第6話 反省会
今朝は部活の朝練かっていうぐらいに、家を早く出た。
昨夜、魔法少女にとどめを刺された俺は、男子トイレで目が覚めた。レクターの話だと、保存しておいた状態に巻き戻したから、正義感エネルギーのやり取り以外は元通り……らしい。
らしいっていうのは、自分の目で確認してないから。
魔法少女と鉢合わせするとまずいってレクターに言われてそのまま帰ったけど、こんなに心配になるなら昨夜のうちに教室を確認しとくんだった……。
誰よりも早く教室にたどり着いた俺は、もし滅茶苦茶なままだったらどうしようっていう不安を抱えながら、恐る恐る扉を開く。
すると教室は、いつも通りの配置で机と椅子も等間隔。黒板もきれいだし、机の落書きだって綺麗さっぱり消えている。
ほんとに昨夜の出来事がなかったことになってる……。
俺が教室の入り口で巻き戻った光景に感激してると、背後から声がかかった。
「ちょ、ちょっとあなた、早くそこをどいてちょうだい。まさか……」
振り向いた俺の目の前にはみーたん……いや、由美子が立っていた。
由美子は、教室の入り口を塞いでた俺を押し退けるように、その身体をねじ込む。そして教室を覗き込んだ由美子の口からは、ポロリとつぶやきが漏れた。
「良かった……」
「良かったって、なにが?」
「あ……あ、あなたが、あたしより先に教室に入ろうとしてたから、遅刻したんじゃないかって思っただけよ。ボケっとしてないで、早く教室に入りなさいよ」
俺を責め立ててる割には、由美子はどう見ても安堵の表情。きっと由美子も不安だったんだろう、昨夜の出来事が片付いてるかどうか。
昨夜の話を切り出したくてたまらないけど、俺には守秘義務がある。それは、自分の素性をばらすような言動はもちろん、相手の素性がわかっても口外しないこと。だから、俺は口をつぐむしかない。
教室に入ると、由美子はすぐに自分の席に飛んでいった。そして、机の中を覗き込んでノートを取り出し、中身を確認するようにパラパラとページをめくってる。
ホッと胸を撫で下ろしたところを見ると、俺のいたずら書きは消えてるんだろう。
そして由美子は、そのノートを大事そうにカバンにしまい込んだ。こんなことなら何が書いてあるのか見ておけば良かった……。
「委員長はなんでこんなに早く学校に?」
「な、なに言ってんのよ。あたしはいつもこれぐらいよ」
「ふーん、さすが委員長だね」
「当たり前でしょ!」
どう見ても由美子は動揺してる。嘘をつくのが下手すぎる。
普段は隙がないクラス委員長の由美子が普通の女の子に見えて、俺はちょっとばっかり親近感が湧いた。
「何をニヤニヤしてるのよ、いやらしいわね。そういうあなたこそ、こんなに早く登校なんて、どういう風の吹き回し? 遅刻魔のくせに」
「寝ぼけてて、時計を見間違えたみたいだ」
「まったく、ドジな男ね。だけどこんなに早く学校に来られるんだったら、あなた明日から毎日時計を見間違えなさい」
「毎日って……。それってもはや、間違えてなくない?」
教室は問題なかったし、俺も席に着いてこれでようやく一安心。
さて、今から授業が始まるまでの一時間、どうやって時間を潰そうか……。
なーんて、心配は無用。今日の俺は暇潰しには事欠かない。みーたんのパンチラ、胸を隠しながらの戦闘、そして下着丸見えの仁王立ち……。昨夜のことを思い出せば、いくらだって時間を浪費する自信がある。
そして、そのみーたんの正体がそこにいる由美子だと思うと、さらに下半身……いや、胸が熱くなる。チラリと由美子の顔を覗き見ながら、昨夜の下着姿のみーたんを頭の中で重ね合わせてみると……これはヤバい、我慢ができなくなりそうだ……。
「チラチラといやらしい目であたしを見ないでちょうだい。不潔ね、不愉快だわ」
見つめてた俺に気付くなり、冷酷に罵倒してくる。あぁ、いつもの由美子だ……。
でも、そんな蔑んだ目をしながらもあんな下着を身に付けてるのかって考えたら、今日はいつもよりもゾクッとした……。
授業が始まっても頭に浮かぶのは昨夜のことばっかり。妄想が捗って仕方がない。
だけど不思議なこともある。最後に俺がボコボコにされたことだ。あんなに強いなら、なんで途中まで俺にされるがままにしてたんだろう。
そこで一つの仮説が浮かぶ。昨夜のみーたんは、序盤は手を抜いてた。それは自分を劣勢に追い込むため。そして辱めを受けながらギリギリまで追い詰められたところで覚醒、そこから一気に大逆転勝利。そんなシナリオが彼女の好みだったりするんじゃないか?
