第5話 魔法少女参上!

 威勢のいい声と共に、一人の黒髪の少女が現れた。

 だけど俺と目が合った瞬間に、彼女は「ヒィッ」と短い声を上げて仰け反る。やっぱり怖いよね、このピエロの顔……。


 赤いチェックのミニスカートに真っ白いブラウス、襟元には赤い大きなリボン、羽織ってるのは裏地が赤の、真っ白なマント。そして仮想パーティで使いそうな赤いアイマスクで、目元は隠されている。

 深夜の学校にド派手なコスチューム、彼女が魔法少女で間違いなさそうだ。

 やっと出会えた魔法少女に、俺の胸は一気に高鳴った。

 だけど、魔法少女は俺がノートに落書きをしてることに気が付くと、慌てた様子でうろたえ始める。


「ちょ、ちょっとあなた、その席で何してるの。あ、あた……とにかくやめなさい」


 目元は隠れてるけど間違いなく美人。ときめくほどにスタイルだっていい。そんな魅力的な魔法少女だけど、なんていうか落ち着きがない。

 それに、登場は勇ましかったけど俺の顔を見ただけでビビってたし、よく見ると身体も小刻みに震えてるみたいで、なんだか威厳も足りない。

 そんなことを考えた俺の頭に、レクターの声が響いた。


『向こうもこれが初戦なんだって。だから大目に見てあげてよ』

『どうりで……。それを聞いて、俺の緊張も少し解けたよ』


 レクターの言葉でリラックスできた俺は、ゆっくりと椅子から立ち上がる。そして、さっき机を蹴り飛ばしまくってできた空きスペースで、俺は魔法少女と対峙した。

 いよいよ対決の瞬間。瞬間と書いて【とき】と読む。

 敵役の俺と向き合った魔法少女は、微かに笑みを浮かべながら名乗り口上を始めた。


「迷惑行為を許さない。不正行為を許さない。真面目に生きる人のため、弱者のためにあたしは戦う!」


 魔法少女は口上を言い終わると同時に、俺に右手の人差し指を突きつけて、左手でその長い黒髪をかき上げてみせた。これが魔法少女の登場のポーズってやつか。


「…………え、名前を言ってない?」


 ポーズを決めた直後の魔法少女の独り言。

 この魔法少女は一体誰と話してるんだろう。

 こっちもレクターが付き添ってるんだし、向こうにもマネージャーが付いてるのかも知れない。そのグダグダっぷりが、少し可愛くて微笑ましい。

 そして彼女は少し照れ臭そうに咳払いをしながら、言い忘れた名乗りを上げた。

 それにしてもこの魔法少女、なんだか見覚えがある……。


「魔法少女、みーたん!」

『みーたんって、委員長のあだ名じゃねーか!』


 あっさりと身バレ。確かにこの体型は由美子っぽいし、目元は隠れてるけど顔だって彼女っぽい。

 まさか、由美子が魔法少女だったなんて……。

 アニメとか嫌ってたみたいなのに、これはいいのか。でもあれだけ正義感が強い由美子のことだから、こういうのは結構好きなのかもしれない。


「あなたは誰? ここで何をしていたの?」

「ふ、ふふ、ふふふ……お前に名乗る必要はない。何をしていたかは見ての通りだ」


 しまった。名前を尋ねられるとは思わなかった。そして考えてなかった。ひとまず今日のところは適当にごまかして、とっととやられて終わりにしよう……。

 俺が出方をうかがってると、魔法少女みーたんは挑発的な言葉を仕掛けてきた。


「無人の教室を荒らしたり、ノートに落書きするなんて陰湿ないたずらね。やられた者の気持ちも考えられない、とんだ卑怯者だわ」

「ええい、うるさい。早くかかってくるがいい、みーたん」

「気安く呼ばないで!」

「自分で名乗ったんじゃないか!」

「ふん、あなたのような人は、地獄に落ちるといいんだわ」


 みーたんは言葉ばっかりで、ちっとも向かってこない。

 そしてみーたんは、また言葉で俺を挑発してきた。


「どうしたの? かかってこないの? とんだ臆病者ね」

「…………」


 うーん、こっちから飛び掛かっていいものか……。

