第20話 思い違い

 日曜日の午後、ナイツとの対決のために遊園地に来た俺は、激しく後悔した。

 周りはカップルばっかり。そんな場所に俺は一人。空しい、そして怪しい……。


『なんで俺は、こんな場所で魔法少女と対決しなきゃいけないんだよ……』

『ナイツから対決の申し込みがあったって言ったら、キミが二つ返事で引き受けたんじゃないか。筋書きもろくに聞かないで』


 そうだった……。ナイツからの対決の申し込みって言うから、幸子のためだと思ってすぐにオッケーしたんだっけ。

 だけど、場所と内容ぐらいはちゃんと確認してから返事するべきだった。


『で? どんな筋書きだっけ?』

『今回はキミが遊園地で一般人に襲い掛かったところを、登場した魔法少女ナイツが退治するって筋書きだよ』


 今回の筋書きはやっぱり気乗りがしない。

 だいたい【遊園地で一般人の可愛い女の子に襲い掛かる】なんてレイプみたいじゃないか。このままじゃ、フィクションとノンフィクションの境界線がわからなくなりそうでちょっと怖い。


『いや、筋書きは【遊園地で一般人に襲い掛かる】だよ。別に女の子とも、性的にとも言われてないよ』


 話しかけてもいないのに、レクターが勝手に答えてきた。

 だけど、おっさんに殴り掛かったって面白くもなんともない。モチベーションは結果になって現れるんだから、襲う相手は厳選した方がいいに決まってる。

 まずは気合を入れて、襲う女の子を探さないと。魔法少女ナイツとの対決ってことは、相手は幸子なんだから……。


『それはお答えできないね』


 だから、勝手に答えるなよ……。




 園内を物色……いや、探索してると、俺の背後から突然声がかかった。


「泰歳、こんなところで何してるの?」

「え、あ、あぁ? 幸子!? お前こそなんで……」

「遊びに来たんだよ、遊園地に」


 声の主は幸子だった……って、どうしてお前が俺に声をかける?

 一瞬不思議に思ったけど、よくよく考えれば俺は変身前。対決相手の素性を知らない幸子なら、俺に会えば声も掛けるだろう。

 魔法少女として出動する前に、たまたま幼馴染を見つけて声をかけただけか。

 だけど今日は少し口数が多い。それに雑踏の中とはいえ、声もハキハキと大きい気がする。なんだか雰囲気変わったな……。


「泰歳、一人で遊園地?」

「え、あ、ああ、ちょっと気分転換にね……」

「私はたまに一人で来るけど、泰歳もだなんて意外だな」

「そ、そう? 俺だってたまに一人で来るよ」


 大嘘だ。こんなカップルばっかりの地獄に、用もなく俺が一人で来るはずない。

 ってか、なんで幸子はいつまでも絡んでくるんだ。この後、魔法少女ナイツとして敵役を退治するんだろうに……。

 その対決相手の俺は、今から可愛い女の子を探さなきゃいけないんだぞ?

 すぐにでもこの場を立ち去りたい俺は、言葉少なに幸子に別れを告げた。


「まあ、そんなわけだから。またな……」


 すると幸子から、予想もしなかった言葉がかかる。


「せっかくだし、デートしようよ。このまま二人で」

「え!? デート? でも、俺は用事が……」

「用事って気分転換でしょ? だったら二人でもできるじゃない」


 何を考えてるんだ、こいつは……。魔法少女はどうすんだよ。

 そしてふっと気が付いた、こいつは出番が来るまでは自由行動なんだと。どうせ出番が来たら、デートをほったらかして駆けつければいいやぐらいに思ってるんだ。

 それにしても自分からデートに誘ってくるなんて、こいつは本当に幸子か?

