第23話 魔法少女みーたん、再び

 今日は深夜の学校で、魔法少女みーたんと久々の対決。

 もうそれだけで昨夜からワクワクが止まらないっていうのに、この間お見舞いに来てくれた中の人の由美子に対しても少し親密になったから、さらに期待が膨らむ。

 今日はどんなハプニングに遭遇できるだろう。昨夜レクターから聞かされた筋書きの内容を思い返したら、もう色々と膨らんで抑えが利かない。


『なんだか張り切ってるみたいだけど大丈夫かい? 意気込みとは裏腹に、表情が緩みっぱなしだよ?』

『だってシャワー室で女子生徒を覗いたら、それが魔法少女だったって筋書きなんだろ? やる気満々に決まってるじゃないか』

『やる気があるのは結構だけど、油断はしないでおくれよ?』


 以前は語るまでもない任務もそれなりにあった。図書館の本をエロ本にすり替えるとか、理科室の実験器具でコーヒーを淹れるとか、女装して女子トイレで用を足すとか……。

 だけど最近は、こんな感じのけしからん任務ばっかりだ、嬉しいけど。

 しかも今回はハプニングに期待するどころか、筋書き通りに任務を遂行するだけでごちそうさまな内容。むしろ自制できるか心配になってくる。

 でもその時はその時、きっとレクターが止めてくれるさ。たぶん……。


『やっぱり、俺の好みを考えて筋書きを考えてくれてるのか?』

『そりゃね。夜の校舎で窓ガラスを壊して回ったり、盗んだバイクで走りだしてもらったりって案もあったんだけど、それじゃキミのやる気は出ないだろ?』

『そっかー。だけど出来ることなら今回は、服を脱いでいくところから覗きたかったかなー』


 そういうことならと、俺は自分の欲望全開で図々しくレクターに要望してみる。

 さすがに調子に乗るなってたしなめられるかと思ったけど、逆に不安を感じさせるぐらいにレクターの返答は従順だった。


『じゃぁ、次回はその辺も考慮に入れとくよ』

『ほんとに? なんだか、話が美味すぎて怖いんだけど』

『何言ってんだい、僕の方こそ感謝だよ。こんなにハイペースで正義感エネルギーを回収してくれてるんだから。蓄積も順調だ』

『ん? 蓄積?』

『まぁ、ボクはキミの力を最大限に発揮できるように、向こうのマネージャーに掛け合ってるだけのことさ。今日もよろしく頼んだよ』


 その期待に応えるように俺は親指を突き立てて、どこにいるのか姿の見えないレクターに爽やかに返事をしてみせる。


『任せとけ!』



 いつも通りレクターに変身させてもらった俺は、はやる気持ちを抑えつつコッソリとシャワー室に忍び込む。

 深夜だって言うのに電気はついてるし、奥からシャワーの音も聞こえてるんだけど、学校の警備はほんとに大丈夫かよ。レクターが上手くやってるおかげなんだろうけど……。

 部屋の中は手前が更衣室、ガラス扉で隔てた奥がシャワールームになっている。

 使用中のロッカーはもちろん一つだけ。シャワーの音が響く扉の向こうはひとまず置いといて、俺はそっとそのロッカーに手を伸ばした。

 そこには魔法少女みーたんのコスチュームが、丁寧に畳んで置かれてる。

 何をするか? それはもちろんこうするんだ!

 俺は掴んだみーたんのコスチュームをガバっと顔に押し付ける。そして鼻に意識を集中させると、目一杯息を吸い込んだ。

 あぁ、この匂いだよ……この、心が休まる石鹸の香り。俺は二度、三度と繰り返し深呼吸して、その香りを脳みそがとろけるほど味わった。


『あぁ、やっぱりいいな、この匂い……』

『ちょっと、ちょっと、いつまで油を売ってるんだい』

『ごめん、ごめん』


 レクターに叱られて俺は我に返る。そうだ、早くみーたんを覗かなきゃ……。

 でもコスチュームを戻そうとすると、そこに上下の下着がそっと置かれてるのを見つけてしまった。直接見えないようにコスチュームで隠してたんだろう。

 これはまさに、さっきまでみーたんが身に着けてた奴! 普段は使用済み下着に興味を持たない俺だけど、みーたんの脱ぎたてってなるとちょっと話は変わってくる。

 俺はそっとブラジャーを手に取る。そしておっぱいが当たってたはずの、カップの内側をそっと頬に当てると、ほんのりと温もりを感じた。

 次はパンティ、色は薄い水色でまたしてもヒモパン。やっぱり前回は偶然なんかじゃない、きっとあれは俺の好みに合わせてくれてたんだ。ありがとう、みーたん!

