第12話 四人目の魔法少女

「新しい魔法少女を紹介されちゃったんだけど、引き受けてくれるよね?」

「またかよ。何人目だよ、まったく」

「今度も新人さんなんだって。よろしく頼むね」


 これでもう四人目。最初のみーたんは文句なしだけど、その後のリーンとナイツはきつかった。立て続けにあんな目に遭うと、さすがに俺も警戒してしまう。

 しかもまた新人だって言うもんだから、俺は座布団に鎮座してるレクターに抗議した。


「対決する魔法少女がこれ以上増えるのは、さすがにもうきついよ。大体なんでこうも、次から次へとポコポコと魔法少女が増えるんだ?」

「それはキミのせいだよ」

「なんで俺のせいで魔法少女が増えるんだよ」

「そりゃぁ、キミが優秀だからに決まってるさ。キミは魔法少女の正義感パワーを大きく引き出す才能があるからね。その噂を聞きつけた新たなマネージャーがまた一匹、この街にやってきたってわけだよ」


 頑張れば頑張るほど仕事が増えるのは、ちょっと理不尽だ。

 これがアルバイトなら、増えた分の給料がもらえるから我慢もできる。でも俺は無給なんだから割に合わない。


「そもそも、俺はボランティアみたいなもんだぞ? そんなに働かされたらやってらんないって」

「今回だけ。この子が気に入らなかったら、もう増やさない。それでどうだい?」

「わかったよ。今回が最後だぞ? で、どんな子なんだ?」

「それはお答えできないね」


 久しぶりに聞いた『お答えできないね』、守秘義務ってやつか……。


「また暴力少女だったり、無気力少女だったりしないだろうな?」

「それはボクを信じてとしか言えないな」


 レクターの言葉を信じないわけじゃない。なにしろ下着姿を拝んだり、おっぱいを揉んだりなんて、今までの俺だったら絶対に味わえなかった。

 仕方ない、ここはレクターの言葉を信じておくか……。


「わかったよ。その代わり……筋書きの方はよろしく頼むぞ?」

「へっへっへ、わかってますとも、お代官様のお好みぐらい」

「なんで時代劇のお約束なんて知ってんだよ。おまえ、ほんとに地球外生命体か?」

「それはお答えできないね」


 意味がわからない……。




 翌日。今は二時間目の体育の授業中だっていうのに、俺はサボって女子更衣室に忍び込んでいる。

 レクターはすでに一時間目の終わりに学校の状況を保存済み。だから巻き戻せば、俺はサボることなく二時間目の授業をやり直せるって寸法だ。

 それにしても、昨日の今日でもう対決なんて段取りが良すぎだろ。ほんとにレクターは人使いが荒い……。


『今日は制限時間があるから、さっそく変身してもらうよ』

『相手は新人なんだろ? 大丈夫なのか?』

『でも向こうはプライベートが忙しいから、学校にいる間に対決したいらしいんだ』

『ご多忙なお嬢様だな……。だけど、その話だとうちの生徒ってことだろ? うちの学校にそんなお嬢様居るのか?』

『それはお答えできないね』


 今回は女子更衣室に忍び込んでなにやら物色してる俺を、登場した魔法少女が成敗するっていう筋書き。『なにやら』ってなんだよ……。

 確かに筋書きはシンプル。だけど相手は新人。ナイツみたいに大幅に遅刻したら、それだけで時間切れ。なにしろ戦えるのはこの二時間目が終わるまで、女子生徒たちが着替えに戻ってきたら任務失敗だ。

 もちろん巻き戻してまたやり直せばいいんだろうけど、それはそれでかったるい。


『まぁ、魔法少女が来るのはもうちょっと後だから、キミは思う存分物色しなよ』

『別にそういう趣味はないんだけどな……』

『キミの趣味じゃないことはわかってるけど、筋書きを書いたのは向こうのマネージャーだからね。せいぜい頑張ってよ』


 一応筋書きだからと割り切って、俺は女子生徒の私物の物色を始める。

 最初はやっぱり由美子から。思い入れの強い人物に興味が沸くのは必然だ。

 由美子のロッカーはすぐにわかった、カバンに付いてたキーホルダーに見覚えがあったから。

 まずは脱ぎたての制服を手に取って顔に押し付けると、肺の限界まで大きく息を吸い込む。

 あぁ、これは紛れもない由美子の香り……。

 いかにも女の子っていう、華美な香水の匂いはしない。でもこの優しい石鹸のような香りを嗅ぐと、なんだか心が休まる気がする。

 続けて俺はカバンに手を伸ばして、その中を軽く探ってみる。


(ごめん、委員長。俺だってこんなことはしたくない。だけどこれは任務なんだ、仕方のないことなんだ! だから許してくれ……)


 自分に言い訳をしつつ鼻歌交じりでカバンの底へ手を伸ばすと、あっさりとパンティが顔を出した。やっぱり女子って、プールじゃなくても替えの下着を持ち歩くものなのか……?

