19 力を合わせて
が、すぐにその顔は凍りつくことになる。
「……あの、意気揚々としている所、大変すまないんだがね」
ヨロ王は、申し訳なさそうにおずおずと切り出した。
「君は兵士長なんだろ? ならばこの半年間、どれだけ我が国に例のゴーレムを送ってきたか把握していると思うのだが」
「……あ?」
「つまりだ」
ヨロ王は、片手を遠く見えるゴーレム達に差し出した。
「今や我々は、ことゴーレム退治においてはちょっとしたプロフェッショナルになっているんだよ」
「わああああ! ゴーレムだー! やったー! やっとわかりやすい奴きたー!」
「シャアアアッ!!」
「人間放り投げるのも飽きた所だったんだよ! ゴーレムなら倒していいもんな!」
「ぼおおっ! ぼおっ!」
「いいよね!? いいよね人間さん!!」
「はい! お願いします!!」
「やっちゃってください! スライムさん達!!」
バリュマとゼトの許可も出たので、魔物達は一斉にゴーレムに飛びかかった。最初は倒すのが難しい存在だったゴーレムであるが、半年も経てば流石にコツも掴めてくるものである。炎でカラカラにさせたり、体液で溶かしたり、切断して放り投げたり。魔物は思い思いの方法でゴーレムを捩じ伏せていた。
「ぐっ……! な、舐めてもらっては困る! ここまでは想定済みだ!」
しかし、ノマン王国軍の魔法使い共も負けてはいない。手をかざすと、彼を中心とした半径五メートルが爆炎と共に吹き飛んだ。
「うぎゃーっ! 痛いよーっ!」
「ニャンニャン医療隊、助けてー!」
「にゃー! 今行くにゃー!」
「我慢してるにゃー!」
だが、ニャンニャン医療隊が到着する前に、別の魔法使いが手をかざす。――さきほどの魔法で表皮が剥がれ、コアが剥き出しになってしまった者もいるのだ。次の攻撃が来れば、何体かの魔物は確実に命を落とすだろう。
「ぬううううう、そうはさせんぞ! くらえ! 魔道具“竜の翼”!!」
けれどその前に、やっと魔物軍に追いついたヨロ国研究員デンが魔道具を展開した。水色のバリアが広がり、手をかざしていた魔法使いを丸ごと包み込む。
「はっ……!?」
魔法使いは咄嗟に魔法を引っ込めようとしたが、間に合わなかった。閉鎖空間に取り残された彼は、あえなく自身の爆発の餌食となったのである。
かといって、他の魔法使いが控えていないわけがない。息をつく暇も無く、別の方向から光の槍が降ってきた。
「こ、これは伝説の最上級魔法“神の槍”!? 何故たかが人間の魔力で、ここまでのものを……!」
「デンさん! 後ろ!」
「ぬっ!?」
「大丈夫ですわ! 魔道具“ぽよよんシールド”!」
コロコロとした声と共に、デンとサズ国の奴隷の上にスライムのようなシールドが広がる。それにより殆どの槍は威力を吸収されてその場に落ち、そして残る槍も全て一人の女性の魔法によって打ち払われた。
「……マリリン王女!? マリア王妃!?」
「デン、立って! あの魔法使い達は魔物さんだけでは倒せませんわ! 私達が援護しないと!」
「良かった、怪我は無いようですね? ふふ、安心しました」
「いや、お二人は下がっていてください! こんな危険な場所まで来るなんて……!」
「問題ありませんわ! 私、お母様となら無敵も無敵ですもの!」
「ええ。私達、とても魔力の相性がいいのよ?」
愛らしい巻毛の可憐な乙女と匂い立つような妖艶な美女が、揃ってデンの前に並び立つ。二人の登場に一瞬はギョッとした魔法使い達だったが、迷いを振り払うように一斉に攻撃を仕掛けた。
「マリリン、分かってるわね?」
「ええ、お母様!」
マリリンがかざした両手をマリアが包む。そして、彼女らから眩いばかりの光が迸った。
「魔牙魔牙怒虎威掌(まがまがどっこいしょう)!!」
それは、かつて御伽噺の最強戦士が繰り出したと言われる必殺技であった。あまりにも強力過ぎて普通の人間が放とうものなら人体そのものが破壊されるが、マリアの回復魔法と補助魔法がマリリンという砲台を強固なものにした。そうして怒りの拳によって顕現した聖なる虎は、辺り一帯の邪悪なる敵を瞬く間に一網打尽にしたのである。
「……やはり、ノマンから力を分け与えられていましたか」
しかし、そんな強力な攻撃を受けてなお、魔法使いのほとんどは倒れていなかった。露出した彼らの胸部に埋め込まれた、漆黒の魔力水晶のせいである。
「お母様、あれは……!?」
「……恐らく、ミツミル国の力の宝珠から一部を移されたのでしょう。ああ、なんて無茶を」
「ヒヒヒッ、心配ご無用。我々は望んでこの姿になったのだ」
憐憫の目をする王妃に、一人の魔法使いは顔を歪めた。
「ノマン様の理想の礎となる為、我々は選ばれ導かれた! 羨望されこそすれ、憐れまれる理由など無い!」
「……そうですね、たった一度の人生ですもの。自分の物差しで他人の幸福を測るなど、下品極まる行為でしたわ」
「おお、分かってくださるか」
「ええ」
胸に埋まる魔力水晶が鈍く光り、マリア王妃らに再び光の矢が放出されようとする。だが、彼女らは悠然とそこに立ち、逃げる素振りすら無かった。
だから、最初魔法使いは彼女らが力を使い切り諦めたかと思ったのだ。
――四方八方から、魔物が襲いかかってくるまでは。
「よくもやってくれやがったなー!」
「うななななななーっ!!」
「今度はこっちの番だぜぇーっ!! やっつけるぜーっ!!」
「ホビャビャビャ!!」
「なっ……!? 貴様ら、大怪我をしていたはずじゃ……!」
「ワシが治した」
「ああっ!?」
魔物の向こうに見えるは、ちんくしゃの顔をした猫の魔物。一回り小さい猫達とデンに担ぎ上げられ、偉そうにピンピンと髭をいじっていた。
時間稼ぎであったのだ。マリリンとマリアは、たかが魔物の回復という時間稼ぎの為だけに、伝説の大技を使ったのである。
青ざめる魔法使い達の一方、マリリンは魔物達に向かって声を張り上げた。
「魔物さん達! 人間の体にくっついてる黒いやつを狙って壊してください!」
「黒いやつ!? これ!?」
「ぎゃあーっ!」
「よし! 大ダメージですけど死にはしない感じですわね!」
「大丈夫ですよー! 魔物も兵士も、死にそうになったら私とブーニャ様がみぃんな治しますから! 皆さん、存分にやっちゃってください!」
「イェーイ!!」
「分かったー!!」
「にょにょにょにょーっ!!」
――まるで、一足先に地獄を見たようだと。
ゴーレムと仲間がバタバタと倒れていく光景を目の当たりにした一人の魔法使いは、後にそう語っている。
「おい、なんか鳥が入ってきたぞ」
ヨロ国にて。一度城内に戻ったミツミル王リータは、ベロウの言葉に足を止めた。
「ぬぬ!? シッシッ、来るんじゃない! 王は疲れておるのじゃ!」
「待って、クリスティア。この鳥、ルイモンド参謀長の使い魔だ」
リータは人差し指を差し出し、止まり木になれるようにする。所々毛の抜けた赤い鳥は、へろへろとそこに掴まった。
「……ん、何か紙が括り付けられておりますの。何何……?」
クリスティアが紙を取り、文に目を走らせる。それを後ろからリータとベロウが覗き込んだ。
だが、それを読むや否や、三人は顔を見合わせ走り出した。リータの足は遅いので、途中ベロウが腰から担ぎ上げたが。
「ま、間に合いますかね!?」
「うるせぇ、日頃のお前の行い思い出して祈ってろ!」
「まあチンピラの日頃の行いで帳消しだがの。誰よりおぬしが祈らんかい」
「ババァー!! 頑張って祈ってるわババアーッ!!」
そして三人は、とある部屋に駆け込んだのである。
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