第2話 「崩落」

「待て...なんだよ...これ...」

目の前に広がる火の海。

燃え盛る火炎の渦が、叫び声を唸らせる。

「サルト!無事かっ...」

数m離れたところからアルスが這い上がってきた。


「アルス...ってその傷は...」

「くそ...さっきの爆風で6mは飛ばされたぞ...なんってことだ...」

見れば、火の手が上がっている場所には爆撃機の残骸が煙を上げていた。

理解できたのはそれだけであった。



「!サルトとアルスか...良かった、無事だったんだな」

「上官...これは一体...」

上官と100にも満たない兵士たち。

しかしその半数が先程の爆撃により怪我を負っていた。

「どういうことですか・・・?」

上空を飛び回るミクロシアの戦闘機。


「どうだろうな...あいつらは死物狂いで領土を奪うつもりらしい。恐らくだがあの戦闘機は、ファーガスから飛んできたことに間違いはない。・・・行き先でミクロシアの戦闘機に撃墜され、この本部まで特攻してきた...と考えるしかないだろう」


命を賭けた戦争、勝たなければ、生きてはいけない。

「っ...あの突っ込んだところには確か司令官が...!?」

「...」

数秒間の沈黙があった。

銃声と爆音だけが響き渡る戦地。

最悪の状況と化しているのはどうやらミクロシアのほうだったようだ。


「まさか...この100あるかないかの兵力でここを死守しろと...?」

「...ということだ。援軍もまだ到着するには時間がかかる。」


兵力が100あろうと、半数は怪我を負った兵士だ。サルトとアルスも例外ではない。

中には片腕を失い、銃を握れるかすら怪しい兵士もいた。

「撤退」の文字をよぎることはなかった。

それが兵士たるものの考え、生き様である。


国の為に戦い、国の為に死のう。

誰もがそう思ったことだ。

今や考えられないことではあるが、当時はそれが「普通」であったのだ。

ここを守らなければ、故郷が敵の手に脅かされてしまう。

「幸いにも前線は我軍が俄然、優勢のまま進んでいるようだ」


戦闘機の援護もあってか、戦況は有利。しかし状況として総崩れだ。

戦いの要である司令塔は殉職し、兵力も大多数があの特効により失われた。


「この防衛砦は死守しなければならない。すまないが...その時が来れば、覚悟を決めてくれ。我が国"ミクロシア"の為に」


「はっ!!」

全員が敬礼をした。

迷いも、悲しみも、恐怖もなかった。


「なあ、アルス」

「どうしたサルト」

「26年間生きてきて思ったこと有るんだけど」

「俺、今最高に昂ってるかもしれない」

「は?ついに気が狂ったか...」

「分からね...けど...なんか変な気分だ」

「...奇遇だな。俺もだ」


その時、上空を戦闘機が数機飛び去っていった

「!あれは...」

ミクロシア最大にして世界最強の戦闘機「スフィア」だ。

航続力は2800kmを誇り、ファーガスの戦闘機の大凡2.5倍、天空で戦うことが出来る。


相手も「気付いたら背後に居た」と言わざるを得ないだろう。

ミクロシアが長年かけ作り出した最強兵器であり、ミクロシアが世界有数の軍事大国になった一因でもある。

優れた運動性能、世界トップの航続力、更には旋回スピードも相まっている。


ファーガス側も数機、戦闘機を送り込んでいたようだが、まさに「神速」といわれる速さで撃墜されていった。

墜落した戦闘機はファーガス陸軍に落下していき、大損害を出した。

更に爆弾を投下することにより、ファーガスにさらなる被害を被らせた。


従来の戦闘機であれば、爆弾を積めば積むほど持続力は乏しくなる。

敵地に爆弾を投下することはできても、そのまま空中で戦い続けることは不可能に近いことだったのだ。

しかしミクロシアのスフィアはその概念すら覆してしまった。圧倒的な航続力、スピード。世界を凌駕する史上最強兵器が、ファーガス軍を血の海に変えてしまった。

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