第5話 輪

 学校につくと、彼女は一切話しかけてこなくなった。


 こちらから話しかけようとすると、用事を思い出したように離れていってしまう。


 昼休みに呼び出して理由を聞いてみると、「付き合っていることを他の人に知られたくない」と言われた。


 彼女はクラスでもあまりいい印象を持たれていない。だから、僕も付き合っていることが知られたら、バカにされるかもしれないと怖くなった。


 学校では話しかけないようにする。


 僕はそう言い残して、教室へと戻った。



 そして6限目が終わり、帰る支度を済ませると、今度は彼女から呼び出された。


 鞄を肩に掛け、言われるがままに着いていくと、彼女は空き教室へと入っていく。僕もそれを追って薄暗い教室へと踏み込んだ。


 直後に扉が締まり、中は僕と彼女だけの空間に変わる。彼女の表情が見えないこともあって、僕の脳内をいろんな想像が目まぐるしく駆け回った。


「動かないで」


 耳に甘い吐息がかかるような距離でそう囁かれ、骨の髄までをコンクリートで固められたように動けなくなる。


 そしてクスクスという笑い声が消えると共に、僕の唇に今まで感じたことの無い幸福感が伝わってきた。


 僕はそれを拒もうとはしなかった。

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