 今日は口数も多いし、声も半音高い気がする。これはやっぱり俺に気が……。

 あぁ……待て、待て、どっちにしても今はデートしてる場合じゃない。

 俺は幸子を引き剥がすために、ちょっと強引な手段に出た。


「やめとけ、デートなんかしたら俺はお前に襲い掛かるぞ、きっと」


 だけど幸子の反応は、またしても俺の想定外だった。


「ふふ、いいよ。泰歳なら」


 今日の幸子はやっぱりおかしい。引くどころか、逆に乗ってきた。

 しかも、俺の腕を取って強引に絡めてくる。こんな積極的な幸子は見たことがない。そして押し付けられる幸子のおっぱ……胸に、俺は鼓動が少し早まった。

 困り果てた俺は、レクターに相談する。


『なぁレクター、どうしよう。このままじゃ襲えないぞ、一般人』

『いやまぁ、今の彼女も一般人だけどね。それよりも、向こうのマネージャーが見つからないんだよ。ちょっと探してくるから、その間キミは上手いことやっててよ』

『上手いことって大雑把すぎだろ!』


 向こうのマネージャーがこの場にいないとか、無責任すぎだろ。

 そしてレクターからの返事もなくなった。もう、向こうのマネージャーを探しに行っちゃったらしい……。

 途方に暮れる俺に、幸子が呼びかけてくる。


「どうしたの? 泰歳。黙り込んで」


 目の前の幸子は不思議そうな表情を浮かべてる。俺がレクターと話してる間、ずっと沈黙してたからだろう。俺は慌てて、適当に言葉を見繕った。


「いや、何に乗ろうかなーって考えててさ」

「そっか。泰歳、早く行こう」


 幸子はウキウキした様子で俺の腕を引いて、ジェットコースターの方に歩き出した……。



 ジェットコースターの順番を待ちながら、俺は幸子をしげしげと眺める。

 今日の幸子はボーダー柄のカットソーに、薄い黄色のフレアスカート。脇が緩い大胆なノースリーブや、階段の下から見上げたら下着が見えそうな短い裾の幸子なんて初めて見た。現にさっきも、ペパーミントグリーンのフリフリのパンティを拝ませてもらった。ごちそうさま。

 それに、遊園地だからだろうけど、薄っすらと化粧もしてて少し大人っぽい。そんな幸子に俺はちょっと見とれてしまった……。

 そこへレクターの声が、俺の頭の中に届く。


『向こうのマネージャーと話がついたよ。キミが襲う相手は彼女でいいってさ。その代わり事前の変身は無しでね。この状況での変身はリスクが高すぎる』

『え!? この姿のまんまで幸子を襲えってのか?』

『後はこっちで上手くやるから、キミは頃合いをみて襲い掛かってよ。じゃぁ、頑張ってね』

『おい、ちょっと待ってくれよ、レクター。おーい!』


 そう言い残して、レクターの声はしなくなった。

 うーん……。襲い掛かってから変身して、実は敵役は【広原泰歳】っていう人物に成りすましてたって筋書きにするとか? でもナイツの変身は?

