第8話 急すぎる急展開!

『さあ! この3人の中からあなた・・・のお嫁さん候補を選びましょう♪』


『須藤天音』キミのこと……もっと好きになってもいいかな?

『須藤葵』お兄さまの赤ちゃん欲しいなぁ……

『静音』アナタ様のお傍にずっといたい……



 おいおい、いきなりこの選択肢はないんじゃないか? だってよまだ出会ってから24時間も経ってないんだぜ。オレは誰を選ぶか腕を組み、考えあぐねていた。


「(うーん……)」


 そしてオレは彼女たちをちらっとガン見し、頭の中で彼女たちの事を知っている限り整理しようと思う。


須藤天音すどうあまね

 須藤グループの長女にして次期当主後継者候補。本作のメインヒロイン・・・・・・・であり真紅の赤く長い髪が特徴で、胸も95cmと大きく、文武両道にけ言うことがない。性格はやや傲慢だが、デレ期に入れば素直でカワイイ、ある意味完璧お嬢様だ。資産もあの須藤グループ《100兆円規模》の後継者ならば、もはや語ることはないだろう。それに彼女と一緒にいれば楽しいことはまず間違いない。


須藤葵すどうあおい

 須藤グループの次女にして天音の双子の妹・・・・。またオレの義理の妹(予定)だ。

 かなりの恥ずかしがり屋さんだが、慎ましくお嫁さんにした娘No.1の大和撫子系美少女だ。容姿はさすが双子・・だけあって天音に引けをとらない。胸も大きく、髪も白色だが長く美しい。ただちょっとヤンデレ風味があるのがやや難点。だがそれも逆を言えば、それだけオレに好意を寄せてくれてるということだ。ならば短所ではなく、そこも魅力の1つだろう。


静音しずねさん』

 天音と葵ちゃん、二人のお嬢様のお世話係のメイドさん。何よりオレにとってのトラブルメーカーの元締め。胸はその……見ているだけで悲しくなるほどにあまり大きくないが、艶やかな黒髪ロングの美少女だ。それもメインヒロインクラス級の、だ。もし天音や葵ちゃんがいなければ、間違いなくこの作品のメインを張るのは彼女だ。しかも黒いメイド服がまた似合い、これぞまさに『THEメイド!』って感じがする。


 それにさっきの甘い囁き誘惑は本気でドキドキした。もしかして、あれが彼女の素なのかもしれないな。こんなメイドさんに夜のにゃんにゃんタイムで『ご主人様(ハート)』と呼ばれた日にゃ~(照)


「(こ、こんなの選べるわきゃねぇよ……)」


 少しでも長い時間を共有すれば、同じ価値観や相手の性格なども解かるだろうが、まだ入学初日の放課後なのだ。圧倒的に相手の知る時間も、また情報も足りなかった。そして答えに困り、オレはコントローラーさんにあえてシカトをお願いすることにした。

『ただいま入力を認証中でございます。暫らくの間そのままでお待ちください……』と、機械音とも思える無機質なコントローラーさんの声が聞こえたような気がした。


『ブー……残念ながらその入力コマンドは認証エラーとなりました!! ってかオマエもおとこだろうがっ! いつまでかかってやがんだ? ああん!? ちっ……10秒以内にささっさと決めやがれよ! じゃないとこっちで勝手に決めちまうからな! 10・9・8……』


 えっ? えっ? あれあれ??? オレのコマンド入力はどうなった!?!? ……ちなみにそれは何のカウントが始まってんのさ!?


