第3話 二人で出かける 前編
翌朝、眼が覚めたのは10時を少し過ぎたころだった。あくびをしながら部屋をでるとキッチンの方から何かを焼いている音と香りがしてきた。
リビングに顔を出すと彼女が笑顔で
「おはようございます。ごめんなさい。冷蔵庫勝手に開けてごはん作っちゃいました。」
とTシャツにジャージでエプロンをして盛り付けをしていた。
「お、おう。それは構わんがどうした」
「一応互いに不干渉という契約でしたが朝ごはんくらいは作ってもいいかなと。1人分も2人分も手間は変わりませんし」
「そうか。ありがとう」
と当たり前の言葉を口にしたのだが彼女は少しふくれっ面になると
「互いに不干渉といいながらこういう時は何も言わないのですね」
「もう用意ほとんど終わっているのだろ?そんな善意無下にする方が失礼だよ」
「律儀なのか真面目なのか。もうすぐできるので準備してきてください。お買い物にいくのでしょ?」
と言い少し上機嫌にお皿を並べ始めた。
ふくれたり、上機嫌になったり忙しいなと思いながら顔を洗い、外へ出る服へ着替え食卓についた。
彼女が作った朝ごはんは絶品で本当に自分の冷蔵庫にあったものでできているのかと疑うくらいの出来映えだった。
「いただきます」
そういい俺はまず味噌汁を飲むことにした。一口すすると思わず
「うまい」
とつぶやいていた。そんな様子を見ていた彼女は
「お口に合ったみたいで良かったです」
と言い食べ始めた。
お互いに大した会話はしない。ただ箸と時計の針だけが進む朝食だった。
ご飯を食べ終わると俺は自分のお皿を洗い始めた。彼女も食べ終わるとお皿を持ってきた。そのまま洗い始めようとしたので
「いいよ、それくらい。朝飯の礼だ。洗ってやる」
とだけ言った。彼女は戸惑っていたが
「ありがとうございます」
とだけ言うとおとなしく下がりリビングにある椅子に座っていた。
お皿を洗い終えると時刻は11時を過ぎていた。今日は買い物に行くと言った手前行かないわけにはいかないなと思い、そういえばあの作家さんの新しい本出ていたっけと考えながら出かける準備を始めた。
それに気づいたのか彼女が慌てて貸した部屋に戻ると着替えて出てきた。その服は昨日来ていた制服だった。
「おい、休日に制服で出かけるのか」
「だってこれしか外で着られる服ないですし」
俺は昨日の様子を思い出した。確かに何も持っていなかった。
「はあ。じゃあ何か買うか。安い服2セットで我慢しろよ」
といい目的地を近くの古着屋へ変更した。
「え?」
「制服で連れて歩くといろいろ面倒なのだよ。国家権力とか視線とか。だからお前には目立たなくなってもらう。その方がお前も人探しはしやすいだろ?」
「なるほど。わかりました」
「じゃあ、近くの古着屋に行くぞ」
と言い家を出た。そして近くの車を停めている駐車場へ向かった。
「車、持っていたのですね」
「あーこれは親のを預かっているだけな。親父が、海外に転勤が決まって持っていけないからって置いていった。ガソリン代は自分持ちだけであと他の費用は親の持ちで事故らなければ自由に使っていいって言われている。会社には社用車あるし面倒だから通勤には使っていないだけ」
「そうなのですか。でも制服の女子高生を車に乗せていたらあなたの言う面倒なことになりませんか?」
「中を見辛くしていたらすぐ近くだし大丈夫だろ」
と言い車の鍵を開けた。それ以外は何も言わず彼女も車に乗ると俺はエンジンをかけ車を走り出した。
目的地の古着屋は近くにあり、ボウリング場も入っているビル型の商業施設の中にある。1階が目的の古着屋と古本やゲームを売っているリサイクルショップ、スーパーがあり上の階にはファミレスやカラオケのある漫画喫茶もあるので、一日過ごそそうと思えば過ごせてしまう。しかし、今日は古着を買いに来ただけなので他のとこはスルーすることにする。
地下の駐車場に車を停めると二人で階段を上り、古着屋へ向かった。休日の昼前だからかまだ人はそれほど多くはないように見えた。
「ほい、着いたぞ」
と言い古着屋を指した。
「あんまりいいのはないかもだけど好きに選べ。決まったら呼んでくれ」
と言い俺は隣の古本屋へ歩き出した。
「え、選んでください。」
と彼女は顔を赤らめながら言った。
「あんまり、どんなのがいいのかわからないので見ていただけたらと」
女の子の服がどんなのがいいのかなんか俺もわからないと思った。
「なんかいいの適当に見繕ってもらえよ。店員さんに」
「え、あのちょっと」
何か言いかけていたが俺は近くにいた女性の店員に
「すみません」
と声をかけると
「こいつに似合う服、2セット見繕ってもらえませんか?」
と言った。
女性の店員は
「かしこまりました。ではこちたでサイズなどをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
と案内を始めた。
「ほら、いってこいよと」
言うと彼女の背中を押し出した。
しかし、無理矢理で店員に任せたので勝手に出ていくのは良心が咎めたので店内をぶらつき自分のものを見ることにした。そろそろ暑くなってきたので半袖の上着が欲しいと思っていたのでちょうど良いよ思ったのだ。
自分の買う服を見ながら待っていると先ほど案内を任せた店員が声をかけてきた。
「すみさせん。お連れ様が試着室でお待ちです」
「あ、わかりました。すぐ行きます。ありがとうございます」
勝手に決めてしまえばいいのにと思いながら試着室へ向かった。
「おーい、決まったか?」
と声をかけた。
「え、っと。今開けますね」
と彼女はいいカーテンを開けた。
彼女は、ボーダーのシャツにデニムの上着を着てカーキ色のスカートを履いていた。似合うとは思ったが、何かちがうとは感じた。俺は
「もっとにしてもいいのじゃね?」
と言い少し店内を見回した。
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