第10話 さらば、魔法少女みーたん(前編)

 今日はいよいよ、魔法少女みーたんとの二度目の対決の日。

 俺はこの日を、どれだけ待ち望んだことか……。


『昨日から、こっちが恥ずかしくなるぐらいの妄想なんだけど……』


 レクターにたしなめられた。

 最初の頃は、妄想が全部筒抜けじゃないかって恥ずかしがってたけど、今じゃもう何とも思わない。これが俺だ!


『レクターの方こそ、俺の考えてることをなんでもかんでも読み取るなよ』


 だいたい、今回の妄想が暴走しまくるのは仕方ないだろ。前回あれだけ興奮……いや、激闘を繰り広げたんだから。期待が高まって当然だ。


『それで、今日の筋書きはどうなってんの?』

『職員室からテストの答案を盗み出そうとするキミを、魔法少女が発見するんだ』

『泥棒とか派手なようだけど、盗むのがテストの答案って微妙だな』

『だけど銀行強盗なんて筋書きだと、こっちだって手回しが面倒だよ』

『俺もそこまでする度胸はないから、これぐらいでちょうどいいか』


 レクターと打ち合わせしながら、今日も深夜の高校に登校する。

 由美子もだろうけど、俺も自分の学校なら勝手がわかってるからやりやすい。それに、俺にとっては歩いて行ける近場なのも嬉しい。


『それで、今回は魔法少女を倒していいって話だったけど?』

『それだよ。よっぽどキミのことを気に入ったのか、それとも信頼したのか……。とにかく今日は、キミを退治しに来た魔法少女を返り討ちにして、答案を奪って逃げるんだ』

『返り討ちって? どの程度に?』

『そこまでは指示されてないから、好きにしていいよ』

『そうかぁ、好きにしていいのかぁ……』


 妄想が膨らみすぎて、よだれが溢れ出しそうだ……。

 そんな調子に乗る俺を、レクターがまたたしなめる。


『だけど日を改めた次の対決で、テストの答案を取り返しに来た魔法少女にキミは倒されるんだからね? そのときは二回分の攻撃を食らう覚悟をしておくんだよ?』

『わかってる、わかってる。高く飛ぶときは低くかがめってやつだろ』

『いや、違うと思うな……』


 先のことなんて考えてらんない。まずは今だろ。

 これから始まる対決の妄想のせいで、学校へはあっという間に到着。そこらを一回りして、もうちょっと妄想にふけっていたいぐらいだ。

 前回ここへ来た時は俺のデビュー戦だったから慎重に行動したけど、魔法少女との対決もこれで四回目。レクターをだいぶ信用できるようになった俺は、次々と解錠されていく入り口に当たり前のように踏み込んでいく。

 そして今回も男子トイレで変身を済ませて、レクターが現場の保存を終わらせると、いよいよ筋書きのスタートだ。


 まずは現場の職員室に踏み込む。そして、部屋の電気を点ける。


『テストの答案ってどこにあるんだ?』

『教頭の机の横の金庫だよ』

『それもレクターが開けてくれんの?』

『さすがにそれじゃつまらないだろ? キミの後ろにあるキーボックスから鍵を盗むところから始めようよ』

『キーボックス? あぁ、これね』


 俺が振り返った先には、壁に小さな扉のついた金属の箱が設置されていた。

 その扉を俺が開くと、学校中の鍵がずらりとぶら下がっている。


『へぇ、色んな鍵があるんだな。お、女子更衣室の鍵が』

『楽しんでないで、早く作業に取り掛かってよ。これ以上待たせたら悪いからさ』

『待ってるの?』

『待ってるよ、廊下でさっきから』


 職員室の外で魔法少女が出番待ちをしてたなんて。ちょっと悪いことしたな……。

 反省した俺は、さっそく作業に取り掛かる。

 まずはキーボックスから金庫の鍵を探り当て、探り当て……探り……。


『どれ?』

『二段目の左から二つ目』

『おー、これだな』


 鍵を掴んだ俺は、教頭の机の横にある金庫の前に移動してしゃがみ込む。

 すると職員室の戸が、ガタリと音を立てた。


「…………え、まだ?」


 戸の向こうからかすかな声が聞こえてきたと思ったら、またすぐに静かになった。

 あの声は由美子……いや、みーたん。きっと出番が早すぎるって、マネージャーから止められたんだろう。

 俺は気を取り直して金庫のボタンに指をかざすと、レクターに話しかけた。


『暗唱番号は?』

『200524だよ』

『わかった』


 どうして金庫の番号までわかるのか不思議だけど、レクターの言う通りにボタンを押すと、ピーという電子音が職員室中に鳴り渡った。

 するとまた職員室の戸がガタリと音を立てる。


「…………え、まだなの?」


 どんだけ焦ってるんだ……。そんなに早く俺と対決したいのか?