『全員を嫁にする』ハーレムルート(全員妊娠)へ

『全員をこの場で押し倒す』警察とお友達(犯罪者)エンドへ

『答えを保留し、とりあえずこの場は逃げ出す』その場しのぎ ※絶対にオススメしません


『認証途中に別のコマンドを入力されましたので、今回はキャンセルさせたいだきます。なおご返金・クーリングオフ・返品など、それに順ずるクレーム対応はできかねますので……お客様のまたのご利用を心よりお待ちしております(ぺこりっ)』

『だが、オレのコントローラーさんに対する願いは説明役ナレーションのお姉さんによって消失レジストさせてしまったようだ!』


 まてまてまて! 何か説明役ナレーションのお姉さんが暴走してんぞ!? 大体オレじゃなくてそっち・・・で選択肢決めるってなんだよ!? こっちは人生かかってんだぞ。あと選択肢の設問を勝手に変えんなや!(怒)


『ちっわーったよ。しゃーねーからほら続けてやるよ。ほら、3・2……』


 わー説明役ナレーションのお姉さんやつ、7~4まで数えるのすっ飛ばしやがったぞ!? 気短すぎんだろうがっ!?


『1……ぜ…』


「(と、とにかくどれか選ばねば!? 読者のみんな…どれかしら選んでくれ!!)」


 オレが読者の方に心の中で呼びかけた、まさにそのとき……


「おいおい、どこのどいつが学校の玄関で騒いでんだ? ったく教頭に怒られるこっちの身にもなれってんだ! っとと、わりぃな!」


 ドン! と後ろからビッチさんがオレの背中にぶつかってきたのだ。その衝撃で何かの選択肢を選んでしまった!


「『あっ!?』」


 その瞬間、オレと説明役のお姉さんの声が重なった。そのときのシンクロ率と言ったら、もはや政治と金くらいの癒着関係に等しかった。


 『全員を嫁にする』ハーレムルート《全員妊娠》へ

 『全員をこの場で押し倒す』警察犯罪者エンドへ 

→『答えを保留し、とりあえずこの場は逃げ出す』その場しのぎ ※絶対にオススメしません


『その選択肢を認証いたしました。今後は早く決めやがれよ! (ちっ……この優柔不断の甲斐性なしが! ぺっ)』


 そんなコントローラーさんの無機質な声がオレの耳に届いた気がした。何かさ…こ、小声で聞こえたのはオレの空耳クオリティなんだよね?

 

 そしてオレは即座にその選択肢の行動を強制的に移されてしまう。


「ご、ごめん! オレ何か用事できたから急いで帰るわ! じゃあ、また明日なっ!!」

「「「ああっ!?」」」


 オレはこの場から……逃げ出した。そんないきなりの行動に天音たちも対応できなかった。


「こらキミ! 私たちを置いてどこに行くつも……」

「お兄さま! 葵も一緒に連れ……」

「ご、ご主人様! お待ちくださ……」


 各々何かを叫んでいたが、逃げ出したオレの耳には何も届かない。そうしてなんとか脱出し校舎の外に出た瞬間、オレは走るのをやめたさすがにここまで来ればいくらアイツらでも追っては来ないだろう。だが、本当にあの選択肢でよかったのだろうか?


 今更後悔しても、もう遅いが自分で選んだんじゃ仕方ない……いやビッチさんがオレの背中を押して選んだのか。


「3人とも怒ってるだろうなぁ~。なんせ告白されて逃げ出したんだもんなオレは。アイツらもオレのことを酷いヤツだって思ってるだろうなぁ~」


 選んだ選択肢は自分の意思とは関係なかったが、だからと言ってビッチさんを責めるのは間違ってる。また選択を急かした説明役のお姉さんを責めることもできない。なんせコントローラーさんに『入力なしのコマンド《シカト》』を頼んだし、いつまでも決められないオレに1番の責任があるのだから余計にだ。


「よし……明日3人に会ったら、ちゃんと謝らないといけないな!」


 オレはそんなことを考えながら、急ぎ家路とついた。


 家に着いたのはまだ5時前だったが、1日の疲労からか夕飯を食べることも忘れ制服を着たまま、ベットへばふっ♪ っと良い音を立ててダイブした。


「あ~母親がいなくて助かったぁ~……」


 家に母親がいれば「制服を着たまま眠るな!」な~んて怒られるが、今は親父の海外出張に付き合い、マレーシアに行っている。出かける間際に仕事ではなく「新婚旅行に行って来る」と聞こえたのはたぶんオレの空耳クオリティの成せる技だろう。

