§020 「私のベットに座るなんて生意気だぞ」

 私はベッドに横たわりながら、今日の未知人くんとの出来事を思い返していた。


 私はあなたのことを好きじゃない。

 俺も更科のことは“友達”だと思ってる。


 この言葉で今まで曖昧だった二人の関係性が決定付けられてしまった気がする。


 私が未知人くんを好きじゃないのは事実。

 未知人くんが私を友達だと思ってくれてるのも事実。

 だからこの表現は何も間違っていない。

 それなのに心のモヤモヤが晴れないのはなぜだろう。


 私はふと彼とのLINEを開く。

 これは先日学校で『LINEを交換するに乗じて彼の手に触れてしまおう作戦』の際にゲットしたものだ。

 おそらくクラスの女子で未知人くんのLINEを知ってるのは私だけだと思う。

 だって、彼はクラスでは一匹狼みたいなポジションだからグループLINEにも入ってないし。


 ふふ……それにしても何なのこのトップ画。

 未知人くんのLINEのアイコンには、どこかの赤髪の大海賊が未来の大海賊に麦わら帽子を託すシーンが映し出されていた。

 あれだけ赤髪なんて嫌いだとか言ってるくせに、実は結構気に入ってるんじゃん。


 気が付くと自然と笑みがこぼれていた。


 本当に不思議な人よね。

 おちゃらけてたかと思えば、急に真面目なことを言ったり。

 ぶっきらぼうなのかと思えば、なんだかんだ気を遣ってくれたり。


「…………」


 これじゃあまるで……私が彼に翻弄されてるみたいじゃない……。


 私はふと思い立って机の上に置いてあるぬいぐるみを手に取る。

 そして、ベットの上に鎮座させる。


 これはショッピングモールでのデートのときに未知人くんがUFOキャッチャーで取ってくれたぬいぐるみだ。

 それにしても……本当にブサイクな顔してる。

 あとなんか雰囲気が未知人くんに似てる。

 よくこんなぬいぐるみを商品化しようと思ったものだ。

 これがいわゆる“ブサカワ”というやつだろうか。


 私はぬいぐるみにスマホのカメラを向けて、パシャリと1枚写真を撮る。


 うん、決めた。

 いまのトップ画も飽きてきたところだし、次のトップ画の座は君にあげよう。

 そう言って、私はぬいぐるみに話しかける。


「…………」


 当然のことながら、ぬいぐるみは沈黙を守って私のことをじっと見つめてくるだけだ。


「ふん。私のベットに座るなんて生意気だぞ」


 そう言って彼にデコピンをしてみせる私。

 私……何やってるんだろう……。


 私はどうにも満たされない感覚に襲われて、ベットに身体を投げ出す。

 それと同時に制服のスカートがめくれ上がり、私の色白な太ももが露わになる。

 まあ、別に誰に見られてるわけでもないし、いいか。

 そう思って、足を少しバタバタしてみる。


「あ~ほんとにどうしちゃったんだろう……私」


 そうだ。せっかくLINE交換したんだから未知人くんにメッセしてみようかな……。

 そう思って、再度、LINEを立ち上げる。


【今日は付き合ってくれてありがとう。髪型すごい似合ってたよ】


 そう入力してから「違う違う」と思い直して、文字を削除する。

 私はなんでこんなLINEを送ろうとしてるのだ。

 これじゃまるで付き合いたての彼女みたいじゃないか……。

 もっと普通の文章を……【拝啓】……いやおかしい……【いまなにしてる~♪】……これもキャラじゃない……。


 その後も入力しては消すを繰り返したが、結局何を送っていいかわからず、そっとスマホを閉じた。


(ピロン♪)


 そのまま寝てしまったんだと思う。

 私はスマホの着信音で目を覚ました。


 こんな時間に誰だろう。

 あれ? 私って結局未知人くんにLINE送ったんだっけ……?


 私は眠い目を擦りながら、スマホの画面に視線を落とす。

 そして、そのあまりの衝撃に、思わず声を漏らす。


「えっ……先輩がなんで私のLINEを……」


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