第15話 魔法少女おかわり
『……おーい、大丈夫かい? かなり効いたみたいだけど』
ナイツとの対決で気を失ってた俺は、頭の中に呼びかけるレクターの声で意識を取り戻した。
なかなか強烈だったけど、いい思いができたから悔いはない。幸子……いや、ナイツがやる気になってくれたかはわからないけど……。
『今回はかなりきつかったよ。早く巻き戻してくれ、レクター』
『それがさ、ちょっと面倒なことになっちゃってて……』
なんていう不穏な言葉。俺はとりあえず目を開いてみた。
すると決着をつけたはずのナイツが、仰向けの俺を覗き込んでる。
なんでまだここにいるんだ……?
不思議に思った俺は、ナイツの隣にもう一つの人影があることに気がついた。
「ねぇ、ちょっと説明して欲しいんだけど」
俺を覗き込んでるもう一人の人物は、黒いアイマスクを着けている。
俺は再び目を閉じた……。
「ちょっと、今目覚めたよね!? 起きて。ねぇ、起きてよ」
すぐに身体を揺すられる。これはごまかせない。仕方なく俺は再び目を開いた。
ナイツの隣の魔法少女は黒いアイマスクに黒のボンデージ風のコスチューム、脚は目の粗い網タイツで、手にはムチを持っている。見間違えようがない、魔法少女リーンだ。
身体を起こした俺に、リーンはすぐに迫ってきた。
「ねぇ、私とも対決してよ! ナイツと戦ったんでしょ? どうして私の申し込みは受けてくれないの?」
そういうところだろ……。
俺の太ももに跨って胸倉を掴んで、物凄い剣幕で言い寄ってくるリーン。顔が近くてちょっとドキドキする。
だけど困ったな、俺はリーンとなんて戦いたくない……。
『なぁ、巻き戻してとっとと逃げちゃおうぜ』
『でも今巻き戻すと、キミの素性がリーンにバレるかも。現場保存したときにリーンがどこにいたか、ボクは気にしてなかったからね』
『バレたらリーンの記憶を消せばいいじゃない』
『ボクは魔法少女には手出しできない。むしろ正体のバレたキミを、ボクがお役御免にしなくちゃいけなくなる。キミを失うのはボクには痛すぎるよ』
『クビになったら、俺もいい思いができなくなっちゃうな……』
逃げ場なしか……。
このリーンの勢いだと、対決の約束をするまでは引き下がってくれそうもない。俺は仕方なく、リーンとの対決を受け入れることにした。
「わかったよ。対決すれば納得してくれるんだな? その代わり一回だけだぞ」
「対決してくれるのね、ありがと」
「で? いつにする?」
「決まってるでしょ、今すぐよ!」
「はぁ!?」
俺の返事を聞くやいなや、リーンは後方に飛び退いた。
そして少し離れた位置まで下がって身体を斜にすると、前側の手でムチの柄を、後ろ側の手でムチの先端を持って構える。
その時、雨が激しく降り始めた……。
「私はいじめを見逃さない。私は悪事を見逃さない。いつでもどこでも駆けつける。魔法少女リーン、ここに見参!」
リーンがポーズを決めると、俺の隣から拍手が鳴り出す。
「先輩かっこいい……」
ナイツだった。
憧れのリーンに目を輝かせて、元気に声援を送ってる。これはもう追っかけだろ。さっきの無気力とはえらい違いだな……。
おっと、それどころじゃない。俺は慌ててリーンの対決の申し込みを拒否した。
「おいおいおい、さすがにきついよ。日を改めてくれよ」
「問答無用よ。ナイツと戦ったんだから、私とも戦ってもらうわ」
「だから、戦わないなんて言ってないだろ。日を改めようって――」
「そっちが来ないなら、こっちから行くわよ。たぁっ!」
ほんとに問答無用だ。リーンは容赦なく、俺に先制攻撃を仕掛けてきた。
しかも、いきなりの急所踏みつけ。脳天まで突き抜ける衝撃で、俺の身体が硬直する。
少しは手加減してくれたみたいだけど、それでもこれはきつい。俺は股間を押さえて息を詰まらせた。
納得がいかない俺は、悶絶しながらもリーンに抗議する。
「ちょっと、待ってくれ……。俺は今回、何の悪事も働いてないだろ。どうしてこんな目に遭わなきゃならないんだよ……」
「魔法少女ナイツにいやらしいことをした罰よ」
「いや、それはナイツに懲らしめられて終わっただろ」
「じゃぁ、私の対決の申し込みを断った罰よ」