魔法少女みーたんがそんな性癖だっていうなら、また対決する機会があったら次はどうしてやろうか……。昨夜のあれが許されるなら、今度こそおっぱいを拝んで、あわよくばもっと凄いことも……。
そんな次の対戦の妄想……いや、シミュレーションをぼんやりとしてたら、頭の中に声が響いた。
『やっぱりキミはボクが見込んだ通り、いやそれ以上の才能の持ち主だったよ』
『突然何の話だ?』
『昨夜キミが引き出した正義感エネルギーが、すごい数値だったんだよ』
『あれがそんなにすごかったのか』
『昨日、ボク言ったよね。些細な悪事でも、キミ次第で大きなエネルギーを回収できるって。まさか初戦でそれをやってみせてくれるとは思わなかったよ』
変身前にレクターが言ってた意味がやっとわかった。要するに魔法少女を乗せてその気にさせれば、より大きなエネルギーを引き出せるってことか。ってことは、みーたんの好みのシチュエーションって……。
だけど昨夜のあれは勢いだけで、単なるまぐれだったんだけど……。
『それに、昨日の対戦相手のマネージャーからお褒めの言葉までもらったよ』
『やっぱり向こうにもいたんだ。おまえみたいなやつ』
『そうそう。初対決だっていうのに魔法少女の思考をいきなり見抜いて、力をあそこまで引き出すなんて凄いって驚いてたよ』
『思考? むしろ嗜好の間違いだろ』
どうやら由美子の性癖に、俺の昨夜の行動がはまったのは事実らしい。俺も昨夜みたいな展開は大好物だし、そうなると俺と由美子の相性はばっちりなんじゃ……。
ひょっとして、コクったら意外とオッケーもらえちゃったり……?
いや、調子に乗るのは止めておこう。
『じゃぁ、そこにいるのか? そのマネージャーって』
『そこって?』
『だって、昨夜の対戦相手はそこのクラス委員長だろ?』
『それはお答えできないね』
『とんだ変態さんだったんだな、委員長って』
『それはお答えできないね』
「どう考えたって委員長だろ!」
『キミ、やっちまったね?』
しまった、勢いに乗って声に出してた……。
先生よりも先に、由美子がガタリと立ち上がって声を荒げる。
「あたしが何ですって!?」
「あ、あぁ……クラスで一番の美人は委員長だろうって……」
いくらとっさの嘘とはいえ、俺ももうちょっと上手い嘘をつけよ……。
俺は目頭を押さえて、ちょっと自己嫌悪に陥った。
「じ、授業中に何を言い出すの、あなたは……。先生、授業を続けてください……」
でも、由美子はまんざらでもなかったらしい。顔を真っ赤にして椅子に座り直すと、目を泳がせながら一心不乱にノートを取り始めた。可愛い奴だな……。
『お前が魔法少女の秘密を明かせないのはわかったよ。それで、魔法少女との戦闘はあんな風にやればいいってことだな』
『あんな感じで今後も頼むよ。それで提案なんだけど……』
『なんだ? 提案って』
『――キミ……二股かけてみないか?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます