第6話 赤舌の過去

「青丹!生きてるか!!?」


急いで戻ってきたが……



「……っ!」


そんな……馬鹿な……



目の前に広がる光景……


それは、



「おいひぃ……あ、ヒーロ!これ美味しいぞー」


普通にメシ食ってやがる……


「おいおい、急いでどうしたァ?話し合いは終わったのかよォ?」


「あ、ああ…終わったっちゃあ終わったな…ところで」


「……なんだァ」


「1つ……いや、いくつか聞きたいことがある」


何かを察したのか他の妖たちと青丹は口を閉じる


「……何が聞きたいんだァ」



「お前ら……人間を恨んでるんだって?」


「……」


少しの沈黙


「…ああ、確かに恨んで〝いた〟な」


過去形……?


「今は違うぜェ?今のオレ達は人と争わねぇ。波風立てずに過ごしてるのさァ」


嘘をついているかどうかは顔がないので分からないが声色は真面目だ


「……じゃあもう1つ聞きたい」


「……」


「あんた達はなんで一緒にいるんだ?」


種族の違う妖が一緒に行動するのは珍しいからな


「……あぁ、オレ達はなァ……いや、信用を得るにはこの姿で話すのも分かりずらいだろう」


ズズズ…と赤舌の霞が薄れていき足や腕などが現れる


目元を髪で隠した舌の長い人の姿


黒い着物に黒く短めの髪、細い腕そして、でかい胸


……って


「お、女!!?」


「わあ」


「声…男だったろ……」


牛鬼が〝女衆〟と言っていた理由がこれか…


「ははァ、声は低くなったんだァ。オレたちはなァ元は普通の人間…あと犬なんだよォ」


イツキ達は頷く


「……犬神の事は聞いたことがある…けど、悪いが他の妖にそこまでの恨みがあるか?」


「そうだなァ…訳あり…だけではダメかァ」


赤舌は俯き少し考えて問う


「妖になった理由…聞きたいのかァ?」


「…妖の過去…それはとても気になる、青丹聞く、ヒーロもだろ?」


「…一応な」


その言葉を聞き赤舌は話し始める


「…あれは30年前だったか」


___


1人、村長の娘がいた


その娘名は雛、周りからは人気で美しくそして性格も良かった彼女は縁談が絶えなかった


しかし、雛には想う男がいた……


「雛!今日も面白い話があるんだ!」


その男の名は一実かずみ


一実は平民で優しく心も広い…いつも他愛もないが雛にとっては楽しい話をしてくれる。そんな一実に雛は惹かれ恋をする


「昨日野良猫が いい釣り場所を教えてくれてね」


「それ本当?凄いわ!」


「もちろん!生き物はいいよねモコモコふわふわ……」


「ふふ、明日もワタシのために来てくれる?」


「うん、もちろん 君の為に逢いに行くよ」


だがそれを許さぬ両親は縁談を組み続け最終的には断られた相手の恨みを買い雛は毒を飲まされ、一命を取りとめるが両の眼を失明する


醜くなった雛を一実だけは愛した…そして…2人は駆け落ちを決断する


…………


「……」


赤舌が少し黙る


「どうした?」


「いや、なんでもねェよォ」


…………


雛は駆け落ちするため一実の指定した場所に向かう


「はあ、はあ…一実さん……」


わたし……ワタシ逃げてきましたよ!あなたと一緒になるために……!


雨の降りしきる中駆け足で進む


雨ではない、頬に暖かいものが流れる……私は泣いている…嬉しくて嬉しくて…


いつもあなたが話していた場所を目指す


あなたは言っていた4つの家の壁を伝って細い角を曲がる…橋を渡ったらそこで落ち合おう……


この角を曲がって橋を渡ったら……


「一実さ…」



……



「愛しているよ本当に」


「うふふ…嬉しいなぁ」



……



聞こえたのは一実さんの声と…女の声……


そんな……


なんて…なんて愛おしそうに言っているの……?


今までのは嘘…??


ワタシは……騙されていたの……?


毒のように広まる疑念はワタシを黒く染めていく


うそ……嘘よ……


ふらりとよろめくと川の音が大きくなる


「あ、」



雨によってぬかるんだ泥に足を取られる…


ぐらり、体が倒れていく……落ちる、落ちる……


ドボン


ごぼごぼ…死ぬのね、あの人に恨みつらみを言うことも無く……こんな……



あーあ、呆気ない



なんて思っていると川の底で何かが光る


それは獣の目のような……


…あれ…ワタシ……なぜ見えているの??


『こんなところで死ぬのは無念だろう?オレの力をやるからオレの代わりに名を受け継いでくれェ』


オレの名はー赤舌


赤舌は少し語る、川を氾濫させたと言う罪で川底に封印されたらしい

だが…と続ける


『オレはなぁ元人柱の魂の集まりだ…すこしは恨みもあるさァ』


この……力で唯一の恨みを……


ごぼごぼっ



『一実さぁぁぁん』


黒い塊が男を襲う


「……雛……?」


ぐしゃっ


「きゃぁあああ!!!」


バリバリと男を喰らう大きな黒いモヤ……


「な、何よあんた!一体…」


「ははァ……は、あははは!!!裏切ったんだ当然の末路だろォ」


ぐしゃっ


「ぎゃっ」


目の前にいた女を潰す



ワタシヲ……オレヲ……


「結局あなたもオレを受け入れてはくれなかったってことだよなァ…!!?」


全て嘘偽り!全てはワタシの財産狙い!!そうだ!そうだ!死んで当然!!


「あははははは!!!…はは」


そこからの記憶が無い


……その日、大雨の影響か雛の住んでいた村は川に沈んだらしい

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