少年は学園に赴く
王城から歩いて十数分、王都の街並みを楽しみながら石畳の道を歩いていくとそれは見えてきた。高さ三
今日は学園は休みとのことだったが、学園に用事がある生徒なのか、少なくない数の生徒が学園を出入りしていた。
「うわぁ……。凄い広いんだね……」
それが僕が初めに思ったことだった。思わず声が漏れるほどに広大な敷地なのだ。正面には巨大な棟が二つ、右には正面に見える建造物と同等の大きさのドーム状の建物が見える。
左手側にもこれはまた巨大な建物が見え、また左手側には何やら巨大な門のようなものも立っている。それぞれの建物へと続く大道が十字に伸び、道の脇はそれぞれがグラウンドとなっており、計四つのグラウンドが学園には存在した。
「正面に見えるあの大きな二つの建物、あれは学習棟です。座学などの授業は全てあそこで行われています。右に見える屋根が円蓋状になったあの建物は傷付いても闘いが終われば即元通りになる特殊な結界が張られた修練場です」
「へえ、そんなものまであるんだね」
「おうっ! うちの学園では結構実技の授業もあるんだけど、大半はその辺りのグラウンドを使うんだ。でも、実戦練習や毎年行われる闘技祭なんかにはあの修練場が使われるんだ」
なるほどな、闘技祭なんてものもあるのか。可能なら僕も一度見てみたいものだ。
二人の後を追い、学習棟へと向かっている最中に僕は気になっていた左手側の大門を指差し、二人に尋ねた。
「ねえ、気になってたんだけどあの大きな門は何なの?」
「ああ、
「
「はい、
それらを乗り越えて最奥に辿り着くと、その
何でも王都に学園が立てられたのは
「で、因みに隣のでかい建物は図書館だ。何やら魔導書なんかも取り扱ってるらしい。まあ、俺は本なんて読まないから行ったことないんだけどなっ!」
「あはは……。確かにグレイは読書してるイメージとかないな」
話している間に学習棟に着いた僕達は二人の案内で棟内を周った。二人と色々な所を周るのは楽しいが、やはり学校というものには良い気持ちしなかった。
「どうかしましたか? なんだか先程からあまり表情が曇っていますが……」
気付かない内にどうやら表情に出てしまっていたらしい。僕はぎこちなく笑みを浮かべながら
「あ、大丈夫だよ。僕、学校っていうものにあんまりいい思い出が無くて……。でも二人と一緒に校舎を周るのは凄く楽しかったよ」
「本当ですか、良かったです」
僕とエミリーが話していると、一歩後ろを歩いていたグレイの唸り声が聞こえてきた。首を振り返らせ、後ろを見て見るとグレイは腕を組んで歩きながら何かを迷っているようだった。
「どうかした?」
「ん? ああ、学習棟の案内はこれで一通り終わっただろ? あと残ってるのは図書館と修練場、
グレイはそう言いながらちらりとエミリーのことを窺った。エミリーは少し考え込むようにすると僕の方を見た。
「……ジン君は
「僕? 僕は……」
正直に言えば入ってみたいんだけど、エミリーは何だか入って欲しくなさそうな雰囲気を醸し出している。それとは逆にグレイの方は後ろから入りたいって言え、と小声で僕に訴えかけているし……。
少し悩んだ末に僕は答えた。
「
「そうですか……」
「よっしゃっ!」
喜ぶグレイと沈んだエミリー、後でエミリーには謝っておこう。でも、エミリーには少し悪いけど
魔物を狩っている際にアレクから度々
なので、いつかは行くことになるとアレクから話を聞いていたがまさかこんなに早くその機会が訪れるとは思ってもいなかった。
どうやら
「ジン、今のお前の実力ならば上層の魔物であれば問題無いだろう。他に二人のパーティーメンバーもいるようだしな。だが、間違っても上層よりも先、中層に降りようなどと考えるな。確かにジンの実力は飛躍的に伸びている。だが、まだお前はLVもステータスも低い、今の状態で中層に向かえばまず間違いなく死ぬだろう」
死、これまで遠い存在だと思っていたものが身近に存在している世界。魔物と戦うようになってその実感が最近では湧いてきた。