 これはもっと詳しく確認しないと……。

 俺はパンティの腰の部分を両手で摘まんで、目の前で広げてみる。


「え、ちょ、これって……!」


 俺はこんな状況なのに、うっかり小声で独り言を漏らすぐらいの衝撃を受けた。

 薄っすらなんてもんじゃない、これは完全にスケスケ。履く意味がないぐらいにスケスケ。布の向こうまで透けて見えるほどに……。

 一見、俺の好きな清楚な色使い。俺好みのヒモパン。でもそれを上回る大胆さ。

 その見事なパンティのチョイスに俺は感激した。でもスケスケって……女子高生が履いていいパンティじゃないだろ、これ……。


『ちょっと、いい加減に覗いてあげないと、魔法少女がのぼせちゃうよ』

『あぁ、そうだった……。申し訳ない』


 これをみーたんが履いてるところも見たいけど、今日の筋書きはシャワーの覗き。俺は名残惜しく下着たちを棚に戻して、シャワールームのガラス扉に手を掛ける。

 でもまてよ、みーたんがここまでしてくれてるなら、俺もそれに応えないと……。



 少しだけ気持ちを落ち着けて準備を整えた俺は、今度こそガラスの扉を開く。

 シャワールームの中には個室が四つ。でも肩から膝ぐらいの板扉で隠れてるだけだから、個室って言っていいのか怪しい。

 湯気を立ち昇らせながら、シャワーの音は一番奥から聞こえてくる。

 俺は周りに聞こえそうなぐらい鼓動を高鳴らせながら、一歩一歩その音に近づく。

 すぐそこにはシャワーを浴びてるみーたんがいる。でもこれは筋書きだから、俺が覗くのもみーたんは知ってる。彼女はどんな気持ちで待ち構えてるんだろう……。


 ――俺は身を潜めながら、板扉の上からコッソリと覗く。

 するとそこには、後ろ向きでシャワーを浴びるみーたんがいた。

 後ろからでもアイマスクを着けてるのがわかる。その他は一糸まとわぬ全裸。

 身体の中心を縦に走る、背中の窪みが美しい。

 さらにくびれた腰から、少し上向きに曲線を描くお尻も、とっても艶めかしい。


 俺がジッと見とれてると、やがてみーたんは頭からシャワーを浴び始めた。今なら目を瞑ってるはず。これならもっと大胆な行動に出られる。

 さっそくしゃがみ込んだ俺は、戸の下の隙間からみーたんを覗き上げる。下から見る生のお尻は迫力が段違い。だけど、だけど……ぴったりと閉じられた両脚はガードが堅くて、ちっとも開く気配がない。


 いつ開くかわからない脚を待ってちゃダメだ。ここは行動あるのみ!

 俺は大胆にそっと戸を開いて中に入る。そして目を瞑ったままのみーたんを確認して、身体に触れないように、みーたんの前面へと――。


 こんな感じかな? 俺は頭の中で妄想が膨らむ。

 ひょっとしたら、最初から見せつけるようにこっちを向いてたりして……。

 しかも、俺の方が恥ずかしくなるようなことをしながら……なんちゃって。

 いや、もう、これ、覗く前からお腹がいっぱいだわ……。

 だけどいくらでも食せるのがエロ!

 俺は期待に膨らませながら、身を潜めて板扉の上からコッソリと、シャワーを浴びる魔法少女みーたんをついに覗いた。


『おぉ……』


 魔法少女みーたんは妄想通り、オーソドックスに後ろを向いていた。

 後ろからでもアイマスクを着けてるのがわかる。だけどその他は……バスタオルを巻いていた。

 あれ? シャワー中なのにバスタオル?

 当ての外れた俺は、軽く肩を落とした。でも大丈夫、バスタオルが隠してるのはお尻のすぐ下まで。これなら妄想みたいに下から覗ける。

 俺は戸の下に潜り込んで、みーたんのお尻を覗き上げた。

 だけど濡れたバスタオルは、ピッチリとお尻の曲線に張り付いてて隙間がない。なんてこった、下から覗いてもお尻の肉すら見えない。

 うーん……。こうなったら、妄想通りに前に回り込んでみるか……。

 俺は戸をそっと開いて、みーたんの背後に立つ。そして前面に回り込むタイミングを探ってると……。


「いやぁっ! お、お、脅かさないでよ、この変態!」


 突然振り返った由美子……いや、魔法少女みーたんは、可愛い乙女の悲鳴をシャワールームに響かせた。そして顔にかかる濡れた黒髪をかき上げて、アイマスクの上から目を手で拭う。視界の戻った目で俺の顔を確認すると、みーたんは少し落ち着いた。