 目の前で広げてみると、真っ白い綿製。一見ダサく思えるけど、これはこれで由美子らしい。それに普段はこんな下着の由美子が、魔法少女の時はあんなに気合いが入るのかと思うと、そのギャップが心にしみる。


 俺がそんな感慨にふけってると、静寂の更衣室にノックの音が届いた。

 そしてドアをガチャリと開けて、一人の少女が更衣室に足を踏み入れた。

 その少女は深々と頭を下げて、礼儀正しく挨拶する。


「失礼いたします」


 登場したのは、裾の短い浴衣風のコスチュームをまとったピンクのアイマスクの少女。少し鼻にかかるちょっと低めの可愛い声を、彼女は狭い更衣室に響かせる。


「元気いっぱい、夢いっぱい。ドジでノロマが玉にキズ。失敗しても許してください。みんなを癒す魔法少女カリン、よろしくお願いいたしますね!」


 カリンは名乗りを上げるなり、右のゲンコツで軽く自分の頭を小突いて、チロッと可愛く舌を出す。いや、今時そんなポーズ流行らないし、失敗するのもダメだろ……。

 そこまでやるならいっそのこと、名乗りの最後に『てへっ』ってつけた方が……。まてよ、このちっちゃい身長なら猫耳にシッポをつけて『にゃん』の方が……って、いかんいかん、今は対決の真っ最中だった。


 カリンは俺と向き合うと、ポニーテールの髪を揺らしながら向かってきた。

 あ、まずい……。俺は慌ててカリンを制止する。


「待って、ちょっと止まって」

「待ちません。あなたがここで、女子生徒の下着を漁られていることはお見通しなのです」

「いや、そうじゃなくて……。あぁ……」


 背中でリボンみたいに結わかれた帯の先端が、入り口のドアに挟まっている。

 それに気付かずカリンが飛び込んできたもんだから、帯がスルリと解けてコスチュームは無残にもはだけてしまった。

 だから止まれって言ったのに……。

 カリンは慌ててコスチュームを前で合わせて隠したけど、そのセクシーハプニングは俺の目にくっきりと焼き付いた。

 ブラジャーもパンティも清楚な純白。高級感漂うあの光沢はシルク製と見た。

 しかも窮屈そうに少しはみ出たおっぱいは、崇めたくなるほどの巨乳だった……。


「あぁ、さっそくやってしまいました……。どういたしましょう……」


 カリンは慌ててドアに駆け寄って、必死に帯を外そうとしてるけど手間取ってる。どうやら留め金の部分に生地が噛んじゃってるみたいだ。

 まさかあの冗談ぽい名乗り口上に、嘘偽りがなかったなんて。

 そういえばカリンも今日が初戦だっけ。可哀そうだし手助けしておくか……。


「外すの手伝おうか?」

「いいえ、敵のお力を拝借するわけにはまいりません」

「でも、そのままじゃ……」

「覚悟してくださいませ、参ります!」


 カリンは俺の申し出を断ると、帯を諦めて戦闘を再開した。

 留める物がなくなったコスチュームの前を左手で押さえたまま、カリンは右手一本で殴りかかってくる。だけど俺が避けるまでもなく、その拳は空を切った。

 理由は単純、殴りかかるときにカリンが目を瞑ってるから。こんなに戦闘に向いてない子もなかなかいないし、それを魔法少女にスカウトするっていうのもどうなんだろう……。


「えい、はっ、えいっ……」


 ちっとも当たらない、カリンの大振りのパンチ。わざと何発か当たってみたけど、貧弱な俺ですらよろめきもしない。

 カリンの攻撃は、今度はキックに切り替わった。きっと腕が疲れたんだろう。

 だけどやっぱり当たらないし、当たっても威力は皆無。裾が捲れ上がってパンティがチラつくばっかりで、得してるのは俺だけだ……。



「はぁ、はぁ、はぁ……」


 やがて体力の限界を迎えたのか、カリンは両ひざに手をついて肩で息をし始める。

 もう前を隠す余裕もないらしい。はだけた浴衣は床に向かって垂れ下がって、前傾姿勢の胸の谷間がこれでもかと自己主張する。


「大丈夫?」

「少し、少しだけ、休ませていただけませんか?」


 俺はカリンの肩に手を掛けて、その顔を覗き込む……と見せかけて胸元をガン見する。

 俺がこんな間近でジットリと凝視してても、無防備なカリンはちっとも気がつかない。ブラジャーの境目から少しはみ出してる、肌色が濃くなってる部分に俺の目が釘付けになる。

 いや、こんなことをしてる場合じゃない。ふと壁の時計を見上げると、授業が終わるまであと十分。これはすぐにでも決着をつけないとまずい……。


「くそぅ、魔法少女の邪魔さえ入らなければ……。このままでは時間が……」


 タイムリミットが迫ってることをそれっぽいセリフで口にすると、カリンもハッとした表情で壁の時計に目を向けた。

 慌てて再開されるカリンの攻撃。前を隠す余裕がなくなったカリンは、浴衣の前をはだけたさせたままで、またも必死にパンチを左右交互に繰り出し始めた。

 正面に立ってる俺からは、もちろんすべて丸見え。真っ白なシルクのパンティも、小さく上を向いたおへそも、そして左右に激しく揺さぶられるそのおっぱいもだ。


 これだけ立派な胸を激しく振り回し続ければ、サイズに合ったブラジャーをしてたって次第次第に肉がはみ出していく。さっきも少しはみ出てた肌色の少し濃い部分が、じわりじわりとブラジャーから引っ張り出され始めた。

 もうすぐだ、もうすぐ全部見える!

