増える魔法少女

第7話 二人目登場

 二股って言えば聞こえは悪いけど、要するに魔法少女みーたんだけじゃなくて、他の魔法少女とも対決しようっていう話だった。

 なんだかレクターにいいように使われてる気がする。要するに、レクターが効率よく正義感エネルギーを回収したいだけじゃないのか?

 だけど、別な魔法少女にも興味があるのは確か。二人目の魔法少女はどんな子だろうって考えると、俺は昨夜からワクワクが止まらない。

 やってきたのは早朝の女子高の通学路。現場に到着すると、レクターの声が頭に響いた。


『思ったよりも遠かったね』

『冗談じゃないよ、こんなに朝早くから……。それにここって、幼馴染の通ってる女子高のすぐ近くなんだぞ。見つかったらどうすんだよ』

『敵役に変身すれば素性はバレないって、心配ないよ』


 レクターの自信はいったいどこからくるんだ……。

 初戦は深夜の学校だったから人目は気にならなかった。だけど今回は普通に街中、いくら早朝で人通りがほとんどないっていっても、俺は不安で仕方がない。


『で? 今日の悪事は何をするんだよ、こんなところで』

『じゃぁ、今日の筋書きを発表するね。っと、その前に変身、ほほほほーい!』


 俺の心の準備を待ちもしないで、レクターはまたその白い身体でバック転をする。

 その瞬間、俺の姿はまたしても黒いマントに黒い……あれ、タキシードはどうした?


『ちょっと待て。マントは背負ってるけどタキシードはどうしたんだよ。俺、ブリーフ一丁なんだけど』

『今日の悪事は露出魔さんだよ。女子高生がキャーキャー言って逃げ惑うところに、魔法少女が現れて正義の鉄槌を下すっていう筋書きさ』

『待て待て待て。まさかこの格好で、通学中の女子高生の前に飛び出すのか? そんなの、無理無理無理』

『大丈夫、見た目だって変わってるし、通行人の記憶は消すから心配ないよ』

「俺のメンタルを心配しろよ!」


 パンツ一丁に黒マント、顔はピエロ。どこをどうみても変態です。

 いくら素性はバレないって言っても、こんな姿で女子高生の前に飛び出せとか無茶振りにも程がある。童貞男子高校生のメンタルの弱さを舐めるな!

