第2話 女

 別に好きな顔じゃない。嫌いでもない。


 今までに彼女の顔をしっかりと見たことがなかった僕が、最初に浮かべた感想がそれだった。


 クラスの中でも目立たない方で友達も少なく、いつも隅のほうにいる内気な子。


 ずっとそう思っていたから、そのどこにでも居そうな普通の顔を見て、『やっぱり』と心のどこかでため息をついた。


 ただ、内気という部分だけは違っていたらしい。


「一緒に帰りましょう」


 そう言って僕の手をとった彼女に、いつもの大人しさはどこに行ったのかと聞くことは出来なかった。


 聞いたことで嫌がられたりするのが怖かったわけじゃない。


 好きでも嫌いでもない彼女にどう思われようと僕にとってそれは、見ず知らずの人が野口を河川に落とすのと同じくらい興味がなかった。


 ただ、自分とはどこか違うその手のひらの感触を、手放したくないと思ったからだ。


 自分とは違うその香りを、ずっと嗅いでいたいと思ったからだ。

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