1人では最強を誇っていた僕が協力を覚えたら能力が壊れました

玖万里空

第1話 僕、旅立ちから改める

あれからもう10年は経った。

 当時高校3年生だった僕の生活は平凡だった。

 身長と体重は平均、彼女もいないし友達もそれほど多くない。

 部活はバスケをしていたが、特に上手くもなかったので試合に出たり出なかったりした。

 勉強成績は学年の真ん中で何かに秀でているということもなかった。

 唯一僕が楽しみにしていたことといえば、いつも一緒にいる2人の親友との会話かな。


 「今日は部活休みだろ。ゲーセンに新機種が入ったんだって。行こうぜ」


 少し身長が高いのが特徴の生徒が僕に話しかけてきた。その横には暗い印象のある生徒もいる。

 いつも一緒にいる榊と熊耳だ。

 俺を含めたこの3人でいつも過ごしている。


 「そうだな。いいよ、行こうぜ」


 3人でゲームセンターに向かっている途中、熊耳が突然可笑しなことを言い出した。


 「異世界ってあるらしいよ」


 僕と榊は互いに顔を見合わせて大笑いした。


 「「そんなわけねーだろ」」


 その時は僕も面白がって聞いていたけど、自分がその異世界に飛ばされることになるなんて今は知りもしなかった。


 「じゃあ、今日はこれで。また明日な」


 「またね」


 榊と熊耳と結局3時間くらい遊んで解散になった。


 「また明日学校で」


 僕も別れの挨拶を済まし家へ帰ることにした。

 いつも通りの道は少し遅いから今日は近道を使うことにした。

 家へ帰っている途中、穴の中に落ちたのか?突然目の前が真っ暗になった。


 (えっ!?今どこにいるんだ?)


 僕はそのまま意識を失った。

 意識を失う直前、走馬灯のように今までの記憶が流れてきた。

 特に何もなかった人生。

 平凡に過ごした日常の風景

 そして、親友との思い出。


 (あぁ、死ぬのかな)




 気づくとそこは今まで見たこともないような場所だった。

 絵本に描いたような草原地帯。

 向こうのほうに見える家々はロッジのような造りをしている。

 そして目の前には魔物。


 (魔物!?)


 僕は驚きと同時に死ぬことを覚悟した。

 1度死の恐怖は味わっているけれど、死の恐怖は何度経験しても慣れなかった。

 魔物がこちらに向かって攻めてきた。


 (死ぬっ…)


 その時、目の前で何かが切れる音がした。

 恐れから目を瞑っていた僕が恐る恐る目を開けるとそこには、真っ二つに切れた魔物がいた。

 殺したのは僕の目の前で剣を持っていたこの爺さんであった。


 「助けていただきありがとうございます」


 僕は助けてもらった命の恩人に感謝を込めてお礼をした。

 物腰が柔らかそうな雰囲気があり、落ちつく暖かい口調で爺さんは僕に話しかけてきた。


 「困った時はお互い様じゃ。気になさらんな」


続けて爺さんが僕に質問をしてきた。


 「ところでお主、その服装はここのものではないように見受けられるが、どこから来たんじゃ?」


 僕は深呼吸をして冷静さを取り戻してから質問に答えた。


 「実は僕もここがどこかわからないんです。気がついたらここで目を覚ましました」


 僕の返答に爺さんは驚きつつも冷静さは欠けていなかった。


 「お主、もしやここの世界のやつではないな」


 ここで僕は初めて異世界に来てしまったことを知った。


 「まぁ良い。今はそれより休んだ方が良い。家が近くにあるからついてくるんじゃ」


 こうして僕の異世界生活は始まった。



 その後、5年間は僕を助けてくれた爺さんの家でお世話となった。

 その時、この世界で使えるという魔法、魔物を倒すための訓練を受けた。

 幸い僕には才能があったので、魔力に関してはトップレベルの技まで使いこなせた。

 僕は、主に闇属性に分類されるようだが、全属性を使いこなせたのであまり気にはしていない。

 ちなみに、この世界には火、水、地、風、雷、光、闇の7つの属性に分類される。

 僕みたいに全属性使いこなせるような者は稀有である。

 そして、僕は爺さんの家を出て旅に出ることにした。

 爺さんに恩返しをすること、この世界をもっと知りたいという2つの目的を持って旅を始めた。

 最初は初旅ということで、苦戦することも多くあったが、慣れたしまえば楽勝だった。

 さまざまな魔物を倒し、Aランクの魔物まで倒せるようになった。

 この世界には魔物ランクがあり、A〜Gまでわかられている。

 ランクによって報奨金も変わるため、Aランクを倒そうとする愚か者が多いが、Aランクの魔物を倒せるのはごく少数である。

 そして、半年に1回行われるコロシアム戦では負け無しの6大会連続優勝。

 もう、僕の敵になるような奴らはいなかった。


 (あぁ、つまんねーな。この世界楽勝じゃん)


 僕は正直舐めていた。

 戦えば全戦全勝なのだから、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。

 そんな日々を過ごしていて昨年、僕にとって重大な転機が訪れた。

 いつものように魔物狩りに行っていた僕は、調子に乗って『立ち入り禁止』の看板がある道に入った。

 旅を始めて最初、ギルドの人から


「『立ち入り禁止』と書いてある道に遭遇したらすぐに引き返してください」


 というような忠告を受けていた。


 ギルドというなら旅仲間はいないのか、という疑問が思い浮かぶ。

 でも、僕は1人でも強かったから特に仲間を作ろうとは思わなかった。


 (誘いはたくさんあったけど面倒だからね)


 僕は忠告を無視して『立ち入り禁止』の内側に入ることにした。

 魔物をどんどん倒していく。


 (余裕すぎるでしょ。『立ち入り禁止』なんて馬鹿馬鹿しい)


 そう思いながら奥に進むと今までに見たこともない魔物と遭遇した。


 (うん?初めて見る奴だな。まぁ大丈夫でしょ)


 「グサッ!」


 一瞬だった。

 僕のお腹から血が垂れている。

 僕は傷を負いながら急いで逃げた。

 しかし、魔物が襲ってくる。

 ようやく『立ち入り禁止』の看板があったところまで戻ってきたが、まだ襲ってくる。


 (やばい、このままでは僕も死んでしまうし町にも被害が出る)


 僕はもう1度戦うことにした。

 でも、策がないからこのままだとやられてしまう。

 だが、その時


 「ピカーッ!」


 「おい、こっちに来い」


 今の光で魔物は驚き引き返していった。

 だけど、今の光は一体誰が?


 「おい、お前なんでここにいるんだよ」


 どうやら僕を助けてくれたのは爽やかそうな青年のようだ。


 「いや、少し気になって」


 「ギルドで説明を受けただろ。だから言わんこっちゃない」


 僕の顔を見て呆れた口調でそう言った。


 「とりあえず、助けてくれてありがとう。君の名前は?」


 「俺か?俺はレイだ。レイ=アレクシス」


 僕は魔法を覚えてから初めて人に助けてもらった。

 この事件をきっかけにして僕の中で考えが変わった。


 (これから先の旅は仲間を作っていかなければ厳しいかもしれない)


 この時はまだ知らなかった。

 仲間を作ることによって僕の能力に変化が訪れるということを。

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