 ちょっとやり過ぎたかな。俺だって突然後に人が立ってたら驚くだろうしな……。

 頭を掻きながら反省する俺の姿を、みーたんはゆっくりと上から下へと確認していく。そしてまたしても、みーたんは乙女の悲鳴を張り上げた。


「いやぁっ! どうしてあんた、すっぽんぽんなのよ!」


 だって、みーたんがあんなに気合の入った下着を着けてたなら、俺もその期待に応えなくちゃって思ったから……なんて言えるわけない。

 顔はいつも通り、真っ白い肌のピエロメイク。だけど首から下は、いつも俺が風呂に入る時と変わらない丸出しの肌色。

 そんな間抜けな状態だけど、俺は適当な言葉でごまかす。


「そりゃ、シャワールームでの戦闘じゃ衣装が濡れちゃうじゃん? そしたら動きにくいだろうなって思ってさ」

「だからって、なんでパンツまで脱いで来てんのよ! このド変態! って、ちょっとは隠してよ。それに、そんなになって……やだ、もう!」

「でも、隠しながらじゃ戦えないだろ?」

「だけど……。って、まだ隠してないじゃない!」


 文句を言いながら、チラチラと俺を見てるみーたん。下を向いてるのは、恥ずかしくて目を合わせられないからか? それとも……。

 だけど、いつも以上に動揺してるみーたんは、いつも以上に可愛く見える。

 そんなみーたんを見ながら、俺は名案を思い付いた。


「ふふふ、仕方ないな、それでは隠してやるとしようか。その布切れでな!」


 俺は大声で叫ぶと、みーたんが身体に巻いてるバスタオルを一気に剥ぎ取った。

 これは、隠せって言ったみーたんが悪いんだ。ざまぁみろだ。

 いや、ひょっとしたらここで一気に辱められるために、みーたんはわざとバスタオルを巻いてたのかもしれない……。


「いやっ、何するの」


 バスタオルを剥ぎ取られたみーたんは、立ったまま慌てて胸と股間を両手で隠す。

 その必死さは、何があっても俺に生身を見せないぞっていう決意を感じるほど。そして表情も、泣き出しそうに見えるぐらい余裕がない。

 でも上半身と下半身のそれぞれを、片手ずつでなんて隠しきれるはずがない。どっちもその手の隙間からはみ出す……水着が。


「あるえ? おかしいぞお? どうしてシャワーを浴びてるのに、水着を着てるんだあ? しかも、その上にバスタオルまで巻いてたのかあ?」


 思わず幼児退行する俺。今日の由美子……いや、みーたんはいったいどうしたっていうんだか。

 今までなら恥ずかしがっても、下着姿ぐらいなら堂々としてた。それに隠すにしたって、ひょっとして見せてくれてる? って思うぐらい緩く隠してたのに……。

 今日は水着を着てるのに、それさえも見られないように必死に隠してる。そして今のみーたんは、今までのどんなみーたんよりも恥ずかしがってるように見える。

 まぁ、いいか。その水着も剥ぎ取っちゃえば。俺はそう考えて、スッとみーたんの水着に手を伸ばした……。


「だから、隠してって言ってるでしょ!」


 みーたんの張り上げた大声と同時に、俺は強烈な衝撃をお腹に食らった。そして板扉をぶち壊しながら、俺はタイル張りの壁に思いっきり背中を叩きつけられた。


「がはっ」


 突然のことで、何が起こったのか全然わからない。

 衝撃で息を詰まらせた俺は、腹を押さえたまま壁にもたれかかる。

 目の前には地面と平行に伸びたみーたんの右足。俺は正面からみーたんに蹴りを入れられたらしい。

 名乗りも上げてないのに攻撃開始なんて珍しい。戸惑いながら立ち上がろうとすると、俺の足の付け根に飛び乗るようにみーたんが跨った。

 敵役に変身中で痛みは大きく緩和されてるはずなのに、それでも激痛が下腹部を襲った。俺は悶絶しながら声を絞り出す。


「……ぐあぁ、今だけは……やめて欲しかった……」


 折れたかも? 俺の急所に衝撃が走る。鎮まってなかったのが災いした……。

 俺はすでに瀕死。だけどこの苦しみは、みーたんには一生わからないだろう。

 そんな俺の胸に両手を当てると、みーたんは容赦なく叫ぶ。


「エッチ、スケベ、変態! あんたなんか死んじゃえ!」


 直後に強烈な衝撃波。過去のみーたんのどんな攻撃よりも凄まじい。

 お約束の決め台詞もなしに放った今のも必殺技? 今日のみーたんは一体どうしたんだ……?

 そんなことを考える間もなく、俺は一瞬で意識がなくなった……。

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