§067 「幸せになれよ、未知人」
「いやぁ、マジでよかったな。って……いでっ! ちょ……殴るのは無しだろ!」
「うるせぇ! 希沙良に余計なことばっかしゃべりやがって!」
星夜祭が明けた月曜日の放課後。
俺と国分は例のファミレスに足を運んでいた。
「更科が悩んでたからちょっと知恵を貸しただけだよ」
「お前の知恵っていうのは情報そのものだろうよ。赤梨の告白のことを希沙良が知ってたときは、血の気が引いたわ」
「ああ、それは更科が情報を買ってくれるっていうから売っただけだよ。俺は未知人の親友である以前に『情報屋』なものでね」
国分がニヤリと笑って、コップの中の氷をストローでつつく。
「まあ、正直なところは感謝してるよ。なんだかんだ裏でいろいろ動いてくれてたんだろ? ありがとな、俺のために」
「お前と更科のためな。オレも素直に二人には幸せになってほしかったし」
「国分って実はいいやつだよな」
「『実は』は余計だな」
そういえば……、と何かを思い出したように視線を上に向ける国分。
「更科からはちゃんとお礼は言ってもらえたか?」
「お礼? 何のお礼だ?」
「あれ? 聞いてないのか?」
「うぅ~ん、多分言ってなかったと思うけど」
「それは契約違反だな」
そう言って、国分は悪魔のような笑みを浮かべる。
俺はその国分のいかにも性格が悪そうなニタっとした表情に思わず唾を飲み込む。
「これは……更科にお仕置きが必要そうだな」
「お仕置きとは……?」
こういうのはどうだ?と言って、手を卑猥に揉み揉みする仕草をする。
「そんなことしたら、希沙良に『能力』使われてお前の人生終了するぞ」
「まあこれは冗談として、そうだな……オレの目の前で更科が未知人にお礼を言うという羞恥プレイでいこうかな」
「お前……そんな条件を希沙良が飲むと思ってるのか?」
「更科はオレには逆らえねぇよ」
「お前ら、バッティングセンターの時から思ってたけど、仲良いよな?」
「あれ? 未知人……妬いてるのか?」
こいつは本当に性格が悪い。
お前みたいなイケメンが自分の彼女と仲良くしてたら、妬くのは当然じゃないか。
「希沙良は俺のものだからな」
「おー熱いねー。安心しろよ。更科みたいな女には未知人みたいなバカがお似合いなんだよ。オレと更科が付き合ったら、毎日がライアーゲームだよ。そんなの耐えられねぇわ」
国分は、本気にするなよとばかりに、大きな笑い声をあげる。
そんな国分を見ていて、1つ思い付いたことがある。
「なあ、国分」
「……うん?」
「今度みんなでどこかに遊びに行かないか? できれば赤梨も誘って」
「オレは別に構わないけど……赤梨も誘うのか? 更科と絶賛戦闘中だろ?」
「そうかもしれないけど……」
「けど?」
「俺はいまでも赤梨のことは友達だと思ってるから、今回のことを包み隠さず話そうと思ってるんだ。もちろん希沙良がOKすればだけど」
「更科はOKしてくれそうなのか?」
「希沙良ならきっとわかってくれるよ。彼女はそういう子だ。問題は赤梨の方だけど……いまのままじゃさすがにどうかと思うから、今度会って話してみようと思ってる。今までは駆け引きばかりで本音で話せなかった気がするしさ」
「まあ、未知人がそう決めたんならいいんじゃないのか。さすがに前みたいに修羅場に巻き込まれるのはごめんだが」
「今回はそんなことにならないようにしっかり対応させていただきます」
「あっ、もし遊びに行くなら更科には手袋つけさせろよ。オレまで更科のこと好きになったらさすがにカオスだからな」
手袋か……。
そういえば、いままでそういう対策って考えたことなかったな。
「あのお姫様がつけてる白い手袋とか希沙良なら絶対に似合うよな」
「オペラグローブ?」
「ああ、確かそんな名前のやつ」
「マニアックすぎてちょっと引いたわ。未知人にそういうフェチがあったなんて」
「なっ……ちげーよ。決して変な妄想はしてないからな」
ふふ~んと、締まりのない面で俺を見つめてくる国分。
「それにしてもこれからが楽しみだな」
「楽しみ?」
「決まってるだろ? もうお前と更科は正式な恋人なんだから、あんなことやこんなこと……」
国分の言葉で、ぽわわわ~んという効果音とともに、あらぬ妄想が掻き立てられる。
「ぐわー! うるせーよ! そんなのはまだ先の話だろ! 俺たちには俺たちのペースがあるんだよ!」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「でも、案外と『能力』が効かなかった未知人でも、もし更科にアソコをさわっ……いでっ!」
「お前、マジでそれ一番言っちゃダメなやつだからな」
まったく……こいつの冗談はたまに軽犯罪級だから対応に困る……。
そりゃ希沙良にそんなことされたら……っていやそういう問題じゃないっ!
「なぁ……未知人」
「なんだよ」
国分は俺に殴られた頭を押さえながら、ふぅ~っと一呼吸置いて、名前を呼ぶ。
いままでふざけていたのが嘘のような真面目な声だったものだから、俺は思わず国分の顔を見つめる。
「ホントによかったな。心から安心したよ。幸せになれよ、未知人」
そう言った国分の表情は慈愛に満ちており、どこか安堵しているようにも見えた。
なんだよ、さっきまで下ネタばんばんにかましてたくせに、急に真面目な顔しやがって。
そんな顔されたら怒るにも怒れないじゃないか。
言われなくても幸せになってみせるさ。
だから安心して見守っててくれ。
「……ああ、本当にありがとな。親友」
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