僕が頷くと、アレクも満足気に笑みを浮かべ、頷き返した。
「お待たせしましたーっ!」
「悪ぃっ! ちょっと説得すんのに手間取った!」
戻ってきた二人はそれぞれが武器を持っていた。
エミリーは腰に二振りの剣を、グレイは拳にガントレットを嵌めている。
「えっと、ジン君がどんな武器を使うのか分からなかったので色々と持ってきました」
よく見ればグレイとエミリーの背には籠のようなものが背負われており、中には様々な武器が入っている。それに、皮製の軽い防具も持ってきてくれたようだ。
「わざわざありがとう。持ってきてもらって悪いんだけど、武器なら持ってるんだ」
僕は【アイテムボックス】を使用し、ガレスさんに貰った直剣を取り出した。やっぱり何度見ても美しいと思える、蒼い刀身に映える金色の模様。一点の曇りもない刀身は陽の光を浴びて、輝いている。
見る者の目を奪い、魅了する程の美しさ。エミリーとグレイもこの剣のことを凝視していた。
「凄く……綺麗な剣ですね」
「ああ……こんな業物、王城の宝物庫にも無いぞ。なあ、この剣は誰に打ってもらったんだ?」
「それは……ごめん、言えないかな」
ツヴァイ様から聞いた古の大戦の話。あの話に出てきた王の右腕、技術王ガレス・デトロイトというのはほぼ間違いなく僕の知っているガレスさんのことだろう。
古の大戦の英雄が生きていると知られればどうなるか分かったものではない。それに、ガレスさんは自分の認めた相手にしか装備を作らないと言っていたし、グレイには申し訳ないけど名前を出すわけにはいかないだろう。
「そうかぁ……それじゃあこの剣の名前を教えてくれよ」
「名前?」
僕が首を傾げると、グレイにその剣に対して【鑑定】を使ってみろと言われた。剣に対して【鑑定】を使うと確かに剣の名前や、情報が表示された。
蒼魔剣“マギア・インディクム”
等級:
系統:
技術王ガレス・デトロイトによって打たれた一振り。蒼魔鉱石と呼ばれる秘境の地でしか採ることの出来ない希少な蒼白い鉱石を精錬した蒼魔鋼を鍛え上げ作られた。蒼魔鋼の特性である、魔力を吸収するという特性を持っている。
効果:魔力を吸収する 魔力を貯蓄する 魔力を放出する
へえ……そんな名前だったのか……。それに三つも能力を持っている。これだけ見ていると分かり難いけど、
「マギア・インディクムっていう名前みたい」
「おおっ! なんかかっこいいなっ! まあ、俺は剣よりもこっちの方が好きだけどな」
そう言ってグレイは両手に嵌めたガントレットを打ち付けた。ニカッと笑うとグレイは一歩前に出る。
「それじゃあ
「うんっ!」
「あ、少し待ってください。先にこのパーティーでの個々の役割を決めておきましょう。私は遠近両方で戦えますし、適正魔法が水と風なので支援魔法も使えます。なので、どの
「俺は近接戦だけだな、魔法は火と風に適正があるが、俺は自分を強化する付与魔法とかしか使えないぜ」
「僕も基本的に
僕がそう言うとぽかんとしたような表情を浮かべた。僕が「どうかしたの?」と聞いたら二人の止まっていた時間が動き出した。
「え、ジン君魔法適正が五属性もあるんですか!?」
「う、うん」
「凄いなっ! 俺初めて見たかもしれないぞっ!」
「それなら
これもまたアレクに教わったことだけど、パーティーを組んで戦う場合はメンバーの数にもよるけど基本的に四つの
一つ目は敵に攻撃を与え、ダメージを稼ぐ
二つ目は敵の
三つ目は味方を回復し、状態異常などを治癒する
四つ目は味方に能力向上の補助魔法をかけることは主とする
以上の四つの
それでも二人共僕なんかよりも強そうだし、問題は無さそうに見えるけど。
「それではいきましょうか」
「うん」
「おうっ!」
エミリーが
グレイを先頭にして、僕達は光の中へと進んでいった。
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