第4話 始まりの祠 前編
■始まりの祠
あたり一面が先ほどの水晶に覆われている、工学的な部屋ではなく鍾乳洞のように上下左右が不均衡になっている。
(ホログラムか?でなければ3D?でなければ、マジで異世界? )
武は頭の中で信じていない自分と対話した。
床を触ってみる。でこぼこした実感が伝わってくる。
壁の水晶にも触ってみるがやはり実感がある。
においもする、土のにおいだ。頬に湿気も感じる。
先ほどと違う場所にいることは間違いない。
しかし、本当に映像が切り替わるように周囲が変わった。
アニメのように暗い通路を光の速さで通過する演出などは無かった。
後の二人を見ると、二人とも武を見ている。
「さっさと行きましょうよ。リーダー」
小澤が武を促すが、心なしかトゲがある気がする。
部屋は一箇所開口部があって、その先は通路のようになっている。
今いる場所よりは水晶が少ないようで、かなり薄暗いが足元が見えないほどではない。
「じゃぁ行こうか」
武は返事をして通路へ歩き出した。
「小澤さんは3回目ってことだけど、前回の派遣はどこまで進んだの?」
「洞窟を出て、すぐの森で全滅」
「えっ! マジで?町までたどり着けず? ちなみにその前は?」
「町にたどり着いて剣の修行を少しやったけど、2回目の派遣のときにはリーダーがドタキャンでバイト辞めたんで、結局は派遣中止」
吐き捨てるように小澤が言う。
「前回町にたどり着けなかった原因は?」
武は足を止めて、小澤に聞く。
「リーダーがくそ野郎で、二人なのに洞窟出たらレベル上げするとか言って森に入って迷って、見たこと無い獣に囲まれてズタズタって感じ。要は2回ともリーダーが使えないんスヨ。まぁ、基本フリーターですからね」
冷ややかな目で小澤がこちらを見る。
(なるほど、小澤君はリーダー不信って感じね。でも、前のバイト先にもフリーターを下に見る大学生って結構いたよな)
「そういう感じね、じゃあ、今回は洞窟出たらまっすぐ町へ向かおう。小澤さんも気がついたことあったら教えてね」
武は無難に返事しておいた。
「高田さんはどんな感じでしたか?」
歩き出しながら、高田にも武は聞いてみた。
「大体同じです」
高田は下を向いたまま返事してくる。
しばらく歩くと、洞窟が二股に分かれていた。
「小澤さん前回とその前、左右どっちに進んだか覚えてる?」
「1回目は左、2回目は右だけどどっちも出口に出た。右のほうが早かったかな」
協力的な返事だったので、小澤に礼を言って右へ進んだ。
5分ほど進むとまた分岐になっている。
相変わらずあたりは薄暗い。
「次もどっちだったか覚えてる?小澤さん」
「・・・」
小澤は返事をせず、立ち止まって戸惑ってる。
「高田さん、前回と違うよね?」
高田は首を傾げたが、小さな声で「たぶん」と答えた。
「なるほど、洞窟が変化しているのか?前回と違う洞窟に飛ばされたのか? それ以外の何かがあるってことね。」
「そんなことマジであるんスか?」
「それは俺にもわからない、何せ初めてだし。異世界なんだから」
武は分岐点の地面にナイフで右にむけた矢印を書いて、右の通路へ進んだ。
「とりあえず、分かれ道があったら全部右に行くことにしよう。」
返事は無かったが特に異論も無いようだ。
右へカーブする通路を進むと、突然武の背中に何かが落ちてきた!
とっさに体をゆすって振り払う。
振り返ると足元のうごめく水の塊を小澤が木刀でなぎ払っている。
水の塊は二つに分かれて動かなくなった。
「小澤さん、ありがとう。これはスライムかな?」
「たぶん、そんなやつです。名前は知りません。」
近くで見ると水の塊は粘り気があるようだ。
イメージ的にはスライムそのもの。
「じゃぁ、スライムってことにしよう。この洞窟は前回どんなモンスターが出てきた?」
「今のやつと後は
「苦戦した?」
「いや、素手でもいけるレベルだったし、今回は俺もコイツがあるから楽勝だと思います」
小澤は得意げに木刀を持ち上げた。
戦うのは好きなようだ。
しばらく洞窟を進んでいくと蝙蝠が上から飛んできた。
屈んでかわすと後ろの小澤が木刀で叩き落して、落ちた蝙蝠を踏みつける。
思ったより大きい、羽を広げると1m近くありそうだ。
爪はそれほど大きくないが、口元を見ると歯がギザギザに尖っている。
噛まれると出血は確実だ。
その後も何度か分かれ道を右に進むが中々出口にたどり着かない。
同じところを回っているわけでは無いので、かなり大きな洞窟のようだ。
二人とも前回と全く違う洞窟だと言っている。
洞窟の天井が高く、幅も広がった広場のような場所にたどり着いたときに、岩棚の陰から石が何個か飛んで来た。
「痛っ!」
山田と小澤が声を漏らす、壁際で小さな影が動いている。
後ろの高田も何か声を漏らしているので振り向くと後ろからも石が飛んでくる。
こぶしより少し小さい石で、骨が折れるようなダメージは無いがあざにはなるだろう。
「小澤さん後ろをお願い!」
山田はナイフを右手に持って前へ出た。
物陰からの投石は続く、左手で顔をブロックしながら走り、うごめく影のひとつをサッカーのインステップキックで蹴り飛ばす。
「フギャァッ」と言う声がし、10メートルぐらい吹っ飛んだ。
武のひざぐらいの高さの小人だ。
後3匹いるが、1匹が棒切れで武の足を叩いてきた。
左足の外側で受けたが、軽くしびれるような痛さだ。
背が低いのでナイフでは刺しにくい。
小さく踏み込んでトゥキックを小人の顔面付近に2匹連続で叩き込む。
喉元と顔面にそれぞれヒットし、相手の歯が折れた感触が足先に伝った。
2匹は呻き声を発しながら、通路の奥へ走っていく。
もう一匹いるので向き直った瞬間に背後で何かが落ちた大きな音がした。
『ズシン!!』
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