 だけど、目を血走らせながらその瞬間を待ちわびる俺を焦らすように、そのピンクとも茶色ともいえる普段人目に触れない部分は、半円に少し欠けた状態のまま形を変えなくなった。

 くそぅっ……。原因はわかり切ってる。その引っかかってる突起物こそ、俺が一番見たい部分。もう一息だ、その最後の難関を何とか乗り越えてくれ!


「そんなぬるいパンチでは俺は倒せないぞ。もっと死ぬ気で腕を振り回せ!」

「はいっ!」


 俺はカリンを煽り立てる。余裕のないカリンもそれを素直に聞き入れる。

 大振りな右パンチ、続けて左パンチが空を切る。

 そしてもう一度パンチを繰り出そうと、カリンが大きく右の拳を振りかぶって胸を突き出した瞬間だった。


 ――にゅるん。


 実際には音なんてしてないけど、俺の脳内には確かにそんな音が聞こえた。

 引っかかっていたのは、可愛くて丸っこい、思わず摘まみたくなるような頂点。それがついに俺の目の前に顔を出す。

 するとその先はあっという間。プリンを容器から皿に移す時みたいに、一気に全部がこぼれ出した。

 カリンは懸命にブラジャーにしまおうとするけど、攻撃の手を止める余裕もない。

 結局時間のないカリンはおっぱいを丸出しにしたまま、泣き出しそうな表情でパンチとおっぱいを振るい続けるしかなかった。



 あと五分か、もっとたっぷりこの光景を楽しみたかった……。

 だけど制限時間が迫ってきたんじゃ仕方ない。俺は当たるはずがない軌道を描くカリンのパンチに、自ら当たりに行く。そして大げさに俺の方から跳ね飛ぶ。

 きっとカリンはおちょくられてる気分だろうな……。

 それでも、俺がやられなきゃ終わらないんだからこうするしかない。


「すごい。わたくしもやればできるのですね。とぉ!」


 あ、大丈夫だ。気付いてないや。

 ペシッなんていう、『しっぺ』みたいな音しか出ないカリンのローキック。それでも俺は足払いでもされたように、派手に転んでみせる。

 残り時間ももう三分ほど、いい加減にとどめを刺してもらわないと……。

 俺は床に転がりながら、カリンにそれっぽいセリフでとどめを催促する。


「やるな、魔法少女カリンよ……。これ以上苦しめるな、俺を早く楽にしてくれ」

「お父様、お母様、成長したわたくしをご覧ください。おとなしいだけがわたくしじゃありません、おてんば娘の渾身の一撃、ヒップ・アターック!」


 え? ひょっとして今のが決め台詞……?

 頭でそんなことを考えてる間に、仰向けに転がる俺の顔面に、勢いよくシルクのパンティが迫る。


「ぶふっ」


 顔面に受けたカリンの全体重攻撃は、今までの力ないパンチやキックとは比べ物にならない衝撃だった。そして、続けて繰り出されたのは圧迫攻撃。カリンは俺の顔面に押し付けるように、グリグリと腰をくねらす。

 必殺技とはいえ、女の子に顔面に腰を下ろされるとは思わなかった。

 俺にとっては、これは攻撃っていうよりも癒し。カリンのお尻の温もりと柔らかさを顔面で受け止められるなんて、幸せこの上ない夢心地だ。


「あぁ、良かったです、間に合って。お手合わせ、誠にありがとうございました」


 感謝の言葉を述べつつも、カリンのお尻は顔に圧し掛かったまま。

 だけど、のんびりしてたら体育の授業を終えた女子生徒が来てしまう。もったいないと思いつつも、俺はカリンのお尻を押し退け…………られない?


『そりゃあ、魔法少女の渾身の必殺技を全力で受け止めれば当然だよ』


 レクターの解説が頭に届く。

 でも、今の俺はそれどころじゃない。鼻と口をカリンのお尻で塞がれた俺は、声に出せずにレクターに救いを求める。


『息が……息ができない……』

『その割にはなんだか嬉しそうじゃない。心配しなくてもちゃんと生き返らせてあげるから、安らかにおやすみ』


 遠くなっていくレクターの声。俺の目の前には花畑が見えてきた気がした……。

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