越え、皆様のお力を神々に示すことで新たな神の恩恵を得ることが可能となります」


「神々と言うのは、どのような神なんでしょうか?」


「光の神である主神『アシーネ』様はこの世の全てをつかさどりますが、この世界を構成する大きな要素にもそれぞれに神が存在しております」


「すなわち、『火の神 グレン』『水の神 ワテル』『風の神 ウィン』『土の神 ガイン』の4神がそれにあたります」


「神々の与える試練とは、どのようなものでしょうか?」


「試練の内容は私どもにもわかりません。皆様の力が神に認められれば、進むべき試練を神々がお示しになります。」


「魔竜が復活する場所は、どこでしょうか?」


「復活する場所も私どもにはわかりません。時がくれば勇者様にご神託が下ります」


(不確定な要素が多いな・・・)と思いながらタケルは質問を続ける。


「では、今の私たちがすべきことは、何かありますか?」


「勇者様達は、お心のままにお過ごしいただければ結構です。私どもが勇者様の行いについて、指図するようなことはございません。ただ、伝承によれば魔竜討伐のためには自らを鍛え、そのときを迎えるとされておりますので、日々修練に励んでいただけることを我々はお祈りしております」


「この世界には他の勇者たちもいるそうですが、どこにいるのでしょうか?」


「聖教会からの連絡では、4つの町にご出現されたそうです。ここから一番近い町ですと西方の州都『ムーア』がご滞在場所です」


「ムーアは徒歩なら5日、馬車を使って3日ぐらいの場所にございます」



「ありがとうございました、今後も色々教えてください」


「では、この後はこの世界の魔法について、教会魔法士のマリンダよりご説明させていただきます」


ノックスは演台から下がり、マリンダを呼び寄せた。


「神への願いは『魔法』と言う形でかなえられることがあります。この国での『魔法』は神への思し召しのひとつです」


「起こしたい出来事、例えば『火をつけたい』『水を出したい』等と言う場合は、その出来事を想像して、神に祈ります。神がその祈りを聞き遂げれば、魔法と言う形でこの世に実現されます。例えばこのように・・・」


マリンダは右手のひらを上に向け、顔の高さに持ち上げた。


持ち上げると同時に、右手の上に炎が現れた! 


ゆらゆらと30cmぐらいの高さの火が揺れている。


マリンダが手を左右に動かすと、手の動きにつられて炎の固まりも動く。


(スゲェ、呪文とかは無いんだ)


タケルは感動しながら見つめる。


他の3人は、前にも見たことがあるのかそれほど興奮していない、ダイスケは心なしか熱心にマリンダを見ているような気がするが・・・


「祈りが届くかは、魔法士の素養と修練の度合で異なります。今のような小さな炎であれば、少しの修練で出せるようになりますが、大きな炎や自分から離れたところに出すためには、強い祈りが必要になります。」


「勇者様方は、我々よりも遥かに高い魔法の素養をお持ちですので、一般的な魔法であれば、すぐに使えるようになるはずです。神は常に勇者様の声に耳を傾けていらっしゃいます。」


タケルを見つめながら、マリンダが微笑む。


(ウワァ、マリンダの笑顔で瞬殺される)


「とはいえ、見ているだけではご理解し難いでしょうから、やってみましょう。」


マリンダは皆を教会の外へいざなった。


宿舎裏の空き地に我々を連れて行ったマリンダは、木箱から石のついたペンダントを取り出し、我々4人に配った。


皮ひもの先に水晶のような石がついている。


「この石は神への祈りが届きやすくなる「聖教石」を加工して作られたものです。身につけていれば、魔法が使いやすく、そして疲れにくくなります。」


マリンダさんは麻シャツの中に入っていた、自分のペンダントを胸から出した。


白い胸元が見えて、タケルの頬が少し緩んだ。


タケルはもらった水晶に目を戻して、手のひらの上で転がして見ていると、少し色が変わった気がした。


皆、同じように首へ掛け終わったところで、マリンダがナカジーに声をかけた。


「中島様は、前回お越しいただいたときのことを覚えてますよね、是非お手本を見せてください。」


「えー、できるかなぁ?」


ナカジーは前へ出てきた。自信はあるようだ。


少しマリンダさんを見た後に、目を閉じて右手を顔の高さままでゆっくりと上げた。


「炎よ来い!」


大きな声を出した瞬間、ナカジーの手の上に炎が灯った!


(ほんとに、できるんだ!!)


タケルは思わず拍手していた。


ナカジーは我々を見て、少し照れくさそうにしている。


炎の高さは10cmぐらいだろうか、見ていると段々小さくなって消えていった。


「すばらしいです。ただ、祈りが弱かったので早く消えてしまいましたね」


「掛け声がチョットはずかしいのよね。マリンダさんみたいに黙って出ると格好良いんだけど、黙ってると何も出ないのよ」


「声は必ずしも必要ではありませんが、イメージを強くして神へ祈りが届きやすくなります。我々も修練のはじめのうちは声に出して祈ります。ただ、今までの勇者様達を見ていると、声がもたらす効果は我々より強いように思えます」


「それでは、勇者様も一度やってみましょう」


マリンダがにっこりと笑ってタケルを招く。


「最初は中島様のように、声を出して炎を頭の中で描いてみるのがと良いと思いますよ。それと、心の中で神への祈りを唱えてください。最初はダメでも、何度かやっているうちに必ずできるようになりますから」


タケルは前へ出ながら、考えていた。


(「炎よ来い!」はチョットかっこ悪いな、ここはやっぱり・・・)


前へ出たタケルはノックスの話を思い出し、火の神グレン様へ目を閉じて語りかけた。


(火の神グレン様、私に力をお貸しください。『ファイア』と唱えますので、描いた大きさの炎を私の手の上にお与えください)


目を開けて右手を顔の高さに上げ、タケルはつぶやいた『ファイア』と。

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