第2話 ここからまた歩み始める
僕の名前はユキムラ=アカイシ。
レイという青年に助けてもらってから数ヶ月くらいたった。
あの日から仲間作りを始めた僕は沢山の仲間に恵まれることができた。
ちなみにレイとはあれから1度も会っていない。
仲間が増えてからというもの僕の能力は更に上がり誰も手がつけられない状態になった。
あの『立ち入り禁止』の向こう側で出会った魔物のランクはAよりも上のもの。
所謂A+ランクの魔物だった。
しかし、仲間のサポート、僕の能力の成長によってA+ランクの魔物を倒すことができ、世の中の名声を欲しいままにしていた。
ギルドに聞いた話によると普通の冒険者にはAランクまでの魔物しか伝えられていないということがわかった。
実は魔物の最上級ランクはSランクのようだ。
かつて1度町が滅びたことがあるのだが、その時に襲ってきたのがSランクの魔物だった。
僕はそのSランクを倒すことを目標としていた。
そして、時間が経った日のこと……
「「弱いくせに調子に乗るなよ」」
「「早く次の就職先見つけろよ、落ちた英雄さん」」
市民からひどい罵倒を受けるようになっていた。
(はぁ、俺はこの先どうすればいいんだよ)
僕は徐々に最強を誇っていた能力を失い、冒険者のなかで最弱となっていた。
弱くなった僕は町を魔物から守ることが出来なかった。
そのお陰で今まで仲間についてくれていた者や町のみんなから罵倒を受けるようになったのだ。
そのせいで今は仲間は誰もいない。
僕はまた、1人となった。
望んでいない形で……
僕は今、冒険者として能力が足りないため田舎で農作業をして生計を立てていた。
「そっちの実はもう切り取っていいぞ」
「はい、わかりました」
僕は冒険者業を辞めた。
農作業をしながらのんびりと暮らす生活もそれはそれで楽しいものだ。
この村には僕を育ててくれた爺さんが隠居生活をするため移り住んでおり、お世話になることができた。
異世界へと来て調子に乗っていた頃と比べたら今の方が大分ましである。
(異世界へ来て、この世界で1番になるつもりだったけどこのまま人生を終えるのも悪くないな)
そう思っていた矢先、この村にとある人が訪ねてきた。
「すみません、この村にユキムラさんという方はいらっしゃいますか?」
(またか……)
僕が冒険者業を引退してから興味本位で見に来る人、罵倒しに来る人など訪ねて来る人がいた。
(また、過去の『英雄』とか言って揶揄いにきたのか)
しかし、今回訪ねてきた人は少し違った。
「すみませーん、ユキムラさんはいますか?」
見かねた村長が応対する為に出て行った。
僕は家の中からその様子を見る。
訪ねて来たのはまだ若い女の子のようだ。
髪色は赤みががっていて、すらっとした体型である。
腰には剣が2本拵えられている。
「すみませんが、ユキムラという者はこの村にはおりません」
村長は僕の気持ちを察して誤魔化している。
しかし、その女の子は引き下がらなかった。
「いえ、ここにいるのは知っているんです。私はもう1度戦って貰いたくてここに来ました」
女の子は揶揄いに来たのではなく、どうやら冒険者業に僕を戻す為に来たようだ。
「過去の『英雄』と言われているユキムラさんは確かに能力が落ち、町を救うことができませんでした。でも、町なんて他の人も救えなかった。あの時、1番強かったユキムラさんが負けたから責任を押し付けただけなんです」
女の子は僕を説得する為、1人で話し続けた。僕は今までとは違うと思いながらもまだ、女の子の前に出ることはできなかった。
「ユキムラさんの力はもう証明済です。少なくとも私は今でもユキムラさんが1番だと思っています。だから、もう1度戻って欲しいんです」
誰かにこんなにも期待されたのは久しぶりだった。
気づいたら僕は女の子の前に立っていた。
「ユキムラくん、いいのかね」
村長が心配した声で僕に話しかけた。
「はい、大丈夫です。ちょっと話してみたいので」
僕は、村長を説得して訪ねてきた女の子と直接話をすることにした。
「まず、君は誰なの?あと、目的はなに?」
僕は唐突なこととは知っていながらも僕を訪ねてきた理由を聞いた。
「はい、私はメロ=クラウドです。ユキムラさん、私ともう1度一緒に魔物を倒しに行きませんか」
僕は嬉しい気持ちと揶揄われているような気持ちの両方を感じた。
「なんで今更僕を誘いにきたんだ。俺は最弱の冒険者だよ。もっと違う人を誘った方がいいんじゃないの?」
僕は今更誘いにきた意味がわからず、彼女に断りのニュアンスを匂わせた。
「ユキムラさん、私はあなたならもう1度この世界を救うことができるくらいの力を取り戻すことができると思います。私は知っています。仲間を作った頃のユキムラさんの強さを。そして、弱くなっていくことを自覚しながらも町を救おうとしたユキムラさんの心の強さを」
彼女の言葉に僕は心を揺さぶられた。この時の彼女の言葉はこれから僕の心の支えとなった。
僕はもう1度、爺さんの為、支えてくれたこと村の人たちの為、ずっと慕ってくれていた彼女の為、冒険者に戻ることにした。
「今の僕に何ができるかはわからないけど、それでもいいんだな。もしかしたらお前の足手まといになるかもしれないぞ」
それでも彼女は笑顔で僕に語りかけた。
「はい、もちろん大丈夫です。ユキムラさんが良いんです。あと、お前じゃないです。私のことはメロと呼んでください」
僕は彼女とこれから共に歩んでいく。これから、この世界を救うまでの物語が、かつての『英雄』がもう1度、『英雄』になる物語はここから始まった。
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