滅茶苦茶だろ……。
理由なんてなんでもいい。いじめっ子にありがちな、難癖ってやつだ。
俺の抗議を強引に突っぱねたリーンは、俺への攻撃を再開した。
「まだまだいくわよ、ほらっ! ほらっ! ほらっ!」
掛け声よりも多く繰り出されるムチ打ち。俺の背中にピシピシと鋭い刺激が刺さる。
これだからリーンとは戦いたくなかったんだよ……。
手の付けられないリーンを止めてもらうために、俺はすがる思いでナイツに声を掛けた。
「なぁ、ナイツ。こいつを止めてくれないか?」
「あぁ、リーン先輩……」
「おーい、ナイツ……ダメだこりゃ」
俺のことなんか目に入っちゃいない。見てるのはムチを振るうリーンの雄姿だけ。それもウットリとした様子で、見入ってる感じだ。
そりゃそうか、憧れの先輩だもんな……。
俺だって体調がまともなら少しは反撃できるかもしれないけど、さっきナイツに強烈な攻撃を受けたせいでフラフラだ。
それに俺が敗北しなくちゃ、この対決は終わらない。だったらリーンが飽きるまで好きにやらせて、とっとととどめを刺してもらった方が結果的に早く終わる。
幸い敵役の間は痛みを感じない。だから俺は亀のようにうずくまって、ひたすら耐えることにした。
「あはははは、無様ね。醜いわね。とっても惨めな、いい格好よぉ」
強まる雨足、激しさを増すリーンのムチ。
ノリノリのリーンは、雨と一緒で誰にも止められない。
やがて俺は、背中がスース―するのを感じた。打ち付けられるムチで、タキシードやマントがボロボロになってるらしい。
さらに降りつける雨で、さらに背中が冷たくなっていく……。
だけど次の瞬間、背中にほんのりと温もりを感じた。そして右耳の裏側が、ペロリと舐め上げられる。そしてリーンは、俺の耳元でそっと囁いた。
「……やっぱり、あなたが最高よ。この間もありがとうね、大好きよ……」
告白と同時に後ろから腕を回されて、ギュッと抱きしめられる。
この温もりはリーンの胸が押し付けられてるのか。どうりで背中に当たる感触が……特になかった。
それにしたって、こんな状況で告白されても……。しかも、こんな暴力女からじゃちっとも喜べない。
「大好きだって言うなら、もう終わりにしてくれよ……」
「だーめ、もうちょっと」
「そんな……」
「だって、あなたのいじめられっぷりが素敵すぎて、私ゾクゾクしちゃうんだもん」
根っからのいじめっ子体質か。やっぱり俺の天敵だ。
今は痛みを感じないからいいけど、普段の姿じゃ絶対に顔を合わせちゃいけない人種だ。
「じゃぁ次は、四つん這いになりなさい」
「やだよ」
「お・ね・が・い」
耳元で囁くように甘い声でねだりつつ、リーンは俺の耳たぶを甘噛みする。
なんていう雨とムチ、いや飴と鞭。俺はもう充分にぬかるんでる地面に、渋々と四つん這いになる。
するとリーンは勢い良く、俺の背中に跨った。
「さぁ、あのベンチまで行きなさい」
「やだよ」
「あら? 口答えするの? この馬は。いいえ、犬ね、駄犬ね」
そう言って俺の尻をムチで打つ。魔法少女じゃなくて女王様だろ、これ……。
俺はリーンを乗せて、ベンチまで辿り着いたけどもう限界だ。休ませてくれ……。
俺はベンチにそのまま横たわった。
「ごめんね、こんなになるまで付き合わせて。ご褒美あげないとね」
疲れ切った上に、雨に打たれて身体も冷え切ってる。身体を動かす気力もない。
そんなぐったりした状態だけど、俺はリーンの『ご褒美』っていう言葉に少しワクワクした。キスぐらいはしてくれるのかな? ひょっとして、もっと気持ちいいことしてくれちゃったり……!?
するとリーンは俺を仰向けにして、両足首を掴んで持ち上げる。そして股間へピンヒールを脱いだ足をねじ入れた。
まさか、この体勢は……。
「ふふふ、今日はご褒美に、直接素足でしてあげるね」
「網タイツ履いてるじゃねーかよ!」
「いじめの始末は私がつける。いつでもどこでも容赦はしない。必殺、エレクトリック・マッサージ!」
リーン、それご褒美やない……必殺技や……。
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