 そもそも今更新婚旅行なんて年でもないしな。でもよ、もし帰ってきた母親のお腹が大きくなって帰ってきたら……いやいや、それはある意味ホラーゲームよりもホラーな出来事だわ。……この事について考えるのはもうよそう。


「あ~疲れたぁ。人生で1番疲れた日やもしれん」


 オレにとって今日1日の出来事は、ネズミーラントのジェットコースターよりも、過激で過分な刺激だったに違いない。なんせ自他認める『普通オブ普通』のこのオレにいきなり『婚約者フィアンセ』『義理の妹(予定)』そしてオマケに『メイド』とエロゲー主人公顔負けの属性が付き、しかも全員アニメやゲームに出てくるメインヒロイン……いや、それ以上にカワイイ美少女たちがオレの子供を欲しがったのだから。


「ちょっとだけ。惜しいことしたかな……」


 こんなことはもう一生に一回あるかないかの出来事だったのかもしれない。オレは今更ながらにとても激しく後悔した。


「あ~も~うっ! とにかく考えるのは明日にしてもう寝るぞ!!」


 オレは考えること自体を放棄した。


「……ね、眠れん」


 スマホの時計を見ると、まだ夕方の6時くらいである。いつもなら夜中の2時くらいまでは起きている習慣だから、眠れないのも仕方ない。体(主に精神面)は酷く疲れていたが、その分だけ頭はよく冴えていて眠れないのだ。

 やっぱり今日の出来事が原因なのだろう。数時間経った今も胸のドキドキが収まっていない。正直今まで恋人どころか、女子とまともに喋ったのは……幼稚園だっただろうか?


「(これは嫌な思い出だわ。もう思い出すのはよそうな、なんかすっごく悲しくなって涙が溢れ出しちまうからな……)」


 そんなオレにいきなり3人のお嫁さん候補が出来たのだ。しかも全員オレの子供を欲しているオマケ付き。こんな気持ちで眠れるわけねぇよ。オレは眠れず、手を頭の後ろに組み、今日1日あった出来事を思い返していた。


「…………」


 確かに朝から色々と騒がしく、怒ったり叫んだり……っと、今日1日だけでも色々な出来事があった。まぁ一言で言うならば……『楽しかった』だよな。天音ではないが、オレもこんなに楽しい1日は人生で初めての体験だったのだ。


「ふふっ……」


 天音や葵ちゃん、静音さんとのやり取りを思い出し、オレは自然と笑ってしまう。


「こんな非日常な日々が卒業まで、ずーっと続くのかなぁ~?」


 オレは眠れずそんなことな未来のことを考えてしまう。


 しかも今日はまだ入学初日である。つまりは高校生活の1日目。1年は365日。それを3年間分。要はトータルで1095日間分、今日と同じ出来事があるかもしれない。まぁもちろん土日の休みや夏休みなどの大型連休などには会えないだろう。だが、アイツらのことだ。いつ何時いきなりオレの家に押しかけてきても何ら不思議ではないのだ。


 もしかすると今夜にでも夜襲をかけてくるやもしれないしな! ……いやいや待てよ! こんなことを言ってるとフラグ(きっかけ)になり、オレの癒やしのオアシスマイ・ハウスまで侵されかねないぞ! そ、それだけはなんとしても避けねばならない。


「ふぁあぁ~……な~んか、色々考えてたら眠くなってきたぞ。おやすみ~♪」


 オレは誰にともなくおやすみのあいさつをすると、頭まで毛布を被ってしまう。


 そして今日の今日まで、生まれてこの方『日常にちじょうという名のふつう』に愛され続けてきたオレは「こんなに楽しい非日常な日々が明日からもずーっと続けばいいなぁ~♪」などと暢気に夢の中・・・で思いながら、いつの間にか深い眠りについてしまったのだ……。



・・・・・

・・・・

・・・

・・



「思った! 思った!! 昨日そんなことを思ったオレは馬鹿野郎なのかよっ!」


 もうこの第8話も中盤だが、今から今回のあらすじを紹介すんぜ!