 まぁ、レクターに考えがあるんだろうから、俺は言われた通りにするか……。


「楽しみだね。ジェットコースター」

「幸子、お前なんか変わった? そんなに元気な奴だったっけ?」

「変わってないよ。でも最近、いいこと続きだからかも……」

「いいことって?」

「ふふ、秘密」


 魔法少女ナイツとして、やる気に目覚めた……とか? だとしたら俺も前回頑張った甲斐があるんだけどな。

 今日の幸子は明るく陽気で、いつもとは別人のよう。相手は幼馴染の幸子だっていうのに、俺は胸のドキドキが止まらない。

 いやいや、今は敵役の任務があるんだった……。

 でもこんな明るい中で襲うわけにもいかない。作戦を決行するのは日が暮れてからにしよう。それまでは幸子との貴重なデートを楽しむか……。




「泰歳、ジェットコースター乗ろう」

「また? もう三回も乗ったろ。俺、吐きそうだよ」

「そっか……じゃぁ、ジェットコースターに乗ろう!」

「俺の話聞いてるか?」


 楽しそうにはしゃぐ幸子。いや、浮かれてるって言った方がいいぐらい。

 だけど、ほどほどにしてくれ。俺の身体がもたない。

 デートを楽しもうなんて思ったけど、俺が一方的に引きずり回されてるだけ。これじゃ、もはやいじめだ。

 そして、四回目のジェットコースターの次はコーヒーカップ。嫌な予感しかしない……。


「もう吐きそうなんだから回すなよ? いいな、絶対だぞ? 絶対回すなよ?」

「わかってるよ」

「あ、動き出した……って、だからやめろっての!」

「あははははは!」

「…………」


 コーヒーカップを容赦なく回す幸子。いくら俺が止めてもやめてくれない。

 もう嫌だ、帰りたい……。その前にもう無理、吐きそう……。

 乗り物が止まるなり、俺はトイレに駆け込んだ……。



「暗くなってきたね。どうする? 帰る?」


 帰っちゃダメだろ、お前がそれを言うな。

 一日中乗り物に乗りまくって俺はクタクタ。だけどいい感じに日も暮れてきた。

 そろそろ作戦に移してもいい頃合い。あとは場所をどこにしようか……。

 辺りを見渡した俺は、一つのアトラクションに目が留まった。


「よし、幸子。観覧車に乗ろう」

「夕暮れの観覧車かぁ。いいねー」


 そこらの暗がりじゃ、誰が見てるかわからない。巻き戻せば大丈夫かもしれないけど、邪魔が入ったら面倒なことになるだろう。

 だけど観覧車なら中は個室だから、前後のゴンドラにさえ気を付ければきっと大丈夫だ。


『レクター、観覧車の中で幸子を襲うからな』


 念のためレクターに宣言して、俺は実行に移す。

 返事はないけどいつものこと。レクターがダメって言わないなら、きっと大丈夫なんだろう。

 俺は幸子の手を掴んで、観覧車に向かった。


 観覧車は思ったより客が少なくて、すぐに順番が回ってきた。係員に案内されてバタンとドアが閉められると、途端に俺はなんとも言えない緊張感に包まれる。

 個室に二人きり。そして地面が離れていくと、室内はそれだけで雰囲気が高まっていく。俺がこの後、幸子を襲う予定だからかもしれないけど……。


「そっち……行ってもいいか? 幸子」

「……うん」


 ゴンドラが九時の位置に差し掛かったあたりで、向かい合わせに座ってた俺は幸子の隣に席を移す。

 隣同士で座るだけですごい緊張感。そして襲わなきゃって考えると、肋骨を突き破りそうなほど鼓動が激しくなっていく。

 俺は意を決して、幸子の手に自分の手をそっと重ねた……。

 これぐらいじゃ襲ったとは言わないな。やっぱりもうちょっと頑張ってみるか。

 俺はそっと幸子の肩に手をまわして、少し抱き寄せてみた。


「ん……」


 幸子から漏れた声に緊張が高まる。

 だけど幸子は変身しない。それどころか、幸子は俺の肩に頭を預けてきた。

 すぐ横には幸子の髪、シャンプーのいい匂いが鼻をくすぐる。

 そして少し目線を下げると間近に幸子の顔。俺の心臓が暴れまくってるのがバレるんじゃないかってヒヤヒヤする。


『この先って、どうすりゃいいんだろ……』


 レクターに相談しても返事はない。自分で考えろってことか……。

 でもこの次っていうと、やっぱりキスか? キスなのか……?

