第2話 事情聴取
家に着いた俺は彼女を空いている部屋に案内した。
俺が住んでいる部屋は、元々はシェアハウスとして学生が使っていた。しかし、近くにあった大学が移転してしまい使う人がいなかったところを俺が少しでも安い家賃でと思い契約したところだ。入居希望者がいればいつでも良いと言っているが駅からも少し遠く30に近いおっさんが住んでいるということで、新卒で上京してくる人間からも希望者は少ないようだった。さらに、俺よりも先に入居していた人も転勤などで出て行ってしまったので、今は俺1人で全4部屋とキッチンとダイニングという広い空間を使っている。本来ならば割と高めの家賃だが、部屋の掃除などを受け持つことでシェアハウスするよりも気持ち割高くらいの家賃で契約できている。それでも相場よりは断然安いくらいだった。
「この部屋を使ってくれ。入居希望者用に見せる部屋になっているからそこまで汚くないし、1日寝泊まりするくらいの設備はそろっているから」
と言いつつ自分の部屋の向かい側にある部屋に案内した。
さすがに向かい側なら部屋に何かあってもドアの音で目覚めるだろうし、安心して眠れるだろうという配慮だった。彼女はそれを知ってか知らずか
「わかりました。ありがとうございます。では、そこに寝転んでいただいても良いですか?」
と言い出した。
俺は何をしたいのかわからず首をひねっていると
「地球では泊めてもらうときは添い寝をするという風に聞きましたので」
とまるで何を考えているのですかという顔をしていた。
俺は慌てて
「別にお前を連れてきたのはそういうことをするためじゃない。それにそんなことは一般的じゃない。あと俺らは不干渉だといっただろ」
「でも部屋に案内してくださったじゃないですか。これは不干渉には入らないのでは?」
「部屋に案内するのは責任。泊まると決めた人間がしてもらうのは当然のことだ。不干渉ではない。そこは間違えないこと!」
と言い
「責任ついでだが着替えとかあるか?」
「責任を持つことは多いのですね。着替えはありません。着てきた物、持ってきていたものは全部焼けてしまったので」
「じゃあ用意してやる。っても俺のだが。お前は風呂に入ってこい」
「それも責任ですか?」
「ああ、そうだ。泊めるやつに人間らしい生活を送らせるという責任だ」
「変な人」
彼女はそれだけ言うと
「お風呂はどこですか?」
と言った。俺は着替えなどの用意をするから待っていろといい自分の部屋へ戻った。
自分の部屋の収納を探るとちょうどよいサイズのTシャツとジャージが出てきた。そういえば下着はどうしようと思っていると先日、妹が遊びにきて置いていったやつがあることを思い出した。サイズが合わないかもだけど仕方ないと思いつつすべてをバスタオルに包んだ。
再び彼女の部屋に戻ると
「ほら、これを使って」
とだけ言い包みを渡した。彼女はその場で包みをとくと
「こんなもの持っているなんて変態ですか?」
と言った。それは妹の下着だった。
「それは俺の妹だ。前に遊びに来て忘れていったのだよ。また来るとか言っていたからその時に渡せばいいと思っておいていたのだよ」
「そうなのですか。まあ、あなたが変態でもいいのですけどね」
といい目が少しジト目になっていてそれに耐えられなかった俺は
「さあ、風呂に案内するぞ」
と部屋を出た。
そして軽くシャワーの位置や妹のシャンプーを教えた後俺はリビングでテレビをつけてくつろぐことにした。
その後、彼女が風呂を終えると俺も風呂に入ることにした。
そして風呂から上がり、リビングに行くと彼女はテレビをつけてニュースを見ていた。
その顔はテレビを楽しく見ているではなく、ただボーっとやることがなく見ているだけのように見えた。
俺はキッチンに向かうと2つしかないマグカップのうちの1つに牛乳をいれ電子レンジで暖めた。そしてもう1つにはコーヒーを淹れた。
ホットミルクが出来上がるとコーヒーと共にリビングの机に置き
「ほら、飲めよ」
と彼女にホットミルクを差し出した。そして
「不干渉と言ったがなぜあんな時間まで出歩いていたかは聞いてもいいか?もしなんかあったときのために盾にできる理由がほしい」
と言った。
ただ保身のためにお前があそこにいた理由を聞かせろ。無条件だがリスクがないわけじゃない。ただそのリスクをなくせる事実が欲しい、そう思ったのだ。
「人を捜しているのです」
「人捜しか? どんなやつを捜している?」
「わからないのです。今、どこにすんでいるのか。今、何歳なのか。名前すらも」
「どういうことだ?」
「幼いころ、仲良くしていたのですけど事情があって離れ離れになってしまって。同じくらいの年頃だったということは覚えているのですけど」
「ほかに手掛かりはないってか」
「はい……でも、大丈夫です。きっと会ったらわかるはずですから。こう運命的なもので」
「人生はそんなに甘くないぞ」
「わかっています。でもきっと見つかると私は思っています」
「そうか」
親と喧嘩しての家出とかではなさそうだな。しかし、人捜しとはこの世界で何億人、この国で1億人中の1人を捜すとなると不可能だろう。手伝うのも面倒だ。
「明日だけでもいいので手伝っていただけませんか?なんとなくですけどこの街に居る気がするのです」
「やだ、面倒くさい。それに明日はせっかくの休日だから買い物に出かけるの。 まぁ、勝手についてくるなら勝手にすればいいけど」
とだけ言いマグカップにホットミルクがないことを確認して
「もう寝ろ。明日は昼前には出るぞ」
とだけいい自分の部屋に戻った。
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