 何かよ、目の前にRPGに出てきそうな洋風のお城が建ってんだわ。あっいや「それは確かあらすじに~」とか言ってバックログしなくていいからな! お前たち読者にはバックログが存在するだろうけどな、物語に住む・・・・・主人公のオレにはセーブもロードもバックログも選択肢すら存在しないんだぞ!! ……あっいや、ごめん。唯一選択肢だけはあったんだわ。「いきなりの急展開で、どした?」と疑問に思ってる読者の方もいることだろうから、今朝から今のこの状況に至るまでをだな、オレも確認する意味で簡単に説明してみるから覚悟しておけ。


 オレは朝目覚めると身支度をし、眠気を押し殺しながら欠伸をしながらも「あぁ~今日もアイツらと楽しくともまた、はた迷惑な1日が始まるのか~」っとやや憂鬱ゆううつな気持ちを抱きつつも、若干心踊りながら通学路をダンシングしながらフェンシングして学校まで来んだわ。


 ここまではOKだよな? そして学校の門まで着いて一歩踏み出しその門を潜ると、なんとそこには……本来あるべきいわゆる和風の校舎が存在していた! ……はずもなくまるで『RPGに出てきそうなお城』が建っていたのだった!


 ……あっ、ごめん。何かあらすじの方が1行ほど長いみたいだわ。


「で、だ。今現在のこの状況に至るわけなのだが……あ~なんだろうねぇ~? もしかして、これもアイツらの仕業なのか?」


 いくらアイツらでもそこらの和風の3階建ての校舎を、こんなRPGに出てきそうな洋風なお城にはしないよね? 普通ならさ。まぁ「絶対にしません!」と100%言い切れなのが、アイツらのアイツらだからの由縁だわ。むしろ須藤グループの次期当主の力を使えば、国の1つや2つは簡単に買えるくらいの資産を持ってるいやがるからなぁ。だから今更「私たちがやりました!」とアイツらが言っても、オレはもう驚かないぜ!


「それにしても……これは『ホンモノのお城』なんだよな?」


 オレはいかにもな・・・・・木で作られた洋風の立派なつり橋を渡ると、存在感満載の大きな城の門の前まで歩いて行く。橋の下にはちゃんと川が流れており、これだけでも異世界ファンタジーモノ、ひいてはRPGっぽい感じが漂っていた。


「いやいや、アイツらこれは凝りすぎじゃねぇか? 大体学校の敷地内に城だけでなく、橋と川まで作っちゃってさ。ほんとやることが馬鹿すぎんだろうが(笑)」


 その妥協なき半端ないクオリティに対し、オレはただ笑うことしかできなかったのだ。


「もしかしてこの城の壁も………って、これも本物・・だしさ(笑)」


 コンコン……俺はと強度を確かめるようにノック調に壁を叩き、その反響音と重量から本物であると確信した。お城の外壁は張りぼてではなく、ちゃんとしたレンガ作りの頑丈な外壁である。これならば、仮に敵が攻めてきたとしても容易には突破できないだろう。


「あははっ、アイツらどんだけ金かけてんだよ? まったくよぉ~(笑)」

(こりゃ金かかってるわ~、もしかしてまた静音さんの新しい策略か何かか?)


 オレがそんなことを思いながら外壁をペタペタと、どこぞの神さまっぽい足音チックに外壁を触りまくっていると、


「んっ? おいそこのオマエ!! 一体そんなところで何をしてるだ? 壁なんぞ触りおって!」


 ペタペタ♪ と興味津々にお城の外壁を触りながら、へらへらっと笑ってるオレに対し後ろからそう声がかけられた。


「へっ? あ、ああ……オレですか?」


 オレは他に誰かいるかと思い、辺りを振り返ったが生憎とオレ以外に人はいないようだ。


「オマエ以外に誰もいないだろうが! オマエふざけているのか!?」


 オレに最初に話かけてきた門番のその隣いたもう一人の門番がオレの態度に対して、今まさに激おこぷんぷん丸状態らしい。確かにもう登校時間も過ぎててもおかしくない時間帯なのに、生徒の姿は1人も見えない。


 この場にいるのはオレと、いかにもな槍の武器を持った「お城の門番です!」って感じの兵士の格好をしたおじさんが二人いるだけである。


「おいオマエ……このエルドナルド城に何か用なのか?」

「えっ? える・・……なんですって? (笑) ぷっ、あ、アヒルさんの親戚か何かですか?(笑)」


 オレは某アヒルっぽいこの城の名前に笑わずにはいられなかった。何アイツら門番のおっさんらエキストラさんだけじゃなく、学校名まで変えてんの? おいおいここ『国立の高校』なんだぜ。しかもなんだよ『える~なんとか城』って、超ドキュンな名前を学校に付けてんじゃねぇよw 今流行の中二病かっての(笑) きっと名前付けたのあのクソメイドだろうなぁ。あの人パッと見、中二病っぽいし(笑)


「(やっべ、今日は特に楽しそうな1日が始まりそうな予感するわ(笑) さながら今日の出来事は、学校自体が異世界ファンタジーの世界に迷い込んで、『RPGごっこ』でもするのかと思うとちょっとだけ心躍るわな)」


 オレはまるでアニメやゲームの主人公にでもなったように、ハシャギ嬉しくなってしまっていた。


「(オイ コイツは何いってるんだ? ……何か怪しくないか?)」

「(ああそうだな……も見たことのない変わったモノだしな)」


 門番のおじさん二人がひそひそと何か話してる。……どうやら2人はオレのことを話しているようだ。


「(にしても臨時のエキストラさんでもすっごく雰囲気出てるぁ~。ほんと『実写版RPG』にいてもおかしくないもん! よ~し、どうせだったらここはオレもそのノリ・・に乗っかるか♪)」


 オレは意を決し、与えられたであろう役をこなそうと画策する。


『門番に対し、なんと応えますか? 選択肢からお選びくださいませ♪』


『あっ、通りすがりの怪しいモノですけど……』ただいま怪しさ120%祭り

『いえ、ただの学生です……』まったく面白味がない

『オレが勇者様だ!』イケる♪ イケる♪ ←煽り


「(ふむ。オレはこの物語の主人公なんだから……やっぱりここで名乗るとするなら『勇者様』がセオリーだよな? もはやテンプレートで出がらし状態だとは思うが、そこがイイ! 『読者のみんなもそれでいいよな?』だが、嫌とは言わせないぜ! なんせオレは主人公なんだもん♪ それにさ、1度でいいからRPGに出てくる『勇者役』をやってみたかったんだよなぁ~♪)」


 オレは勝手に自己完結し、自らの役柄を『勇者』と名乗ることにした。そしてちゃんと声通るように、軽く咳払いをして息を整え、こう声高らかに宣言した!


「(んっんっ)っと。いえいえ、オレは決して怪しいモノではありませんよ。何を隠そう……なんとオレは『勇者様』なのです!(ドヤッ)」

「…………」

「…………」

(あれ? あれれ? 盛大に外したか? 何か門番のおじさんたちが何も応えねぇんだけどさ。やっべ外したとか恥ずかしすぎわ。きっと葵ちゃんがその辺の壁あたりに隠れてて、ハンディカメラで今のこれ撮ってたんだろうな。……ぜ、絶対笑いモノにされるわ! と、とりあえず気を取り直して、もっかいだけ言っておくかな?)


「あっ、え~っと聞こえませんでしたか? (すぅ~はぁ~)お、オレは何をかくそう、この世界の『勇者さ……」

「……オマエ……それだろ?」

「ま……えっ!?」


 門番のおじさんはオレのすべったネタに対し、一切笑わずに真顔・・でそう言っていた。オレは嘘を見抜かれてしまい、動揺してしまったが、誤魔化すため無理矢理言葉を続けることにした。


「や、やだなぁ~、ほんとにこのオレがこの世界の勇……」

「勇者様ご一行なら先ほどここを通り、今は・・王様に謁見えっけんしている最中なのだぞ!」

「へっ? す、既に通った? 王様と謁見の最中? ……あ、あれ?」

(ごめん、このおじさん今何って言った? 勇者がここを通って、今は王様に会ってるって? この物語の主人公であるこのオレを差し置いてなのか?)


 オレは門番のおっさんらが何を言っているのか、理解できずに混乱してしまう。


「怪しいヤツめ! 勇者様の名前を騙るとはなんたる不埒ふらちやからかっ!! 狼藉者め!! これでも食らいやがれ!?」


 ザッシュ!


「いや、だからオレは全然怪しいも……えっ? ……え゛っ゛!? うぐっはっぶはっ……い、いたい、いたいいたいいたいたい!?!?」


 オレはいきなり体を襲った『衝撃』と『痛さ』によって体が九の字となり、体の中心が熱い鉄のようなもので貫かれている感覚になっていた。そしてそのまま目線を下げるとその痛さの原因であろう、右のお腹付近には……なんとが刺さっていたのだ。


「(えっ!? な、何だよこれは!? や、槍だよな? 何でこんなものがオレの腹に刺さってるんだよ? そもそもこれって、門番のおっさんが持ってたやつだよな!? ま、まさか刺されちまったのかよ!?)」


 オレは遅ればせながら状況を理解し、門番のおっさんに槍で刺されたと認識してしまう。


<i262586|21829>

「(~~~~な………ん…で……)ぐはっ……おえっ……っつ」


 門番のおっさんにそう抗議したかったのだが、言葉表現できないくらいの『痛さ』と腹に槍が刺さり、その隙間からポタポタっと音を立てあふれ出す血、そして何より口から出てくる大量の血が溢れだ出し、そもそもまともに喋れなかったのだ。いや喋れないどころか、口から溢れ出す血で口と気道が詰まり満足に息もできない状態だったのだ。


「(くるしいくるしいくるしい!!! い、息ができない息ができない息ができない!!! 痛い痛い!! いたいいたいいたいいたい!!!!)」


 お腹に槍が刺さっているせいで地面に倒れることもできず、ただただ串刺し状態のまま痛さと「何で槍で刺されたんだ!?」っという考えだけが、オレの頭を埋め尽くしていた。


「コイツまだ生きてるのかよ!? ついでにこれも食らいやがれ!」


 ザッシュ!


 隣にもう1人いた門番のおっさんが、まだ槍が1本刺さってるオレの腹目掛けて、槍を突き刺したのだ。2本目の槍はオレのお腹の真ん中、ちょうど鳩尾みぞおちのあたりに深々と突き刺さってしまった。


「~~~~~っっ!?!?!?!?」


 オレは今までに体験したことのない痛さから、もう声すらも……いや、音すら出せなかった。オレに出来る事と言えば、ただただ口と腹の2箇所から大量の血を吐き出すのみである。

<i262587|21829>

「……死んだか?」


 そう言うや否や最初に槍を突き刺した門番のおっさんは、オレの右の腹から勢いよく槍を引き抜いた。


 グチュッ!? 槍が引き抜かれた右の腹から、肉とも血の音とも言えぬ音が聞こえてきていた。


「(~~~~っ!?)」


 オレはもう何も反応できず、ただ悶絶もんぜつするのみだった。


「ふん!」


 グチャッ! 続いて2本目の槍を鳩尾に刺した門番のおっさんも同じく、勢いよく槍を引き抜いた。そしてその槍が引き抜かれると同時に、オレはまるで糸が切れた操り人形のように前屈みにぐにゃりっと地面に倒れこんでしまう。もう腹から出る血を手で圧迫止血する体力すら残ってなかったのだ。