 それに思ったよりも快感で、目覚めちゃったらどう責任を取ってくれるんだ。俺が露出狂になっちゃったら……。


『早くしてくれないかな。人通りが増えると記憶を消しきれなくなっちゃうよ』

『心の準備をさせてくれ。相当に度胸がいるぞ、これは』

『もしもお望みなら、そのブリーフも脱いじゃっていいからね。むしろ全裸の丸出しの方が、エネルギーをたっぷり回収できるかもだし』

「できるか!」


 確かに、時間が経てば経つほど人通りが増えそうだ。それにもたもたしてると、幼馴染の幸子が通学する時間になってしまう。

 俺は覚悟を決めて、誰もいない通学路の真ん中に仁王立ちになった。

 まだ身体はマントで包んだまま。そして通りかかる女子高生をじっと待つ。


 やがて通りの向こうから、二人組の女子高生がやってきた。

 チェックのプリーツスカート、白いブラウスにベージュのジャケット、女子高の制服だ。大丈夫、幸子じゃない。幸子なら自転車で通学するはずだ。

 女子高生は俺に気がつかないで、二人でおしゃべりをしながらこっちに歩いてくる。

 タイミングを見計らった俺は二人の前に歩み出て、ガバっとマントを広げる。そしてブリーフ一丁の半裸姿を、これでもかと見せつけた。


「…………」

「…………」


 無言で下半身を見つめてる二人の女子高生。彼女らは続いて顔を上げると、俺と目が合った。

 一人は呆れ果てた視線、もう一人は哀れみの視線を俺に突き刺す。

 そして一言……。


「だっさ……」


 そうつぶやくと、二人は何事もなかったように話を再開させて歩き去った……。


『女子高生はキャーキャー言って逃げ惑うんじゃなかったのか?』

『うーん、この星の思考情報がちょっと古かったのかもね。昭和って時代なら、女子高生は泣きながら逃げ惑ってたはずなんだけど……』

「いつの時代だよ!」


 騒ぎにならなかったせいか魔法少女は現れない。しょうがない、このまま次の女子高生でリトライするか……。


 今度は一人。文学少女風の眼鏡をかけた真面目そうな子だ。この子なら恥ずかしがって、逃げ惑ってくれるかもしれない。

 スマホを見つめながらやって来る少女の進路上に立って、俺は今か今かと身構える。そして少女が俺の前にやって来たところで、再びマントをガバっと開いた。


「……何か用ですか?」

「い、いや、その……別に……」

「じゃぁ、先を急ぎますんで」


 普通に対処された。これじゃ、さっきの軽蔑の眼差しの方がよっぽどご褒美だ。

 度重なる冷たい仕打ち。このままじゃ達成できない任務。色々な感情が沸き立って、俺は最後の手段を決意する。

 騒ぎにならなきゃ魔法少女が現れないなら、絶対に騒ぎにしてやる。

 俺はブリーフに手を掛けて、そのまま一気に脱ぐ。そしてそれを頭に被って、背を向けた少女の肩に手を掛けて振り向かせると、下半身を突き出して見せつける。

 どうだ、開き直った俺様は無敵だ!

 少女はジッと俺の下半身を凝視してる。


「…………」


 見てる。俺のをジッと見てる……。

 俺は少女の次のリアクションを待った……。


「…………しょぼ……」


 ――痛恨の一撃。

 緊張で縮み上がってるせいなのか……。それとも、皮が余ってるせいなのか……?

 ここまでやれば騒いでくれると思った俺の目論見は甘かった。「ぺっ」と吐き捨てられた少女の唾が、俺の股間に掛かる。

 魔法少女が登場する前に、俺は一人の文学少女によって打ち倒された……。



「あはははは、見てたわよ。その惨めな姿」


 高らかな笑い声と共に現れたのは、真っ黒いボンデージ風のレオタードにムチを手にした少女だった。脚には目の粗い網タイツ、目元には黒いアイマスク。どうやら今頃になって魔法少女の登場らしい。


「いや、もう、戦う元気なんて残ってないんだけど……」


 俺は既に心も下半身も意気消沈中。なのに魔法少女は元気いっぱい。そりゃそうだろ、今登場したばっかりだし……。

 そして身体を斜にして、前側の手でムチの柄を、後ろ側の手でムチの先を持って構えると、この魔法少女もやっぱり名乗り口上を始める。


「私はいじめを見逃さない。私は悪事を見逃さない。いつでもどこでも駆けつける。魔法少女リーン、ここに見参!」


 やっぱりやるんだ、これ……。

 今度の魔法少女の名前はリーン。せっかくの二人目登場だけど、残念ながら俺のテンションは上がらない。

 すでに精神的大ダメージを受けてるせいもあるけど、もう一つの理由は魔法少女のこの体型。前回のみーたんがナイスすぎるバディだっただけに、落差が激しい。

 コスチュームは悪くない。胸がなだらかなのも別に嫌いじゃない。だけどその寸胴すぎる幼児体型は、俺にはちょっと刺さらない。

 二重の意味で俺が肩を落としてると、容赦なくリーンの方から攻撃が始まった。


「そっちがこないなら、こっちからいくわよ!」

「あふっ!」


 その言葉と共に繰り出された、いきなりの急所蹴り。

 丸出しの股間に決まった蹴りは、変身してても息を詰まらせる。俺は蹴られたところを押さえて、うつ伏せにうずくまった。

 すかさず今度は細いピンヒールで、リーンは頭をグリグリと踏みつけてくる。


「あははははははは、惨めな姿ね。素敵だわ、最高よ」


 この上なく嬉しそうな、狂気を感じる高笑い。リーンは踏みつける足にさらに力が入る。

 続いてリーンは背後に回り込んで俺のマントをめくりあげると、今度はお尻を蹴り上げた。容赦のない攻撃に俺は防戦一方だ。

 それでもリーンは攻撃の手を止めない。背中を踏みつけ、脇腹を蹴り、さらにお尻を何度も蹴り上げる。

 そしてリーンは俺の背中に馬乗りになって、二回、三回と俺のお尻をムチで叩いた。


「ヒヒーンとでも鳴いてみなさい」


 いいのか? こんな魔法少女。とてもお子様の憧れにはならなそう。大きなお友達には喜ばれるかもしれないけど……。

 充分に攻撃して満足したのか、リーンは俺の耳元に口を寄せてそっと囁いた。


「じゃぁ、そろそろとどめを刺してあげるわね、ふふ」


 そう言ってリーンは俺を仰向けに転がすと、両足を掴んで持ち上げる。

 さらに俺の脚の付け根にリーンは足を捻じ込んで、そのまま両足を引っ張り上げた。


「いじめの始末は私がつける。いつでもどこでも容赦はしない。必殺、エレクトリック・マッサージ!」


 リーンは大声で決め台詞を叫びながら、俺の股間を踏みつける足を小刻みに震わせた。


「電気按摩じゃないかぁ!」



 小学時代に味わった懐かしい衝撃を下腹部に受けて、俺は戦闘不能になった……。

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