 思わず苦笑いしながら、俺は鍵を取り出してガチャリと金庫を開けた。

 その中にはテストの答案の他に少しの現金が。反射的に俺の手が伸びる。


『水を差すようだけど、この部屋から色々と持ち出しても巻き戻すから無意味だよ?』

『いや、これはほら、金も盗んだ方があくどいじゃん? 演出だよ』


 言い訳したけど、考えてることがわかるレクターには無意味だったっけ。

 俺は素直に現金を戻して、テストの答案が入った茶封筒だけを手に取る。そしてそれを頭上高く掲げてみせた。

 するとそこへ魔法少女が……来ない。ちっとも来ない。さっきまであんなに焦ってたくせに……。

 二回も失敗したから、入ってくるタイミングに慎重になってるのか?

 俺は少しイラっとしたけど、ここは登場のきっかけを作ってやることにした。


「フハハハハハ! これがテストの答案かー、俺様には容易い仕事だったなー」


 棒読みの俺の声が空しく響く。そしてすぐに訪れる静寂。来ない……。



 少し間が空いて、廊下からカツカツと靴音が近づいてきた。

 そして大きな音を立てて、やっと職員室の戸がガラリと開く。

 赤いチェックのミニスカートに真っ白いブラウス、そして襟元には赤い大きなリボン。背中にはマントを背負っていて顔には赤いアイマスク。間違いない、魔法少女みーたんのお出ましだ。

 でも登場したみーたんは大きく息を切らして、肩で息をしていた。


「い、意地悪。あたしが、おトイレに行ってるところを、見計らうなんて……。もう、とんだ卑怯者ね!」

「それぐらい済ませておけよ……」

「あなたが、もたもたしてるから、我慢できなくなっちゃったんじゃない!」

「それで、ちゃんと手は洗ったんだろうな?」

「失礼ね! 当たり前でしょ」


 怒りのせい? それとも恥ずかしさのせい? みーたんの顔は真っ赤だ。半分ぐらいはアイマスクで隠れてるけど……。

 魔法少女が人間味に溢れすぎて緊張感に欠ける。

 忘れかけてたけど今は対決の真っ最中、俺は話を本筋に戻すことにした。


「ふふふ、だが遅かったようだな。このテストの答案はいただいていくぞ」

「待ちなさい、そうはいかないわ。迷惑行為を許さない。不正行為を許さない。真面目に生きる人のため、弱者のためにあたしは戦う。魔法少女みーたん!」


 みーたんは今回も俺に右手の人差し指を突き付けて、左手で長い黒髪をかき上げる。

 おぉ……これだよ、これ。やっぱり魔法少女はこうでなくっちゃ。

 この程度のことで感激するなんて、絶対前回のナイツのせいだ。

 そして名乗り終えた魔法少女みーたんは、答案を取り返すためにすぐさま俺に飛びかかってきた。


「やっ! やっ!」


 小気味いい掛け声とともに、みーたんはパンチを繰り出してくる。だけどそれは、明らかに緩い。前回と同じように、序盤はやっぱり手を抜いてきた。

 俺は全然力が入ってない三発目のパンチをかわすと、その誘ってるようなみーたんの手首を掴んで、そのまま後ろ手に回した。


「は、離しなさい……。あなたはまた、あたしを辱めるつもりなんでしょ」


 これって、さりげなく要求してるよね? だったら、期待に応えないと悪いよね?

 そもそも俺は力を入れてないんだから、すぐにでも振り解けるはず。それなのに拘束されてるフリを続けるってことはそういうことなんだろう。

 さて、これからどうしよう……。いや、迷うことはない。みーたんの期待に応えるまで。

 俺は欲望に忠実に、背後からその大きな膨らみに手を回した。


「やめて、触らないで、汚らわしい!」


 服の上からでもわかる、その大きさと柔らかさ。至福の感触だ。

 こんなに堂々と揉んでるのに、みーたんは掴まれてる腕を振り払ってこない。それなら今度は正面から拝んでやる。俺はブラウスの胸の部分を掴んで振り向かせた。

 するとまたしても前回みたいに、大して力も入れてないのにブチブチブチとボタンが弾け飛ぶ。振り返ったみーたんは、ブラジャーが丸出しになった。

 二回連続とか、もうわざとだよね? わざと取れやすくしてるよね?


「み、見ないで……」


 慌てて腕を前で交差させて、必死に胸元を隠しながらみーたんは後ずさりする。

 前回の下着は薄い水色の上下だったのに、今回は大人びた黒。明らかにエスカレートしてる。個人的には前回の、清楚な感じの方が好みなんだけど……。


 にじり寄る俺と後ずさりするみーたん。だけどみーたんの逃げ場は、教頭の机によって阻まれた。

 お尻を机の角にぶつけたみーたんは、驚いて後ろを振り返る。その隙を突いて、俺は教頭の机の上にみーたんを押し倒した。

 そしてそのままみーたんの腕を掴んで、バンザイの体勢で机に押さえつける。


「やめて……やめなさい!」


 少し薄手の、高級そうな黒いレースのブラジャー。今日のためにこれを由美子が、いやみーたんが選んでくれたんだって考えると感慨深い。

 みーたんは俺の拘束を解こうと、左右に激しく身体をよじって抵抗する。その度にみーたんの胸元では、ブラジャーの中身が溢れ出しそうに中で暴れる。

 これは……みーたんのおっぱいを拝むチャンスなのか?

