二章 吃音の金糸雀
プロローグ 醒めない悪夢と一縷の希望
ミナトに無理を言って鍛造してもらった因果すら断ち切ることが叶う白銀の魔剣”
幻月の刀身は、確かに縁を絶つと言う出鱈目な魔法を纏っていた。だから、当然幻月でクロの身体を切り振り抜いた時には、赤い糸を切り裂く生々しく背筋が凍る様な感触が魔剣を伝って手のひらへと届いたし、またクロと繋がっていた縁の喪失と共に、自分の歪んだ心が身勝手にも悲しみと怒りに震えていたのもひしひしと感じたものだ。
自分は、ただクロの再び空を飛びたいと言う願いの邪魔をしたくなくて、また君の翼を奪ってしまったことへの罪滅ぼしをしたくて、月でできた大切な友人の一人に法を犯させてまで手に入れた魔剣で君との縁を切った。
しかし、現実はどうだろう。
紅白一対の魔杖、もとい魔剣を携えて、今は魔法協会本部の大講堂で催される魔王討伐の決起式へと向かう道すがら、ふと懐かしい視線を感じて目線を上げた。するとその先には、一つの集団だ。魔王討伐という目的を果たすために、世界各地から集まってきた魔者たちが押し合い圧し合い歩いている。
そして、その中には、クロだ。喧嘩はおろか、他人に意見すら言うのもままならない君の姿があった。そして、確かに後方にいる自分を一点に見つめている。
けれど、もう自分たちは”関わり合うことが一生叶わない”。クロがどんな手段をもって自分と過ごした時間の記憶を守ったのかは未だにわからないが、最早どう足掻いても縁が再び繋がることがないのは確かな事実だ。だから、どんな魔法を使ったところで、金輪際君と自分は徹底的に他人でしかない。
なのに、世界はかくも素晴らしく、また残酷だった。互いに互いを認知していて、それなのに他人以上に他人な間からの自分たちは、どうしてか世界に歪な関係を強いられている。
だから、と言うのは少し違うけれど。自分は周囲の同胞より一層の気合を入れて式へと挑む。
「いよいよだ」
殺す相手を確かめる様に、魔剣の柄を指でなぞる。嫌に手に馴染むそれに恐怖と安心を同時に抱きながら、向かうはギアフロータスの中心に位置する魔法協会だ。今は味方の魔者たち、しかしいずれは敵となる魔者たちと共に、自分は確かな正義をもって協会の門をくぐった。
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