 さすがに幸子だって唇が奪われそうになれば、魔法少女ナイツに変身するだろう。

 俺は覚悟を決めた……。


 肩にしなだれる幸子の頬に、俺はそっと手をあてがいながら身体を向き合わせる。そして幸子のもう片方の頬にも手を添えて、俺はジッと幸子の目を見つめた。

 幸子は目をパチリと瞬かせたけど、それも一瞬。俺が何をしようとしてるか気づいたみたいで、幸子は表情を少し緩めた。


『さぁ、くるか? 変身くるか?』


 こない……。

 こないどころか、幸子は静かに目を閉じやがった。

 こんな体勢に持ち込んじゃったら、今さら引き返せないだろ……。

 俺は幸子が止めてくれるのを願って、ゆっくりと顔を近づけていく。


『おーい、なんとかしてくれー。やっちゃうよー、このままだとキスしちゃうよー』


 俺のレクターへの叫びも空しく、状況はなんにも変わらない。

 どうすんだよ、これ。でももう止められないぞ、これ。

 あ……。

 震える俺の唇に、幸子の柔らかい唇が触れる。

 どうしよう、キスしちゃったよ……なんて考えてる間もなく、触れ合った幸子の唇が開いて、大胆にも舌が侵入してきた。


「ん……んぐ……」


 舌を絡ませても魔法少女としての動きがない。ここまでやっても襲ったうちに入らないのか?

 観覧車はまだ頂上にも達してない。時間はたっぷり残されてる。

 幸子は俺の首に手をまわして、目を閉じたままキスを味わってる。

 どうすりゃいいんだ。俺がもっと迫らないとダメなのか……?


『俺のせいじゃないからな。俺はレクターに言われた通り、襲ってるだけだからな』


 聞いてるのかわからないレクターに言い放って、俺は大人の階段をもう一段上ることにした。きっとそのうち、事態が進展する……よね?

 幸子の胸に、俺はそっと手を伸ばす。服の上から軽く撫でても幸子が拒まないのを確かめると、俺は図々しくカットソーの裾から手を差し入れた。

 ブラジャーの上から胸をまさぐる。いい加減、進展してくれよ。もうそろそろ観覧車もてっぺんだぞ。

 なんで幸子も拒まないんだよ……。


『いいのか? いいんだな?』


 俺はブラジャーの中へと手を忍ばせた。

 なだらかな斜面だけど温かくて弾力がある。その感触に俺の顔がニンマリと緩む。

 そして俺の指先が、頂上の少し固い部分に触れると、幸子は敏感に反応する。

 幸子の口から吐息が漏れた。


「……ぁ……んっ……」


 まだ? まだダメ? 

 俺は幸子の胸を撫でながら、激しく葛藤する。

 手のひらの中央に固いものを感じながら、激しく焦燥する。

 これ以上って……もうあそこしかないよな。でもいいのか? ほんとに……。

 でもレクターも止めないんだから仕方ない。俺は覚悟を決めた。


「幸子……」

「……ん、泰歳……」


 承諾を得ようと思って幸子の名前を呼んだら、俺の名前を呼び返してきた。

 ちょっと待って、なにこれ。なに? この、耳が感じる不思議な感覚。

 初めて味わう艶やかな名前の呼ばれ方に、俺は心をかき乱される。

 俺の覚悟が加速した……。


 俺はそっと幸子の膝に手を乗せると、そのまま太ももの内側に手を這わせた。

 俺の手が小刻みに震える。

 幸子の息が荒くなる。

 さらに足の付け根に向かって、俺はゆっくりと手のひらを進める。

 フレアのミニスカートが手首に触れたけど構いはしない。そのままブルドーザーのようにたくし上げると、ペパーミントグリーンのフリフリのパンティが姿を現した。

 もう終点は目前。俺の震える指先が未知の領域に迫っていく……。


『ほんとに? ほんとに止めないの? このままだと、触っちゃうよ? いいの? 大事なところを触っちゃうんだよ?』


 いや、やっぱりおかしい。ここまでやっても、何も起こらないなんて……。

 急に怖くなった俺は、下り始まった観覧車の中で手を止めた。


「どうしたの? 泰歳。……私とじゃ、嫌?」


 寂し気な表情を浮かべて、幸子が上目遣いで俺を見つめる。目には涙を浮かべてるようにも見える。

 かといって守秘義務もある俺は、正直に事情も話せず口ごもることしかできない。


「嫌じゃないけど……。やっぱり、ちょっとこれは……」


 幸子は両手で顔を覆う。

 小刻みに両肩が震える。

 俺はやってしまった後悔に胸を締め付けられながら、その肩に手を伸ばす。

 すると次の瞬間、幸子は赤ん坊に【いないいないばぁ】をするみたいに手を開くと、その表情を一気に明るくしておどけてみせた。


「なーんて! やっぱり泰歳だね、思った通りだよ」

「え? どういうこと?」

「ずっと、どうしていいか困ってた。そしてやっぱり途中でやめちゃった。泰歳らしいね」


 そう言って、幸子はくすくすと笑いだす。

 なに? どういうこと?