 魔法少女と対決するのなんて初めてな俺は、どうしていいのかわからない。

 とりあえず俺は、みーたんに向かって一歩踏み込んでみた。

 するとみーたんは、俺に歩調を合わせるように一歩後ずさる。


「…………」


 そして沈黙。空気が気まずくなっていく。

 俺が一歩進むと、みーたんが一歩下がる。これが格闘家同士の戦いなら、手に汗握る間合いの取り合いなんだろうけど、そんな緊張感はどこにもない。

 いや、違う意味での緊張感に包まれてるか……。

 向こうもどう戦っていいのか戸惑ってるのかもしれない。だけどこのまま睨み合ってても何も進展しない。

 俺は覚悟を決めて、さらにみーたんに向かって強く歩み寄る。

 するとみーたんは後ずさりした拍子に、転がってた筆箱に足を取られた。


「ひゃっ!」


 後へ転げて、みーたんが尻もちをついた。

 スカートが捲れて、スラリとした脚の付け根のパンティが丸見えになる。


「ど、どこを見てるの。ハ、ハレンチな!」


 みーたんは慌ててスカートを押さえたけど、俺は薄い水色のレースのパンティを脳裏にクッキリと焼き付けた。

 あれは見せパンなんかじゃない、間違いなく本物だ。由美子……じゃなかった、みーたんの生パンティを見て、俺の迷いは吹き飛んだ。

 まずいときはレクターが止めるって言ってた。俺は前進あるのみ!

 俺は顔をニヤケさせて、座り込んだままのみーたんを挑発してみせる。だって俺は魔法少女の敵役。これは悪役としてのロールプレイなんだ、仕方がないんだ。


「ハレンチっていつの時代の言葉だよ。まったく、いやらしい下着を履きやがって」

「み、見ないで。やめて……こっちへ来ないで、近寄らないで」


 いや、まだ全然近寄ってないんだけど……。

 ひょっとして、これは逆に誘ってるのか?

 都合よく解釈した俺は、わざとらしく両手を突き出しながら、ゆっくりとみーたんに向けて迫ってみた。


「いや、やめて、来ないで……」


 怯えながら足を使って後ずさりするみーたん。座ったままだから、足を動かす度に短いスカートの中身がチラチラと覗く。

 こんなものを見せられたら、俺が落ち着いていられるわけがない。みーたんを挑発するセリフが上ずって、自分でも何を言ってるのかよくわからない。


「ふ、ふふふ、く、口ほどにもないな、魔法少女みーたん」


 俺はゆっくり迫ってるんだから、立とうと思えばいつでも立ち上がれるはず。それなのに、みーたんはそうしない。パンチラだって気づいてないとは思えないんだけど……。

 まさか、わざとなのか……?

 落ち着け、そんなはずないだろ。今は敵役としての任務を全うしないと……。

 みーたんが座り込んだままだとやりにくいから、立ち上がらせるために俺は胸倉を掴み上げた。するとコスチュームが安物だったのか、ボタンがブチブチと弾け飛ぶ。

 マジか! 留める物がなくなったみーたんのブラウスは一気にはだけて、パンティとお揃いのブラジャーが俺の目の前に飛び出した。


「いやぁ!」


 慌てて両手を交差させて胸元を隠したみーたんは、羞恥で顔を真っ赤に染め上げながらその場にへたり込む。

 両手が塞がった魔法少女は何もできない。それでもみーたんは、上目遣いで俺をキッと睨みつけると、絞り出すように強気の言葉を吐いた。


「ふん、まだこれからよ。下着姿に顔を緩めるようないやらしいあなたに、あたしは絶対負けはしないわ」


 恥ずかしい思いをして逃げ出すかと思ったけど、こんな状況でも任務は投げ出さないらしい。変身してもやっぱり真面目だ。

 これが大丈夫なら、もうちょっとだけ調子に乗ってもいいかな? 俺は鼓動を速めながら、胸の前で交差しているみーたんの両腕を掴んで床に押し倒した。


「あ、あたしを、どうするつもり!?」


 必死に抗いの言葉を投げつけるみーたん。だけど両腕は俺に組み伏せられたまま。女の子ってこんなにも非力なのか?