 俺はゴクリと唾を飲み込んで、遠回しに探りを入れる。


「黒い下着なんていやらしい奴だな。おとなしくしないと、剥ぎ取ってしまうぞ?」

「ふ、ふん。あなたにフロントホックの外し方なんてわかるのかしら? できるものならやってみるといいわ」


 こ、これは……。外せたら見てもいいよっていう意味だよな? そうだよな?

 俺は勝手にそう解釈して、左手一本で軽くみーたんの腕を押さえつけたまま、右手をゆっくりと卑猥な黒いブラジャーに伸ばす。


「いいんだな? 後悔するがいい、みーたんよ」


 俺は鼻息を荒くして、表情がニンマリと崩れる。だってチャンスがあるかもと思って、色々なブラジャーの外し方を昨夜インターネットで調べたばっかりだったから。

 みーたんの胸の谷間にあるブラジャーの留め具に、俺はゆっくりと指を伸ばす。そして勝ち誇ったように留め具をパキッと二つに折って、左右の留め具を上下に滑らせた。


「あぁ……見ないで。いやらしい!」


 プチッっと音を立てて、左右に跳ね飛ぶカップ。

 その勢いで、みーたんの乳房もプルンと揺れる。俺の目の前には、念願のみーたんのおっぱいの全様が、鮮烈に姿を現した。

 仰向けだっていうのにツンと上を向いたロケット型。その頂点には、シャーペンの消しゴムぐらいの薄茶色い突起物。写真や映像じゃない実物を初めて目の当たりにして、俺は感動を覚える。

 やっぱり違う。自分のとは違う。俺にもついてるけど、女の子のはやっぱり違う!


「おぉ……素晴らしい。きれいだ……」

「なによ、いやらしいわよ……。そんなにジロジロ見ないでよ……」


 みーたんは小声でつぶやきながら、頬を真っ赤に染めて顔を背けた。

 『見ないで』って言う割には、みーたんは腕を振り解かない。代わりに、みーたんは俺の拘束を解こうと、身体をよじらせてる。わざとらしい演技だけど。

 当然それに合わせて、みーたんのおっぱいも俺の目の前で左右にプルプル揺れる。

 本当にいいのか? こんな刺激的なものを至近距離で見せてもらっても……。

 俺はたまらず、目の前で揺れるみーたんのおっぱいを右手でそっと包み込んだ。


「……んっ……」


 みーたんの色気のある吐息に、俺はゾクッと背筋にむず痒さを覚える。

 上手くいきすぎて不安になった俺は、それとなくみーたんに再確認してみた。


「ふふふ、許しを乞うのなら、この手を放してやってもいいんだぞ」

「まだよ、まだ戦いは終わってない」


 いいのか? いいんだな? まだ触ってても……。

 直に触れたおっぱいは、つきたての餅みたいに柔らかいのに、しっかりと美しい形を保ってる。しかも、こんなに心地いい温かさ。神秘的だ……。

 鼻息が荒ぶってるのが自分でもわかる。かっこ悪いってわかってても、その息を整えることもできない。

 こんな状況で我慢ができるはずない俺は、突起物がカチカチになった柔らかい膨らみに別れを告げて、右手を今度はスカートへと伸ばした。


「い、いつまで強がっていられるかな? みーたんよ」


 俺がそっとスカートをまくり上げると、ブラジャーとお揃いの黒いレースのパンティが姿を現す。俺はいよいよ、黒いレースのパンティの腰の部分へと指を掛けた。


「…………」


 みーたんの動きが止まった。だけど抵抗はしてこない。

 俺は唾を飲み込んで、二度三度と息を整える。そしてゆっくりと右手に力を入れて、少しだけパンティをずり下げてみた。

 すると……。


「…………やめて……? お願い、だから……」


 アイマスクの奥の目に涙を薄っすらと溜めながら、みーたんが消え入りそうな声で、恐れるように懇願してきた。

 そして同時に『よっぽどキミのことを気に入ったのか、それとも信頼したのか』っていう、レクターが言った言葉を俺は思い出す。

 俺はみーたんの身体から手を離した。


「ふん。弱すぎて話にならないな。お前なんか魔法少女じゃない、ただの少女じゃないか。俺は強い魔法少女を屈服させたいんだ、弱いお前になんか用はない」


 するとみーたんは、溜めてた涙を溢れさせた。アイマスクの脇から一筋の涙が伝う。

 そしてポツリとつぶやいた。


「…………ありがとう、ね」

 

 これ以上みーたんのいやらしい身体を見てたら、歯止めが利かなくなる。

 俺はすぐに背を向けて、そのまま一直線に職員室を後にした。

 テストの答案の入った茶封筒を右手で掲げながら……。


「さらばだ、魔法少女みーたん……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る