§002 「さすが『情報屋』の異名は伊達じゃないな」
「……ってことなんだよ国分。どう思うよ?」
俺は、真壁の告白を目撃した帰り道、唯一の親友といえる
えっ? 更科希沙良に口止めされたんじゃないかって?
我は好奇心旺盛、血気盛ん、食欲旺盛な高校2年生でござる。
こんなスキャンダルを静観できるほど、人間できていないのだ。
「どうって……そんなの真壁ってやつが更科希沙良に利用されてるに決まってるじゃん」
威圧感を感じるくらいの長身に、我が広島カープの有名選手を模したようなツーブロックスタイルの国分からは達観したような言葉が吐き捨てられる。
「お前はいつもどおり冷めてるんだな」
「いま聞いた限りでの当然の帰結だと思うけどな」
「もしかしたら、更科のタイプが真壁のような陰キャって可能性もあるだろ?」
国分は呆れ顔で、此れ見よがしにハァ~とため息をついてみせる。
「もうその時点で更科と真壁では圧倒的に釣り合いが取れてないことを物語ってるんだよ」
「というと?」
「だって、未知人の言葉には、更科が『選ぶ側』で真壁が『選ばれる側』であるニュアンスが含まれているだろ? 周りの人がそう感じてるんだから、当人達だって自分の立ち位置ぐらい自覚してるはずだ」
「ああ……」
「それに未知人は更科が告白にOKしている瞬間を見たわけじゃないんだろ? 更科希沙良は一人の女の子であると同時に、みんなのアイドルでもあるんだ。そんな彼女が周りの評判を度外視してその真壁って男と付き合うとは、オレには到底思えない」
国分の情報分析能力には、常々舌を巻く。
国分は、大柄な見た目とは裏腹に、冷静沈着、理路整然、いい意味で『冷たい男』というのが似合うやつだ。
俺みたいな熱血おちゃらけタイプは、物事を考えるときにどうしても私情や感情を挟んでしまうから、国分の客観的な意見は本当に参考になる。
「それに……」
「それに?」
「オレの情報網には更科に彼氏がいるという情報は引っかかっていない」
そして、国分はかなりの情報通だ。
ほら、学年に1人はいるじゃないか。
あいつは誰と付き合ってるとか、こいつは誰のことが好きとかそういう情報に詳しいやつ。
何でも知ってる国分、知らないことでも知ってる国分と言ったところか。
「さすが『情報屋』の異名は伊達じゃないな」
こうやって国分の話を聞くと、そうなのかもしれないという気持ちになってくるから不思議だ。
更科はクラスのアイドル……それは自他ともに認める事実だ。
普通に考えれば更科と真壁じゃ釣り合わない。
ということは、やっぱり真壁は更科に利用されてるだけなのか……?
「それにしても更科の人気は相変わらずだな。まあ、オレですら可愛いと思っちまうんだから、理性が欠落してる野郎どもじゃ我慢できなくなるのもわかるけどな」
「A組のグループLINEの『可愛いと思う女子人気投票』は更科の独壇場だったらしいぞ」
「『らしい』? 未知人と更科は同じクラスだろ? 何で伝聞系なんだよ」
「俺はクラスのグループLINEにも入れてもらってないからな」
「なんだよ、相変わらず『ぼっちヤンキー』やってるのかよ。さっさとその赤い髪も黒染めしちゃえばいいのによ」
国分は、ははっと渇いた声で笑う。
そう、何を隠そう俺は友達が多くない。
生まれつき髪が赤毛なこともあり、入学当初からヤンキーのレッテルを張られてしまい、思うように友達ができなかった。それに追い打ちをかけるように、1年生のときに『ある事件』を起こしてしまって、数少ない友達も離れていってしまった。
そんなわけで、いまでは俺に話しかけるやつなんてほとんどいないし、クラスでは完全に孤立してしまっていた。
そんな中でも、変わらず接してくれたのが国分だった。
「バカヤロー! これは生まれつきなんだよ! それに俺はそういう人を容姿で判断するようなのは好きじゃないんだよ! 人間大事なのは中身だからな?」
「とか言って更科に手をギュッと握られて鼻の下伸ばしてたんだろ? 安心しろ。お前みたいな赤髪ヤンキーはどんなに中身がよくても、更科のような美少女には相手にもされないから」
「あん? お前みたいな性悪計算野郎も眼中にねぇーだろうな」
「オレは性悪だから端からそんなコスパの悪そうなアイドルを狙ったりしねーんだよ」
そう言って、俺と国分が同時に笑い声をあげる。
こんな憎まれ口を叩きつつも、俺はこいつのことを信頼しているし、感謝もしている。
本当に大切な『親友』と呼べる存在だ。
「そういえば、更科の耳よりな情報があるんだがどうだ? 特別に安くしておくぞ」
国分は何かを思い出したように、少しおちゃらけた雰囲気を出しながら耳打ちしてくる。
耳よりな情報?
国分がこういう悪い顔をしているときは、それなりに有益な情報であることが多い。
更科の情報か……。
まあ、ここまできたら乗りかかった船ということで!
「ハンバーガー!」
「いや、ビックマック!」
「じゃあ、てりやきマックバーガーで!」
「OK! 乗った!」
そして、国分はもったいぶるように一瞬溜めるように息を吸うと、俺の耳元でこうつぶやく。
「実は彼女…………
『Eカップ』だ!」
この後、俺の右手が火を噴いたことは言うまでもない。
道に倒れこむ彼を尻目に、俺は駅に向かって歩き出した。
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