11 決意
「ベロウ!」
彼の登場とその言葉に、ピィは目を輝かせた。
「心当たりとは何だ!? ぜひ詳しく聞かせてくれ!」
「へへん、あたぼうよ!」
隣にいるリータに気遣われながら、ベロウは胸を叩いて請け負う。よく見ると、彼の足元にはニャンニャン医療隊の数匹が纏わりついていた。どうもこのチンピラは、やたら子供や動物に懐かれる性質らしい。
「なぁ嬢ちゃん、昔俺がクレイスと一緒に暮らしてたって話は、さっき水晶玉越しに言ったよな」
「ああ」
何その話聞いてない、という顔をしたのはリータである。でもピィは聞いていたので、先を促した。
「そん時にクレイスが言ってたんだよ。無限の泥の枷を嵌められた“先生”を助ける為に、ノマンを殺したいっつってさ」
「無限の泥の枷?」
「えーと、なんかね、そもそもその無限の泥ってのが、命令した奴の思い通りの形になるアイテムらしいんだけどな。その泥で作った枷をつけられた奴は、主人の望む単調な動きを永遠に繰り返させられるんだ」
なるほど、彼の師であるダークスらはサズ国の奴隷である。彼らを思うがまま操るには、まさにぴったりな道具だが……。
「……その話が何故、ノマンを殺すことの心当たりになるんだ?」
「ああ、実はこの無限の泥ってやつがな、命令を下した主人が死ぬか、命令を撤回するかまで外れることはねぇそうなんだよ。んでも、ノマンは不老不死だろ? だから殺すしか手がねぇってクレイスが言ってたんだ」
「……じゃあ、なんだ。泥に侵されるルイモンドを救うには、ノマンを殺さねばならないってことか」
答えに辿り着いたピィに、ベロウは頷く。
「そうだ。んでもって、ノマンを殺す方法は多分クレイスが握っている。あんだけ近くで仕えてきたんだからな、見当をつけてなきゃおかしい」
「……」
「だからあのガキに聞きゃあ一発解決ってワケよ! ってことで嬢ちゃん、未来の旦那サマとの喧嘩は終わったか?」
「……」
「……え? 何この沈黙」
ピィとガルモデ以外は、クレイスがノマンを裏切ったことを知らないのである。ピィは手っ取り早く、当時のことを皆に説明した。
「えー!? 何やってんのアイツ! なんでかっこつけて死にそうになってんの!? 馬鹿じゃねえか!」
「し、師匠……」
「せっかくここまでやってきたのに、何肝心な所でやらかしてんだよ! やっぱり初恋拗らせやがって!」
まるで自分のことのように悔しがるベロウである。そんな彼に、慌てて弟子であるリータは取りなした。
「で、でも、これでクレイスさんが間違いなくこちらの味方だと皆さんに証明できましたよね。だって、そこまで身を挺して魔王様を守られたんですから」
「ああ、その通りだ」
リータの発言に、ずっと黙っていたガルモデも同意する。
「そんでクレイスの裏切りを疑ってたのは、ノマンも同じだったんだろうな。あの泥も、元々はクレイスを呑む予定のモノだったと俺ぁ睨んでるよ」
「そういやお前、帰る途中にもそんなことを言ってたな。でもクレイスは鎖を泥人形につけていたんだぞ? 鎖がある限り、泥人形はあいつの支配下にあったんじゃないか?」
「微妙だな。鎖ってなぁ、あの時床に落ちてたアレだろ? 俺が見た時には、もう何の魔力も残って無かったぜ」
「……!」
「ノマンは、途中で魔法の効力が消えて鎖が砕けるよう調整していたのかもしれん。もっとも、これも俺の想像だけどな」
だとしたら、クレイスはノマンを裏切らずともあの場で消される可能性があったというわけである。いや、消されるというより、ノマンの望む戦闘兵に変えられかけたと言うべきか。
それはそれとして、皆ガルモデがいつに無く知的なことを言っていることについて非常に驚いていた。空気的に誰も言い出せなかったが。
「……なぁ皆の者、聞いてくれるか」
だが、これでいよいよ自分達の取るべき道は決まっただろう。ピィは、ぐるりと皆を振り返った。
――泥に命を脅かされたルイモンドと、ノマンを裏切ったクレイス。加えて、自分たちを取り巻く状況。それらを鑑みた上で、彼女は断言した。
「これここにおいても、我々の目的は変わらない。即ち、ノマン王の打倒だ」
「……」
「聞いての通り、奴は同胞をおぞましき兵器に変え、世界を蹂躙し尽くさんとしている。このまま奴を野放しにすれば、間も無く我らの国と民は不気味な兵に押し潰されることだろう」
マリリンの目が不安そうに揺れる。ネグラはぎゅっと拳を握る。それでも、ピィは続けた。
「……こんなことが許されてはならない。決して、決して受け入れてはならない。ノマンを受容することは、我々の民や血肉を生贄にするも同然だからだ」
強い言葉に一同は頷く。ピィは、皆に向かって一歩踏み出した。
「だが、今やノマンは吾輩以外全ての宝珠を集め、極限までその力を強めてしまった。そして唯一奴を殺す手段を知るクレイスも、今は奴の手の中である。……率直に言おう。クレイスが死ねば、我々は一気に“詰む”のだ」
ピィの燃える緋色の目が、ガルモデ、マリリン、ベロウ、リータ、ヒダマリ、ネグラ、そしてルイモンドに向けられる。そして彼女は胸を張り、堂々と宣言した。
「故に吾輩は、今より全力をもってノマンの手からクレイスを奪還する! 頼む、皆の者! 全力をもってこの策に協力してくれ!」
誰も異論を唱える者はいなかった。まるでピィの火が移ったかのように、皆の目は燃えていたのである。
第6章 完
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