 薄い水色のブラジャーを曝け出しながら身体をよじるみーたんの姿を見て、俺の頭に罪悪感がよぎる。


 ――さすがにちょっとやり過ぎちゃったかな……?


 だけど、目の前には重力に逆らってそびえる二つの膨らみ。それを改めて確認したら、罪悪感なんて一瞬で吹っ飛んだ。

 制服姿のときから形が良さそうだと思ってた胸。推測はやっぱり正しかったと、その輪郭が露わになって実感する。だけどここまで来たならあと一枚、そのブラジャーの布一枚隔てた向こう側が見たい!

 俺は息を荒げながら、その最後の砦に手を導く。


「ここはどうなってるのかなー?」


 俺は水色のブラジャーを左手で掴むと、上に向かってゆっくりとずり上げていく。

 ブラジャーの下側から姿を現し始める柔らかそうな膨らみ。触ってみたい気もするけど、今はその頂点を見る方が先だ。

 さらにブラジャーをずり上げて、弧を描く胸の付け根の曲線もそろそろ半円。最後は少し申し訳なく思いながらも、乱暴に一気にブラジャーをずり上げた。

 あぁ……ずっと憧れてた、見たくて、見たくてたまらなかったみーたんのおっぱいが、ついに、ついに、俺の目に触れることに……と思った瞬間、俺の左の側頭部に鈍い衝撃が走った。


「てゃっ!」


 それは調子に乗った俺を戒めるような、みーたんの繰り出した右フック。

 俺の顔は思いっきり右に振られて、その高い山の頂を拝み損なった。

 そして、立ち上がったみーたんはブラジャーのずり上がった胸を左腕で隠しつつ、スイッチでも入ったみたいに反撃を開始した。


「はいっ!」


 まずはあいさつ代わりの右のボディパンチ。俺は腹を抱えて前かがみになる。


「はいっ!」


 前傾する俺の顔面に、今度は右のハイキック。俺の身体がよろめく。

 だけど次の瞬間みーたんの左腕が、隠してた胸から離れる。あ、見える……そう思った瞬間、その左手の甲が俺の頬へと打ち込まれた。


「たぁっ!」


 弾かれる顔、俺はおっぱい見たさに急いで顔を戻す。しかしみーたんのおっぱいは、すでにブラジャーにしまわれた後だった……。

 自由になった両手両足で、みーたんはさらに攻撃を畳みかけてくる。

 その連続攻撃に、俺はとうとうおっぱいを拝むことなく床へと転がされた。


 仁王立ちで俺を見下ろすみーたんは、パンティもブラジャーも丸見え。なのに、あのおっぱいの全様が明らかになる寸前だったことを思うと、なんだか物足りなく見えてしまう……。

 続けてみーたんは腹の上に馬乗りになると、両手のひらを俺の胸に向けて突き出した。


「あなたの悪事は許さない。すべてこのあたしが葬り去る。悔い改めよ、正義の鉄槌、ジャッジメントハンマー!」


 次の瞬間、ドクンという衝撃を受けて俺の意識は遠のいた。

 これが魔法少女が放つ魔法って奴か……。

 薄れゆく意識の中で、みーたんが言葉を残して去って行く……。


「ふふ、恐ろしい敵だったわね。またいつでもかかってらっしゃい、必ずあたしが返り討ちにしてあげるわ」

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