 オレは自らの重さで重力に逆らえずに横へと倒れこんでしまったのだ。勢いがあったのかゴン! と鈍い音だけが耳に届く。どうやらオレは側頭部から地面へと落ちてしまったみたいだ。そして『ざあ~ざあ~♪』っと、まるでオレの耳に海の小波さざなみが何度も海岸に押し寄せるような、そんなノイズしかもう聞こえてこない。


「(お~~~い、不審者が出たぞ! 西門と東門からも応援を呼べ~~っっ!!)」


 門番のおっさんが何かを叫んでいるが生憎オレの耳にはザーザー……っと、気味が悪い砂嵐のような雑音の音ノイズしか聞こえない。



 おいおいなんだよこれ? 

 死ぬときってこんなもんなの?

 昨日までの楽しい日々はどこいった?

 オレを愛してた日常ふつうは?

 本当はオレが望んでいた非日常は?


 天音は?

 葵ちゃんは?

 静音さんは?

 ビッチさんは?

 みんなどこいった?


「…………(パクパク)」


 そう思ったのだが、声が出せない。ただ陸にあげられた魚のように、口をパクパクと辛うじて動かせるのみ。もう既に痛みすら感じることができずにいた。オレはこんな最後は露ほども望んではいなかった。そう思うと自然と目から涙が溢れてくる。


「(チクショー『勇者』だなんて名乗るんじゃなかったなぁ~。でも何でオレが勇者じゃねぇんだよ。大体どいつが勇者……)」


「(おおっ! 応援だけでなく、勇者様一行まで来て下さいましたか!!)」


 2番目にオレの腹へと槍を突き刺した門番のおっさんが、そう言ったのが辛うじて聞こえたような気がした。その声を聞き、途切れる意識をなんとか繋ぎとめる。


「(……ゆ、勇者……だと? 本物・・の……か?)」


 既に一ミリも体が動かず、もうすぐ地面とお友達になる・・・・・・オレは、目線だけを勇者ご一行と呼ばれているソイツへと差し向けた。


「おやおや、これは皆様ご苦労様です。ワタシが来たからにはもう安心ですからね♪」

「おおっ! 勇者殿だけでなく僧侶様も一緒でしたか! これは心強い限りですよ!!」

「(そ、僧侶……誰だよソイツ?)」


 僧侶様と呼ばれたソイツは地面に倒れ、もうすぐ死ぬであろうオレを見下しながらニタニタァ~ッ♪ と楽しそうに笑顔をオレに見せ付けていた。


「(人が死ぬのがそんなに面白いか? 〇〇さん。やっぱお前はクソ・・だよな……)」


 ソイツは艶やかな長い黒髪に全身黒服を身に纏い、右手には武器である鎖付きの鉄球いわゆる『モーニングスター』を持っていたのだ。


「(いや、〇〇さん。それは僧侶が装備できる武器じゃねぇぞ……)」


 じゃらり……ブンブン♪ ソイツはモーニングスターの鎖を鳴らし、そして勢いをつけながらブンブンっと良い音をさせながら振り回し、今まさにオレへとトドメを刺そうとしていたのだ。


『どうしましょう? 今の状況ではとても選択肢が出せませんよ! もし次があるのなら、もっと早く対処しましょうね♪ ま、ないとは思いますがね♪』


 最後の砦である『選択肢さん』にすら拒絶される始末。


「(これがオレの最後だなんて…………)」


「それではまた・・来世で、ですよ♪ ア・ナ・タ・さ・ま♪」


 ブゥン!! そんな良い音をさせながら勢いよくオレの頭目掛けてモーニングスターの鉄球が振り下ろされると、頭を潰され……死んでしまった・・・・・・・


『You are dead.あなたは死にました。またのご利用を心よりお待ちしております(ぺこりっ)』



 これにて第1章『日常ってやつのはこんなもんで終わり』が終わりました。

 第2章『ここからが本当の始まり』第9話へとつづきます。

 野生のお嫁さん候補(お嬢様)の野生っぷりまで……残り53213文字

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