 俺はチキンレースに負けたってこと?

 もうちょっと頑張れば変身したわけ?

 それとも今日は魔法少女はお休みで、もっと俺に続けてもらいたかったってこと?

 俺は意気地なしの自分がちょっと嫌になった……。


 俺と幸子の乗ったゴンドラが六時を指すと係員がドアを開く。結局あれ以降は会話もなくて、延々と沈黙だった。

 もう任務とかどうでもいい、早く家に帰りたい。そんな考えが頭をよぎったとき、幸子が俺の腕を手繰り寄せて耳元で囁いた。


「泰歳、続きしよ。こっち来て」


 俺は完全に日が落ちた園内の、アトラクションの暗がりに引き込まれる。

 そこは薄暗い夜間照明がほんのり照らす、ムード満点の穴場。その雰囲気だけで、俺の心臓はあっさりと激しい鼓動を取り戻した。

 そしてさらに幸子の上目遣いの懇願が、俺のハートを貫く。


「ねぇ、泰歳……。ここで、して?」


 うおおおお、マジか。その破壊力抜群の幸子の仕草に、俺のさっきの後悔は一瞬で吹っ飛んだ。俺は幸子を正面から抱きしめる。

 幸子はただの幼馴染。彼女じゃない。でも今は理屈じゃない。

 この誘いに乗らなきゃ男じゃない。俺は無我夢中できつく幸子を抱きしめた……。


 ――ガツッ。


 後頭部に鈍い痛みが走る。

 その途端、俺は身体から力が抜けてヘナヘナとへたり込む。あれ? なんだ、これ……。

 すると目の前には、制服姿の少女が立ちはだかっていた。

 これは女子高の制服。そしてさらに上を見上げると、その顔には見覚えのある青いアイマスクが着けられていた。


「魔法少女ナイツ! です」


 幸子の『ここで、して?』ってそういうことかよ!

 だけど次の瞬間、俺は自分の目を疑う。だって魔法少女ナイツの後ろには、変わらず幸子が立っているから……。

 そしてナイツは、後ろの幸子に心配そうに尋ねた。


「私が来たから大丈夫。変なことされてない?」


 その質問に幸子が答える。


「されてないっていうか、してくれないっていうか……」

「わかった。こいつを成敗する」


 ナイツは俺の正面にひざまずくと、すかさずそのまま平手打ち。

 夜の遊園地に、乾いた音がこだました……。


「夜は危険。私が送る」

「あ、ありがとう。でも泰歳が……」

「放っておけばいい。私と一緒に行こう」

「え、あ、じゃぁ……」


 ビンタ一発で打ちのめされた俺は、朦朧とした意識の中で仰向けに転がる。

 幸子の肩を優しく抱きながら、魔法少女ナイツは去っていった……。


『幸子が魔法少女ナイツじゃなかったのかよ……』

『キミが勝手に思い込んでただけだろ。ボクは一度もそんなこと言ってないよ』

『そうだな、お前はいっつも「それはお答えできないね」だもんな』


 あんな触った程度のビンタでも、ほっぺたが腫れ上がってジンジンしてる。あれで必殺技を食らってたら、生身の俺は即死してたに違いない。

 それにしても今日のナイツもやけに饒舌だった。あんなによくしゃべる奴だったっけ?


『それにしても、どうしてこうなった……』

『うーん、今回はなんとかごまかせたけど……そろそろ頃合いかな?』

『ほんとにごまかせたのかよ。それよりレクター、頃合いって何の話だ?』

『こっちの話だよ』


 姿は見えないけど、レクターの口調は珍しく深刻な雰囲気だった……。

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